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4.チュートリアル・1



 こうして、チュートリアルが開始された。

 メアと俺――――と、対峙するルミエラさん。


「ルールを説明するワ~。

 まず、こっち側はアタシ一人。そっちは二人でどーぞ」

「……良いんですか?」

「モチのロンよ☆ 全然オッケー」


 使ってくる単語がちょいちょい古い気がする……。ギャル語というより、オッサンくさい。

 まぁいい。

 二対一。

 これだと俺たちのほうが、余裕で勝ててしまいそうだけれど……。


「プラスルールとして、そっち側はアタシを倒さなくてもいいワ。

 アタシの猛攻を掻い潜り、後ろに居るサリエナにタッチすればオーケー。ま、人質解放ってところだね~」


 サリエナさんを見ると、先ほどメアに好き放題されたときと同じような、拘束状態になっていた。


「何で!?」

「フフ……、私は人質ということですからね。

 人質は拘束されているのが常道。さぁ……、見事ルミエラの攻撃をかわし、私のおっぱいにもう一度触れなさい」

「行為自体は正しいんだろうけど言い方!」


 目隠しのついでに猿轡もかませてやりたい。下手に口を開かせない方が良い気がする。

 俺らのやりとりを後ろで見ていたメアは、愉快そうにギャギャギャと笑っていた。


「やっぱ最高だなァ、メガネ女神! 略してメ神!」

「イイジャ~ン! さすがサリエナ。雰囲気アガる~☆」

「やっぱちょっとだけ言語古いよなぁ!? 何か一昔前の、懐かしさを感じるんですが!」

「ま、元々はこんなカンジじゃ無かったしね。我慢しててチョ」


 別に良いけどさ……。

 スーパーモデルみたいな外見から飛び出る言葉として、認識齟齬を起こしそうになるんだよなぁ……。

 荒廃した土地に似合わない、明るくアホな会話が響き渡る。

 緊張感を……、一応持っておかないとな……。


「というか……、勝たなくても良いっていうのは……?」

「まーまー。だってリョーチン、魔力配分しての戦闘は初めてっショ~? 今までは思う存分メアっちのナカに思いっきりぶちまけてたんだもんね~?」

「い、言い方がさっきから際どいっすわ!」

「ホントのコトっしょ~?

 んで……? これでもハンデ足りないカンジ?」


 口元に中指を当て、少しだけ挑発するようにこちらを舐めつける彼女。


「いやいや、十分すぎるというか……」

「モノは試しだ。やってみるぞ豚ァ」

「まぁ……、いいか……」


 チュートリアルってことだしな。

 つまりは、難易度はかなり軽めにしてくれたってことだろう。こういうのはゲームとかでも、大体は一瞬で終わるものだし。

 その、『魔力配分』とやらを俺が実感できれば、ほぼほぼ終了と見ていいだろう。


「それじゃ、開始しよっか~。

 まずはリョーチン、魔力の分配を決めちゃって」

「う、うっす……。えーと……、普通に『魔ッサージ』する要領で……」


 両手をメアの肩口に当て、施術っぽいいつもの体勢をとる。

 と、とりあえず五十パーセントずつでいいかな?


「今の魔力分量のイメージは~、リョーチンが九十九、メアっちが一ってカンジになってんのね」


 メアのチカラめっちゃ取り上げられてるじゃん。

 どんだけ危険視されてんだ。わかるけど。


「だから~、リョーチンの中に入ってる魔力をメアっちに必要な分だけ入れてアゲル――――みたいなカンジ?」

「そ、それじゃあ魔力を……、約五十くらい入れてみるか……」


 細い肩に手のひらを当て、その先から魔力を入れていく。

 よし――――、いけっ!



「あがばがばぁぁぁぁあああッッ!?!!!!?」



「え、な、何っ!?」


 魔力を五十くらい放出した直後。

 メアが今まで聞いたことの無いような声を上げた。

 嬌声くらいは覚悟してはいたが、その声はアカン。


「……ッ、つ……、(つえ)……っ、え……っ! ひ、ぎっ……!」


 全身を痙攣させ、びくびくとその場で打ち震えるメアの小さな矮躯。

 伏した後もなお、明らかにヤバいダメージを食らった喘鳴音をもらしていた。


「いやいやリョーチン~……、いきなし激しすぎっショ~?」

「えっ! 何が!?」


 こちとらほとんどコレを使ったことが無かったから、正直力加減が分からないんだよ!

 しかもエロいことになるどころか、軽く猟奇的な感じになっちまってるし!


「う~わ、マジ……? いきなり激しくイかせちゃダメって、学校で教わんなかった?」

「何の話をしているのかは分からんが、学校では教わらないかなぁ!」


 たぶんそういう行為の話だよな!?

 保健体育で、行為の内訳までやってたまるか!

 あとコレ、そんなエロスを感じる様な流れじゃないから!


「快楽も一気に流し込まれりゃ痛みに変わるって。エグイよリョーチン。

 激しいのばっかりやってると、クセになっちゃうから!」

「意味合いがいちいちおかしくなる言い回しはやめよう!」

「あ、リョーチン。そんな感じで、そもそも敬語無しでオケまるだからね~」

「今!? 今このタイミングで言うこと!?」

「遠くから失礼します、魔王。私にも敬語を使わなくて結構ですので。

 敬語で話されると、まるで信仰対象みたいに思われて嫌ですから。もっと距離をとっていきましょう」

「こっちは辛らつだなおい! そしてサリエナさんは、何でご丁寧に目隠しまでつけてんですか!

 ……あぁもう! ツッコミが追いつかねえよ!」

「ぐぼぉ……、さ、騒がしいぞ、豚ァ……」


 わちゃわちゃわちゃわちゃ。

 そんな感じで、まだ一歩も前に進めていないチュートリアルは。

 もうちょっと長引きそうである。


 誰だよすぐ終わるって言ったヤツ。








 とても残念な(ありがたい)ことに。

 俺が『魔ッサージ』をするさいに作用する性的なエネルギー。

 その効力は、取っ払われた。


「リョーチン下手すぎ。本来なら気持ちよくなるためのものなのに、これじゃあメアっちが変な性癖植え付けられそうで見てらんないからネ~」

「ぐ……、魔法の話。魔法の話、だよなぁ?」

「そ~いうのはサリエナとか、開発されてて大丈夫な子とかにやってアゲてね」

「魔法の話だよなぁ!? おい、首を縦に触れぇ!!」


 そんなこんなで。

 魔ッサージは、ただの魔力譲渡魔法となりましたとさ。

 いや、別に良いんだけどな……。ただ、どうエロいことが起こったのか(そもそも現象として起こったのか)は、分からずじまいになっちまったわけだ。


 気を取り直してチュートリアル再開である。


「よし……、それじゃあメア、……入れていくぞ」

「オゥ、きやがれ」


 魔力を、背中から少しずつ送っていく。


「そーそー、雰囲気作って~。いいね~、そうそう、もっと優しく触ってあげようか~……。もうちょっと強くー……、そしてちょっとだけ激しくー……。

 いいよー……、とてもイイ感じ……」


 魔力を、送って……、


「じゃ……、一枚脱いでみようかー……?」

「だーもう! 邪魔だよルミエラっ!」


 魔力を慎重に送りつつ、俺は横ではやし立てるルミエラに文句を促す。

 何で悪徳カメラマン(偏見)みたいなことを言ってんだこいつは!


「だってリョーチン、プレイが下手クソそうなんだもん~」


 口を尖らせてルミエラは悪態をついた。

 ……うるせえな。そりゃ経験ねーよ、悪かったな。

 いや、そうじゃなくて!


「『魔ッサージ』から性的なアレコレは取り除かれたんだろ!? だったらそういうのはいらないだろもう!」

「あ、じゃあ前の仕様だったら雰囲気作ってたんだ?」

「ぐ……! そ、そういう話は今してないだろ……!」

「豚はたぶん下手くそだぞ。愛があってもカバーできないくらいには、下手だと思う」

「うるせえなメア!? お前はどっちの味方なんだ!」

「ワタシは自分だけの味方だ。

 好きだけど、味方してやるとは限らんからな」

「いけリョーチン! そこで生意気な口を塞いでやれ!」

「あぁもううるせええ!!」


 息も絶え絶えになりながら、言葉の群れを追い払う。


「と、とりあえずこっちはそろそろ終わりそうだから……、そっちも戦闘の準備とかしてろっ!

 一応チュートリアルだろうけど、怪我とかするかもしれないだろ!」

「へいへ~い。

 んじゃあ、終わったら声かけてね~ん」


 俺の怒声を軽くいなし、ひらひらと手を振って離れていく彼女。

 サリエナさんは拘束された(セルフ拘束だが)状態で、「ふわ~あ」とあくびをしていた。

 ……あの人真面目そうに見えて、意外とユルめなところあるよな。

 仕事モード以外は、結構自堕落だったりするのだろうか。


「よし、それじゃあ……、注入!」

「――――ぉ、」


 やや背中から魔法効果の光が発せられる。

 メアの全身に刻まれている、普段は見えなくなっている紋章が一瞬だけわずかに光る。


「お……、うまくいったっぽいな。

 ……どうだ、メア。魔力のほうは?」

「ん……、だい、大丈夫、そう……だな」


 魔力注入によって身体がやや過敏なのか、やや身震いしながら応えるメア。

 ただまぁしっかりと話せてもいるから、おそらく上手いこと魔力は入っているのだろう。


「ふむ……、なるほどなァ……? 確かにコイツは、弱体化してやがる」


 手を握ったり開いたり、細かく身体を動かしつつメアは言う。

 魔力が今までよりも少ないということは、身体を機敏に動かせるかどうかなど、身体機能にも関わってくる。


「そ、そうなのか? 俺はあんまり実感沸かないけど……」


 確か今は……、百のチカラが半分ずつだから、本来のチカラがの五十パーセントずつが備わってる感じなのか。

 でも正直俺の感覚としては、そこまで変わったようにも思えないけどなぁ……。これまでが九十九だったってことは、約半分になってるわけだろ?


「師匠はそもそも……、全力を出したのが、つい最近の一回だけだったからなァ。

 元々が今の、魔力半減くらいの状態だったんだ。そのせいで実感は少ないのかもな」


 俺の不思議そうな表情を読み取ったのか、メアはそう応えて「だから」と続ける。


「気をつけろよォ、豚。

 今の状態よりも更に上のチカラは、ほぼほぼ出せないんだからなァ」


 なる……ほど。

 今の状態が、すでにほぼマックス状態ってわけか。

 ルーリーとの戦いで見せた、真の全力みたいなチカラは、出すことはできない。

 これ以上の魔力や出力を出したかったら、メアの魔力をこちらにもらうしか方法は無い。


「ちなみにリョーチーン。

 今二人が使ってる魔力って~、全部メアっちのだからー」

「え、そうなの? 俺が持ってた……、ルーリーに与えてもらった魔力は?」

「そんなん、没収したに決まってんジャン~。アレ、チョー危ないやつだし~」

「そ、そうだったんだ……」


 天界に来た段階で取り上げられていたのか……。全然気づかなかった。

 ココって基本的には、こちらの魔力や戦闘力はほぼほぼゼロの状態になっちまうからなぁ……。


「まぁ考えてみればそうか……。罪人が与えた魔力を、そのまま使わせるわけにはいかないよな……」


 ルーリーとのつながりは、ある意味これで完全に経たれたってわけだ……。

 うん……、何だか、ちょっと感慨深い気がする。


「つまり俺は……、これからメアのチカラを使って戦うってことか……。

 な、何だか、照れくさいな……」

「照れ!? う……、し、師匠はっ、時々えっちなことを言いやがる……!」

「え、どこが!? お前の琴線って変だよ!?」

「ね~ね~、イチャついてないで、始めちゃってイイ感じ~?」


 ルミエラさんが岩場に腰掛けた状態で可愛らしく頬杖をついていた。


「あぁ、す、すみません!

 えーっと……、俺は大丈夫だけど。メアはどんなカンジだ?」

「まぁワタシは……、この間までチカラ失ったり、戻ったり、封印されたりしてたから、感覚の調整はきくさ」


 それもそれですげぇ人生だ。


「ギャッギャッギャ! 大丈夫だ。いつでも()れるぜ」


 極悪な表情で八重歯をむき出しにして笑うメア。

 あぁうん……、さっきまでデレていたけれど、基本的にお前は、戦闘狂(バトルマニア)だよね……。


「だ、大丈夫だそうです! オケまるです!」


 やや口調が移ってしまった。

 言いつつ俺は、頭の上で両手を円にし、オッケーポーズを出す。

 その瞬間だった。



 俺の身体が、

       真横に、

           ぶっ飛ばされる――――



「ぐっ……!?」


 飛びながら見ると、すぐ隣にいたメアに蹴っ飛ばされていた。

 仲間を攻撃するやつがあるかと思ったが……、違う。

 さっきまで俺のいた場所。その地中から、火柱が巻き起こっていた。


 地中から炎魔法を噴出させたってことか……。

 オッケーを、俺が出した途端に。

 ルミエラは即座に攻撃を行った……。

 そしてメアも、それに対応した……。


「レ……、レベルが違いすぎる……」


 コレは。強さとか、そういった類のものじゃあない。

 脳内の。

 思考回路の問題だ。


 メアも、ルミエラも。

 生粋の、攻撃大好き人間。

 バトル開始のゴングが鳴った瞬間――――つまり、『敵対者を攻撃していい』という、許可がおりた瞬間、

 一気に心持を、『そこ』へ持っていくことが出来る生物。


「……ギャ、」


 そんなルミエラをメアは見て。


「ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッ!!」


 心の底から、楽しそうに笑う。


「イイぞルミエラッ! それでこそ神々!

 容赦のないところなんか、実にワタシ好みだっ!」


 その殺意を一身に浴びたルミエラは、いなすように不敵に笑う。


 さてさて。

 バトルマニアたちと共に……、チュートリアル戦闘、開始だ。





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