5.チュートリアル・2
戦闘方法は、俺たちの場合かなり単純で。
強い攻撃をぶっ放すという、魔力任せの攻撃がほとんどである。
相手に幻惑を見せるだとか、防御の加護を減少させるとか、そういった魔法はほとんど使わない。……というよりも知らない。
何故なら、チカラ任せで勝ってきた二人だからだ。
まぁだからこそ俺は……、正面からメアと戦うしか無くて、一度負けてるんだけどな。
と……言っても。それもすでに過去の話だ。
今の俺はルーリーとの戦いを通して、一度は『本気の出し方』というものがわかっている。
体が知っている。
だから。
あのときの強さには届かなくとも――――
「ふっ!」
「オラァッ!」
今のメアと同程度の魔力を、使うことはできるわけで。
「おっ♪」
互いが放った火炎放射器のような炎の渦は、左右同時にルミエラに襲い掛かり、その身を焼き尽くす。まぁもちろん加護があるから……、本当に体が焦げることも無いんだろうが。
「熱っちち、やるね~リョー……――――、ッ!」
俺の名前を言い終わるよりも早く、メアの、魔力を帯びた拳が襲い掛かる。
魔力弾を乱射することが多いメアだが、魔力をその身にまとった格闘術もお手の物だ。
「これに関しては、マジで俺との動きが違いすぎる」
身軽な体で素早く動き、ぬるぬるとした動きで連続攻撃を繰り出す。イメージとしては中国拳法のような、太極拳のような。そういう類のものだ。
拳、足払い、裏拳、双掌、前蹴り、かかと落とし、大振りの殴り込み――――を、フェイントにした回し蹴り。
それら一つ一つが、岩石を砕けるレベルの威力を持っている。魔力全開なら、もっと凄い威力だっただろう。……というか、すごい威力だった。身をもって知っている。
「で――――俺も魔力をタメて……、と。メア! 離れろ!」
「ギャギャギャッ!」
ルミエラへの無限にも思えた打撃技に、一気にストップをかけその場を離脱するメア。
そのタイミングで、俺は魔法名を口にする。
「二十番……っ、『軌道残らぬ光球』――――!」
俺の両腕から、ルミエラに向かって光の玉が二本、飛んでいく。
威力としてはそこまで高くないが、チャージ時間が長ければ長いほど速度が上がるという、デコピンのような光魔法だ。
元々使用していたエルケトくんは、魔力の仕様に長けていないゴブリンだったため、そこまでの威力にはならなかったのだが……。
俺の魔力量で放つと、辺り一面に爆熱が広がるという、とんでもない爆発を引き起こしてしまった。
「おぉ、すげえ……」
十分に距離をとったと思っていたメアのところにまで、爆風がかかる。
メアも意外そうに、少しだけ驚きの表情を漏らしていた。
「エルケトくん……、どこかで元気に暮らしているといいけどな……」
無機物フェチのゴブリンのことを思い出しながら、ちょっとだけ感慨深くなる。
そういえば「今アツイのは爪切りッスよ!」と熱弁していたなぁ……。まったく理解してあげられなかったけれども。
「うーん、なかなかやるなぁ~……」
俺の放った閃光魔法。
その煙の中から、ちょっとだけ服を焦がしたルミエラが顔を出した。
……少しはダメージを与えられているだろうか。
「……とりあえず、イイ感じっぽいよな?」
「ギャギャギャ、さすがはワタシの魔力なだけはあるな」
なるほど。
想像以上の威力が出ているのは、そういった理由か。
「お前の魔力は普通の冒険者たちと違って、『純度』が違う――――んだっけ?」
俺も詳しいことはわからないのだが、同じ色がついている水でも、泥水と色水くらいには違うと言っていたか。
流れ方。循環の仕方が違うのか。……まぁそこにどんな違いがあるのかはわからないが、ガソリンのレギュラーとハイオクみたいな違いだと理解している。
ハイオクで放つ魔法は馬力が桁違いということなのだろう。
さすがは、元女神のルーリーが奪おうとしたチカラなだけはある。
「いや~……、イイネ☆ 容赦ないねぇ~」
煙の中からけほけほと咳をしながら、ルミエラはこちらへ近寄ってきてこう言った。
「ね~ね~、メアっちー。
優しい優しいルミエラお姉さんとさぁ~……、賭け、しな~い?」
「あん? 賭け、だァ?」
戦闘開始から三分ほどが経過。
ルミエラは楽しそうに、人差し指をぴっと立てて言った。
「うん! ギャンブル☆
そっちも、ただ単純なチュートリアルやってても、面白くないっしょ~?」
そう言ってルミエラは、小休止と言わんばかりに岩の上に腰掛けた。
……一番最初の不意打ち気味な一撃もあるから、気は抜かないようにしておこう。
「……ふむ、聞こうじゃねーか」
「お、おいメア……」
「聞くだけだよ豚ァ。
たしかに、ただ普通にクリアしたところで、面白くはないと思ってたんだよなァ」
うーん。
まぁそれは、俺も思ってはいたことだ。
この一分間ほど打ち合ってみて思ったが、やはり二対一だと、いくらチカラに制限をかけられているとはいえ、このまま押し切れてしまいそうな実力差だ。
向こうもまだ全力を出してはいないとは思うけれど、こちらだって三割くらいで様子見の牽制をしている。
おそらくこの後。
片を付けるために一気に動けば――――、こちら有利でルミエラを制することができるだろう。
「それじゃあ聞くだけ聞いてチョ☆ 賭けの内容としてはネ~……、」
ルミエラは人差し指を立てつつ、ウインクを飛ばして言った。
「一つ目。
まずそっちは、メアっち一人で向かってくることが条件かな」
「メ、メア一人で……?」
「ほう」
「うん。……もともとリョーチンとメアっちの実力を見れればそれでいいやーって思ってたからサ~。
こっからは、ちょっとしたボーナスゲームみたいなものってことで」
な、なるほど……。
しっかりと俺とメアの値踏みもしていたわけか。意外と抜かりないなこの人(神)も。
しかし前提としての、二体一なら楽に押し切れるというところが、いきなりなくなってしまったな……。大丈夫か?
「ただ……、そうだね、これが二つ目」
今度は中指を立てて続ける。
「今の出力じゃあ大変そうだからぁ、リョーチンから何パーセントか魔力分けてもらってもイイよ~」
「ふむ……」
ルミエラの言葉にメアは小考する。
なるほど。俺の魔力分配は、戦闘中でももちろん使うことができるわけで。
今は……、
『メア・五十 : 俺・五十』
という風に分けているが、それを『メア・二十 : 俺・八十』とか、逆に『メア・九十 : 俺・十』とかにすることもできるってことだ。
「そんで。これが三つ目」
薬指をぴっと立て、ルミエラは少し挑発的に言う。
「『五パーセント』増やすごとに、地上での金貨を一億こっちにちょうだい?
けれど~、そっちが無事にアタシを倒すことができた時点で、五億アゲル」
「えっと……、つまり……、『二十パーセント増しまで』にルミエラを倒すことができれば、こちら側が一億の儲けって感じか……」
「ワタシらが持っている金貨は現在七億くらいだったか?」
「だな」
実は先日。
ルーリー封印の謝礼として、天界側からは四億もの金貨を報酬としていただいているのである。
それまでにも、地上のヤバいやつらの討伐なんかで三億持っていた。
宿泊費や装備品なんかもそこまで贅沢をしていないというのもあり……、ありがたいことに、金銭は増える一方だったのである。地上で生きていく分には、大富豪レベルだ。
「最後にもう一つ。
『リョーチンのところに、魔力をつぎ足しに戻る』と一億マイナス」
小指を立ててそうルミエラは続けて、以上かなと締める。
「俺のもとに戻るっていうのはつまり……、仮に六十パーセントのチカラを現在持っていたとして、それだと敵わないと思ったときに俺のところに戻ってくるっていう行動のことか?」
「だね。
そこで七十パーセントに増やしてもらうとマイナス一億。さらに足りなくて八十パーセントともらうと、更に一億と増えていく……ってカンジかな」
ルミエラの言葉をかみ砕いて理解して――――俺はちょっとした、ヤバさを感じていた。
女神と、金銭を賭けたやりとりか……。
とてつもなく嫌な予感がする。
ルミエラは……、何だろう、怖い感じはあまりしないのに。
どこかこの賭け……、もっと言えば、この契約は。明確に何とは言えないけれど。
メアとの相性が、悪い気がする。
そんな悪寒を、ゾクリと感じた。
「メア、なんだかわからないけど、受けないほうが良い……」
んじゃないかと、俺が言い終わる前に。
メアはルミエラと話を進める。
「なるほどな……? つまり……、魔力の出し入れの、細かな調整ができないってわけだ」
「そ~いうこと。
実践でも、いちいち魔力分配しにリョーチンのところに戻れるとは限らないっショ? それの練習ってカンジ?」
「いいぜ、受けよう。
豚ァ、――――まずは十五パーセントよこせ」
「うおい、メア!?」
だめだった。
メアはもうすっかりやる気だ。
……それに、女神の提案に頷いてしまった。
この時点で何であれ、契約は完了している。
「く、くそ……!」
俺は急いでメアの背中に手をあてがい、魔力を丁寧に、しかしちょっとだけ急ぎで注入していく。
六十パーセント……、六十五パーセント……! これ、くらいか?
「……~っ!」
わずかにメアはビクンと揺れた。
魔力の波を身体に受けたこともあるのだろうが。
どちらかというと――――闘争本能。
これから、より強い力を振るえることに対しての、歓喜の武者震いだ。
「いきなりド派手にぶっ放してやる。それで終わりだ」
そんな風にメアは、戦闘狂ならではの歓喜を示した。
「オッケー……。契約アリガトね~、メアっち。
あぁそうだぁ……、レートアップはいつでも受け付けるから~♪」
今度は。
明確に挑発するようなルミエラの言動。
それに対してメアは、静かな、だが確実に殺意を込めた声で、応えた。
「……ギャギャギャッ!
なら、今この瞬間からッ!」
両の手に、魔力が収束される。
「三倍だッ!!」
叫ぶと同時。
メアはその両腕の先から。収束された魔弾を発射した。
放たれた闇の魔力は、あたり一面を黒く染めたかのように強大で。
ルミエラを包み込むように、彼女へと飛来していった。
そして――――
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