2.女神サリエナの弁
さて、それでは説明パートである。
女神ルーリーという存在がイレギュラーであっただけで、基本的に神々は、人間の敵にも味方にもなりえないらしい。
ルーリーは、人間に直接関わってみたいという好奇心が生まれてしまった、レアケースなのだとか。
「根本的に神々は、人間側には無関心です。
助けを求められたり信仰対象になったときのみ、回りくどく、間接的に、人間界に関わります」
こちらからの呼び声に応じるだけで、本来ならば神側から関わることはないと。
しつこいくらいに、俺たちは念を押された。
「つまり……、それくらい信用してほしいってことですか?」
俺がそう言うと、サリエナさんは「ほう」と方眉を上げる。
「意外でした。まさか、私の言いたいことを分かっていただけるとは」
「まぁ何となくです」
今サリエナさんが言いたかったことは、女神は基本的に、人間に味方できるようにも、敵対できるようにも出来ていないということだ。
だからつまり、
先のルーリーが起こした一件は、完全なイレギュラーケース。
私たちはそうではありませんよということを、説明したかったというわけだ。
「察しが良くて助かります。後であなたの望む通り、赤ちゃんプレイをして差し上げましょう」
「いや結構です! というか別に望んでませんが!?」
「遠慮なさらず。ほら、おっぱいでちゅよ」
「いやおっぱいの話はもういい」
棒読みで言われてもな。
珍しく俺の察しが良く、展開の時短が出来そうだったのに。完全に無駄になっただろうが。
「先の事件はイレギュラーで、女神や天界側を信じてくれと。そういうことですね……」
「えぇそうです。あなた方が関わったのは、イレギュラーケースである元・女神のルーリーのみ……。
ああやって暴走することがスタンダードだと思われても困りますので」
メガネをついっと綺麗な指であげながら、サリエナさんは改めて言う。
まぁそれもその通り。
神側は、俺たち人間界を、滅ぼさないように注視しておかなければならないのだ。
そのために、俺たちが遣わされているのだし。
そのために、神なる者たちもいる。
だからこそ、相互的な信頼関係が必要なのだ。
「あなた方がどれだけのチカラを有していたとしても、あくまでも人間ですからね。
そちら側からの許可が無ければ、私たち天界側は、友好的に管理することは出来ません」
それは、友好的で無ければ管理できるということなのだろうか。
そういえば……。最初メアも、無理やり拘束された感じで連れて来られていたなと思い出す。
「あぁそうか」
懸念点といえば懸念だ。
再び神側から裏切られるかもしれないと俺が思ってしまったら、その瞬間から、友好的な信頼関係は築けない。
「う~ん……」
俺は腕を組んで考える。
確かにここで。『信頼する』と首を縦に振るのが一番だ。
けど……、流石にルーリーの一件は、俺の中でも尾を引いている。
一番最初にこの伊勢家にに来て出会った人物が、実は俺を騙していたのだ。ぬぐい切れるものではない。
「まぁ……、信頼はしますけれども……。ちょっと時間はかかってしまうと言いますか……」
情けない話なのだが。
俺はメア程割り切りが早くないし、強くもないのだ。
そんな俺の心の内を見透かしたのか、サリエナさんは少しだけ語気を柔らかくして、俺に言う。
「大丈夫ですよ、魔王。こちらにも勿論、考えはあります」
「えっ?」
「最初から予想はしていました。
今回の交渉では、勇者よりも、あなたの信頼を得るほうが困難であると」
「は、はぁ……」
俺の疑問の息に、彼女は「ですので」と応えて続ける。
「あなたに信頼していただけるように、私はこのようなご提案をさせていただきます」
そう言って彼女は、静かな動作でメガネを外し……、ぱちりと、細い指をしならせ音を鳴らした。
次の瞬間。
瞬く間に、手錠が、足かせが、首輪が、目隠しが、次々と嵌められていった――――! ……サリエナさん自身に。
「フフ……、どうです? 身動きがとれないでしょう? 私は」
「え、何!? どういうこと!? どういうこと!?」
困惑を隠しきれないんだが!
いきなり自分で自分を拘束して、何でドヤってんだこの人!?
俺が困惑した表情を見せていると、ずっと黙り込んでいたメアが「なるほど……」と、珍しく静かに口を開いた。
いやに大人しいと思ってはいたが……、ずっと観察していたのか?
「な、何がなるほどなんだ? メア」
そもそも現在、何かに対して納得できる場面というものが存在しないんだが。
「いやいや、神には碌なヤツがいないと踏んでいたが……、コイツはなかなかどうして、やるじゃねェか」
ギャギャギャと短く笑い、メアは続ける。
「お前が何を愉快そうにしているのかが全然わかんねーんだけど……」
困惑しっぱなしの俺に対し、メアは「おいおい」と呆れたように言葉を投げた。
「見て分かんねーのか、豚ァ。今コイツは、自分の、身を差し出したんだ」
「あん? 身を差し出した……?」
見ても聞いても分かんねーよ。
更なる困惑が俺を襲う。
するとメアはおもむろにサリエナさんに近づき――――、美しいおっぱいに手をかけた。
小さいながらも、形のいい胸がわずかに歪む。
「きゃふっ……! フ……、この手のサイズは、勇者ですね。
なるほど、流石は勇者。分かっていただけたみたいで重畳でしゅ」
「今めっちゃ可愛い声出たけど。めっちゃ可愛い声出たけど!?」
あと最後もちょっと言葉滑りましたけど。
「えぇそうですね。胸は性感帯なので。性的快楽には勝てませんでした」
「急に冷静! え、どういうこと? いよいよ持ってあなたのキャラが分からない!」
当惑している俺に対し、サリエナさんはふぅとため息をつき言葉を投げる。
「まったく、ここまで身体を張ってもまだ分からないとは。
先ほどの察しの良さはどこへいったというのですか」
言いながら彼女は、自身を縛っていた魔法を解除し、両手でブラを直すようなしぐさを見せた。
……さっきのメアの乳揉みで、若干ズレたのか。軽くに見えたが、だいぶ激しく揉みしだいていたらしい。
「さて、勇者」
「オウ」
最後に目隠しを解除し、眼鏡をかけ、改めてメアと対峙するサリエナさん。
二人はどうやら、何かで通じ合ったようだった。
「ご覧の通り、私はこの身を、しっかりと『差し出し』ました。これで信頼していただけましたか?」
「あぁ、テメェの誠意、たっぷりと堪能させて貰ったぜサリエナ」
「それはどうも」
メアとサリエナさんは、がっしりと固い握手を交わしていた。
さっきまで喧嘩ばっかりしてたのに! 第一印象も最悪っぽかったのに! これが世に言う、ケンカップルか!?(たぶん違う)
「で……、えーと、何? 誠意?」
話を元に戻そう。
誠意。誠意、ね……。
「なるほどな……? なんとな~く……、話が見えてきたような……」
「そうだ豚ァ。この神は、その身をワタシらに差し出し、一時的に平伏することで信頼をしてもらうことにしたのさ」
平服。
身を、差し出す。
ギャグめかしていても、その裏には、きちんと理論があったってワケだ。……全然納得いかないけども。
げんなりとした俺へ、メアは指を立てて説明を投げる。
「神や女神らの思考回路はいつだって単純。やられたらやり返せ。そしてそれは、自分たち側にも適応する」
「思考回路というよりは、法則・ルールと言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。
神は人間に対し、基本的に、ルール内の行動しか取れませんから」
言ってることは何だか専門的でかっこいいんだけど、さっきの様子を見てるとそう思えないから不思議だ。
この方自体はポンコツってわけではないんだろうけど……、真面目な外見とは裏腹に、意外とノリがライトだ。口調は硬い系だから脳がバグる……。
「――――と、まぁこれで。女神ルーリーの不始末は、今の一件で不問となったわけだな」
メアの言葉に俺は首をかしげる。
「ワタシが『神』というものに対し、無礼を働いたからなァ。
カタチ的には、どちらにも落ち度が存在し、それらが相殺された……ってところ、だよな?」
「えぇ。無礼と無礼。これにて相殺です」
サリエナさんは眼鏡をついっと上げて、わずかに口角を上げた。
「これで私たちは、平等の間柄に戻りました。
それでは、契約の話の続きと参りましょう」
その、わずかにほの見えた笑顔は。
メアでさえも一瞬時間が止まるほどに、魅力的な美貌を備えていた。
「……さて、それでは本題と参りましょうか」
そしてまた笑みを消し、ビジネスモードに戻る彼女。
メアも機嫌が良さそうに椅子を持ってきて(どこにあったんだ)、その場に座る。
「いやに機嫌がいいな?」
「美人はいい。目が回復する。襲って良いならすぐにでも襲いたい」
「お前のどこが勇者なんだよ」
発想が魔王寄りである。今更ではあるけれど。
「それくらい軽口叩けるランクに、神が寄ってきてくれてンだよ。……な?」
「えぇ」
なんだかもうすっかり仲良しだった。
……そういえばコイツ。サリエナさんには、最初から握手を求めていたな。メアにしてはえらい友好的だと思っていたのだが、直感で仲良くなれそうだと踏んでいたのだろうか。だとしたら物凄い感覚機能である。
「しかしさっきの一件……。なんとなく原理はわかったけど……、けど……、」
俺……、結局何にも得してなくない!?
楽しんだの、メアだけじゃない!?
だったら俺にもおっぱい触らせろよ! ……とは、流石に口には出さないけれども(出したら滅却されそうだ)。
やるせない何かを感じつつ、俺はしぶしぶと続きの話を聞くのだった。
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