3.女神、もう一人
メアとサリエナさんが謎の意気投合を果たした後。
改めて俺たちは、今後の話を本格的に聞くことにした。
「簡単にまとめると、『基本的には』これまでどおりです」
先ほどの痴態(勿論サリエナさん本人はそう思ってないんだが)とはうって変わり、クールな佇まいを取り戻した彼女はテキパキと説明を進める。
「これまでどおり……っすか」
「はい、そうですね」
俺たちを管理・監視していたルーリーに代わり、サリエナさんの管理下に置かれる、とのこと。
「えーと……」
こちらを詳しく観察できないのも、これまでどおり。
俺とメアの相互関与呪縛も継続。
つまり、俺がメアに対して、躾である『天罰大痛輪』を行うことも、これまでどおりということだ。
「さてそして……、ここからが本題となります」
「本題だァ……?」
椅子の上に胡坐をかいて座っていたメアは、少しだけ眉をひそめる。
サリエナさんはその様子を見て、「誤解のないよう言っておきますが」と注釈を先に述べた。
「今から伝える決定事項は、私が決めたものではありません。天界側全体からの総意……のようなものです」
より正確に言うと、天界で俺たちの件を知っている面子の総意、ということらしいのだが。
ふむ……。彼女の口ぶりを聞くに、あんまり良い話ではなさそうだな?
「じゃあ……、詳しく聞かせてもらえますか」
「えぇ」
俺の質問に、彼女は顔色を一切変えず頷いた。
そして、続ける。
「勇者・魔王のペアへの『枷』が、強くなります」
と。
そう言葉を、彼女はつづる。
枷が、強くなる……?
「それは……、どういうことですか?」
俺が更に質問を重ねると、彼女は再び変わらない表情で言い放つ。
「厳密に言いますと――――、『強さ』を二人で分け合っていただきます」
「――――は、」
「……あァ?」
「やり方は簡単です。魔王側から行っていた、性的魔力・注入出行為、通称・『魔ッサージ』……、でしたか。
それの応用として……、魔王には、あなた方二人の魔力配分を決めていただきます」
「ちょ……、ちょっとまって……」
頭の整理が追い付かないまま、彼女はつらつらと説明を続けていく。
「わ、分かる単語から整理しよう……」
まずは……、今出た単語。『魔ッサージ』だ。
一度だけメアに嵌められて、ついぞ使うことになってしまったあの魔法だ。
メアの無限にも思える力の源、魔力。
それがもしも切れてしまった場合、バックアップとして、俺の魔力をメアに渡すことができるというもの。
しかしそれを行うには、俺がメアの肌に直に触れ、マッサージのようなことをしなければならないという行為なのである。
「ひどい制度だ……」
「別に気にしなくてイイのによォ?」
「いや無理だろ」
この件の『魔ッサージ』には、メアの中の性的なナニカ……のようなものを刺激する? あれそれが付きまとうらしい。
決してエッチなことをしているわけではないですよ!? しているわけではないんですが……!
「冒険を続けるためとはいえ、幼女にそんなものを押し付けるのはまずい。俺の精神衛生上、まずいのです……!」
「チキンな豚だなァ」
「それはもはやどういう生物なんだよ……」
勿論意味は分かるけど。
「い、いやいや……。それよりもだ」
なんか今、不明瞭な言葉が他にもあったぞ?
「えっと……? 魔力、配分……?」
「ふむ、なるほどなァ……? おいサリエナァ、面倒なコトしてくれるじゃねえか」
「さすがは勇者ですね。頭の回転が速い」
「う、う~ん……」
頑張れ俺の脳みそ! 頑張って話題に追いつけ……!
「え、えーと……? 強さを分け合う? それを『魔ッサージ』で?」
どうにかまとめてみようと頑張るも、この手の話に疎い俺にはさっぱりすぎた。察しも良くなければ、知識もそこまでもってないのだ。
そんな、話を飲み込めないていない俺へ、メアが説明を足してくれた。
「いいかァ? 単純な数値で説明するぞ、豚。
例えばそうだな……。今まではワタシらは、それぞれが『百』ずつ魔力を使えていた、とするだろ?」
「うん? ……お、おう」
「つまりワタシらには、足して『二百』の魔力があったわけだ」
俺の百とメアの百。合わせて二百。
うんうん、単純な足し算だ。
「それが今度からは……、その総数二百から、百の魔力を取り上げられ……、『二人で百の魔力』を使っていかなきゃいけねェってことだ」
「ふぅん?」
「例えば、ワタシが二十、豚が八十、とかな」
「なるほ、ど……?」
なんだか分かったような分からんような。
あぁでも、そういうことか。
「その、二十と八十にする……とかの、分配の決定権が……、『魔ッサージ』ができる、俺にあるってワケか!」
「その通りです。ご理解いただけたようで何よりです」
メガネについと指を当て、サリエナさんは続ける。
「そもそも。この提案がなされたのも、全ては魔王。あなたのせいですからね」
「え、俺のせいなんですか!? メアじゃなくて!?」
「どーいう意味だコラ」
軽く蹴りを入れられる。
天界だから出力が下がっていたから良かった。そうでければ俺は上半身ごと吹っ飛んでいただろうから。
「いやだって、俺に落ち度ってなく……はないのかもしれないですけれども、それでも、どっちかって言うとメアのほうが無茶苦茶してるっていうか……」
「それを制御するのがあなたの役割だったはずです。
しかし、相互関与呪縛を有効に使うこともできず、結局山を一峰吹き飛ばしたり、他にも様々な地域を焼け野原にしたりする始末」
「うぐっ!?」
「管理不行き届きのようなものです。猛省してください」
「そ、そんな……」
がくりとうなだれる。
何がショックかって、就職したことも無いのにいきなり会社員が怒られるようなことを言われたことがショックだ……。
何か、連続した漢字の文字列で怒られると、ダメージでかくない……?
「そして、決め手となったのは……、あなたの強さです」
「え、俺……、の?」
強さ?
「不完全とはいえ、勇者の力を擬似的に吸収した女神ルーリー。しかしながら、そんな存在すらも打倒し得たとされる、あなたの内側に眠る魔力。
はっきり言って、それは危険です。……もしかしたら、勇者の中に眠る魔力よりも」
「そ、そうなん……すか?」
正直実感がわかない。
いや、強い魔力だということは分かっているし、自分があのとき引き起こした現象の規模も分かっている。
ただ……、このメアよりも強いかもしれないと言われるとなぁ……。
それに、俺にこのチート級の魔力を与えたのは、打倒された本人であるルーリーだ。
このチカラがルーリー由来なのにも関わらず、それ以上のチカラを出せるのはどうしてなんだ?
疑問が沸いては、まとまらずに消えていく。
こういうとき、頭が良かったらなぁと思う。マルチでいろんなことを並列に考えられるやつが羨ましい。
そう考えていた矢先。
「――――ふぅん、面白そうジャン?」
新たなる音と声――――そして殺気が。
この空間に訪れる。
「……ッ!?」
俺もメアも、一瞬ぞくりと身を震わせ身構える。
緊張が走る中、ソレは、静かな所作で現れた。
現出方法はサリエナさんと同じ。
この教室めいた空間を、どこからか作った学校扉を開けて、侵入してきた。
「それじゃあ、そろそろ場所移動するカンジで、オッケー?」
突然の来訪者。
静かな動作とはまるっきり逆のテンションの、超級に明るい声がこだまする。
「だ、誰だ……?」
その人影。丸みの多い、女性のシルエットを見やる。
サリエナさんと同じように、女神めいたデザインのスーツをまとっている。……のだが、着こなしがまるっきり逆だ。
胸元を思い切りはだけ、大きな胸を惜しみなく露出させた着崩しは、まるで不良ギャル(死語か?)を彷彿とさせる。
ウェーブのかかった派手な銀髪をなびかせ、スーパーモデルのような雰囲気を持つ彼女は、スタイリッシュにそこに立っていた。
「はぁい♪」
やや褐色気味な肌に、タレ目ツリ眉と、煽情的な雰囲気を惜しみなくむき出しにしている。
先ほど一瞬感じた殺気は、今は感じ取れない。
俺の気のせいだったかな……?
「ヤッホー、サリエナ。そろそろ説明終わったかと思って、来てアゲたわよ☆」
声はサリエナさんにかけているのに、蛇のような目つきが俺を上から下まで嘗め回すように見つめてくる。
「え、えっと……?」
「……ふふ、いいワね」
そんな状況を見かねたのか、サリエナさんが視線を遮るように俺たちの間に割って入った。
「ルミエラ……。早かったのね。もう準備は終わったの?」
「ヨユーヨユー」
生真面目そうなサリエナさんの言葉に、ひらひらと軽薄そうに手を振って答える対照的な美女。
「あの……、この方はいったい……?」
「あぁ、申し遅れました。こちらは……」
サリエナさんが丁寧に紹介しようとしたそのときだった。
健康的な肌を持つ褐色美女は、俺の腕にがばっと飛びついてきた。
うおお……っ! おっぱい! おっぱいめっちゃ当たる!
「アタシはルミエラ! そっちのムッツリメガネと一緒で、女神やってまース。ヨロシクゥ、リョーチン」
「よ、よろしく……、ルミエラさん」
「硬い硬い~。ルミとか、呼び捨てでオッケーだよ~」
「は、はぁ……。なら、ルミエラ、で」
「……へぇ。うん、いやいや~……、流石だね~、リョーチン」
「……? な、何が?」
「アッハハハハっ! 天然かよ~、ウケる~」
ばしばしと肩を叩かれる。
な、何なんだいったい。俺別に関心されるようなこと言ってないよな?
「……ルミエラ。あなたいつまでそんな喋り方してるの。
申し訳ありません魔王。どこかの世界で覚えてきた言語感覚が大層気に入ってしまったようで……」
「あぁいや、別に大丈夫、です、よ……?」
どこかの世界っていうか、たぶん、前に俺がいた世界ですね、うん。
ギャルというかコギャルというか、小悪魔系というか何と言うか。
そこらへんのノリと言葉が混じってる……感じだと思う。なんかけっこう古めだけど。
「なんだ褐色女神? うちの豚のこと気に入ってるんだったら、ハーレムに入るかァ?
今なら第一号だぞ?」
「アッハハハ~。嬉しいお誘いだけど、ちょっと今はエンリョしとこうかな~。
ホラ神ってぇ、意外と忙しいしネ?」
「そうかそうか。ま、入りたくなったらいつでも言え」
「オッケ~」
……メアとの相性も悪くなさそうだな。
軽いノリの女性はどうかと思ってたけど、この分なら心配しなくても良さそうかな……?
サリエナさんという、先に気の合う人|(神)と知り合えていたから、機嫌が良かったのも幸いしたのかもしれん。
しかし……、メアのやつめ。
ハーレムに誘う第一号が、人間でも亜人とかでもなく、いきなり女神とは……! 恐れを知らぬというか何と言うか。
でもまぁ確かに、ルミエラさんなら大歓迎だなぁ……。うへへ――――って、ハッ! いかんいかん。今は説明を聞いている途中だった。
「そ、それで。さっきちらっと言っていましたけれど……、準備が出来たというのは?」
気を取り直し俺が聞くと、ルミエラさんがとても軽いノリで説明してくれた。
「リョーチン、ずーっと説明ばっかで飽きたでショ? だから~、これからチュートリアルのジ・カ・ン」
「チュ、チュートリアル?」
「そ」
指を立てウインクをする彼女。
そしてパチンと指を鳴らすと――――今まで俺たちがたっていた空間が、だだっ広い荒野へと変わる。
「せっかくだから~。ここからは実際に、バトルしながら体感してチョ」
こうして、突然のバトル展開が始まってしまうのだった。
……しかし、語尾をチョにするって、かなり昔のギャル像な気がするのだが良いのだろうか。
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