1.おっぱい問答
強敵だった女神ルーリーを封印して、三日後のことだった。
人間界には雨が降っているからという謎の理由で、再び天界へと召集された俺たちは、これからの活動方針とやらの説明を受けることになった。
「それでは~、担当がそろそろ参りますので~」
封印後に説明をしてくれていた天使であるマルエーティーさん(通称マルさん)は、そう言ってあっさりと奥に引っ込んでしまった。
「新しい担当って、マルさんじゃないんだな」
メアにそう言いつつ、未だに慣れない天界の風景に俺は戸惑う。
今日は空からシャンデリアではなく、浮かぶ蛍光灯か……。ホント、雲っぽい地面と合わない。
「あの天使じゃあ、ワタシらを制御できねえだろ?」
「あぁなるほど……、それもそうだな」
見たところ、そこまでのチカラを持っているとは思えない。
単純な戦力だけで考えた場合、俺もメアも超人的な力・魔力を有しているのは変わらないわけで。
それこそ、俺たちを元管理してくれていたルーリー……様くらいじゃないと、難しいか。
あの人|(神)は、天界でも相当上位の神だったっぽいしな。
転移してくるときにチート級魔力を俺に与えたりとか、色々権限持ってたし。
「……また師匠は、あのクソ女神のことを思い出している気がするッ!」
「えっ」
眉間にシワを寄せ、メアは俺を睨む。
「あんなただデカイだけおっぱいの、どこがイイってんだ!
メアは眼光を鋭くし、ぎろりとこちらを睨んだ。
……人が殺せそうな眼力である。現に死にそう。眼力の魔力で。
「大きさよりカタチ! 感度! そうだろ師匠ッ!」
「えっ!? う、う~ん……? ま、まぁ……、そう……、デスネ?」
感度かぁ。
いやまぁ、ルーリーのおっぱいの感度がどうなっているかなんて知らないけれども。
「えぇそうですね。大きさよりも感度。正解です、素晴らしい」
ガラッという、まるで教室のドアが開いたような音と共に。
透明でクールな声が、この場に響いた。
「え……」
疑問の声と共に、さらにカツリとヒールのような音。
一瞬の静寂のただ中に、堂々と歩みを進めてくる人影。
……しかし。部屋でも何でもない、だだっ広い空間なのに、わざわざドア(っぽいもの)を作って入ってくるのは何なんだろうか。はやってるの?
「はじめまして、魔王。そして勇者。
今後の説明を担当させていただきます、私、女神・サリエナと申します」
身長は百六十五センチくらいの、スレンダーな女性だった。
神々しいデザインがちらほらと施された、ぴっしりとしたスーツのような服を纏っている。
耳元できっちりと切りそろえられた黒髪には、一箇所だけ青のメッシュを覗かせており。
クールな目元の上には、銀色の、いかにも堅物そうなメガネが光っていた。
「蛍光灯とかも相まって、一気に学校じみてきたな……」
俺のつぶやきを聞いてか聞かずか、彼女は「コホン」と軽く咳ばらいをし、改めて口を開いた。
「おっぱいは感度。復唱願います」
「「おっぱいは感度」」
俺とメアがオウム返しに復唱すると、「ありがとうございます」と礼をして、改めて俺たちを見やった。
「…………」
……なんだコレ。
俺が呆気に取られていると、メアが笑って口を開いた。
「テメエも同じ貧乳だ。仲良くできそうじゃねえか」
スッと手を差し出すメア。
しかしその手が取られることは無かった。
「慎ましやかと言って下さい。そして仮に、私が貧乳なのは認めますが――――あなたは貧乳ではなく、無乳でしょう勇者」
「むにゅっ……!」
ばちりと、火花が飛ぶ。
戦じゃー!
戦が起ころうとしているぞーっ! 止める準備をしなければっ!
背後で慌てふためく俺を、しかしメアは片手で制した。
アレ……? 掴みかからないのか?
「ギャ、ギャッギャッギャッ。安心しろ豚ァ……! 全ッ然! これっぽっちも怒ったりしてねェよ!」
そういうメアの顔は怒りの形相だ。
対する女神――――サリエナさんは、表情を変えず涼しそうにしたままだ。肝が据わってるとかのレベルじゃねえぞ!
「ワタシはまだ、成長する余地があるからなァ……! それに対しこの女神はどうだ? 女神だってことを差し引いても、もう変化はねぇだろ? つまり――――」
「いえいえ勇者。それは違いますよ。
私はこの乳に誇りを持っておりますので。おっぱいとは大きさではなく、形と感度。それに尽きます」
言って、ちらりとサリエナさんは俺のほうを見て続ける。
「ですので、私があなたの毒牙の対象となることは、無いかと思われます」
「え、俺!? 俺は別に変なこと考えてませんよ!」
突然矛先がこちらに向きやがった!
いや確かに慎ましやかなおっぱい様だが……。美しい形をしているとは思う。って、……ハッ!?
「べ、別にいやらしいことなんて考えませんって!」
と言った後に気づいたけれども、俺は魔王時代に一度はハーレムなんてものを築いていたわけで。説得力がカケラも存在しなかった。
おっぱいの話題ばかりが飛び交っていたから、自然と目線がそちらに吸い寄せられていた。危ない危ない。
「まぁ私のおっぱいに反応しないのは分かっていましたよ。安心してください」
「あ、あぁ、そうですか……。良かった、なんにせよ、誤解は無かったみたいで……」
「ルーリー程の巨大なおっぱいくらい無いと、あなたの食指に触れないと。そういうことなのでしょう」
「い、いやいや! なにをっ、何を言ってるんでしょーかねぇ!?」
「まぁ隠し立てしなくても大丈夫ですよ。
下界からの通信の様子を、時々後ろから見ていましたから」
過去の俺のアホウーッ!
いや、今の俺もか!
「うぐぅ! いや、それは、その……ですね」
しどろもどろになりながら返事をしようとする。
だって仕方ないじゃん! あんな爆乳で美しき乳が目の前に放り出されてたら、そりゃあ健全な男子なら見るって! 大事なところまでは見えていなかったけど、布地だって薄かったんだぞ!
「ケッ! 豚がおっぱいに惑わされるなんざァ、今に始まったことじゃあねえんだよ!
それにいちいち目くじら立ててらんねえなァ!」
「あ、ハイ……。ソウデスネ……」
「それに、テメエも危険を感じたほうが良いぜェ……?」
そう言ってメアは、下卑た笑いを浮かべる。
「乳があるってことは、女である。……そうだろォ!?」
「な……、何ですって……? まさか――――」
メアの言葉に、サリエナさんの表情に一瞬曇りがかかる。
それを見てメアは「そうさ」と笑う。
「未成熟なワタシの身体にすらも、師匠は初心な一面を見せる……ッ! この豚の性欲を、舐めンじゃねーぞッ!」
「馬鹿な……! おっぱいという概念であれば、それだけで良いというの……!?」
「いや、違うな――――」
「……はっ! そうか……、女体! 女体でさえあれば、どんなものにも興奮を覚えると……! そういうことねっ!?」
「その通りだ」
パチンと指を鳴らし、彼女を威嚇するメア。
「いやいや、人を性欲魔人みたいに言わないでくれるかなぁ!? 女体なら何でも良いってワケじゃないから!」
「いや師匠はスケベだ。その性欲、深海の如し」
「お前には言われたくねえよマセガキ!」
と、ともかくだ!
「これからの話! それをしに来たんでしょう!?」
「あぁそうでした。私としたことが、ついつい言い合いを」
ぺこりと頭を下げ、メアを見て少しだけ微笑む。
「神に突っかかってくる人間など久々でしたので、つい白熱してしまいました」
「ギャッギャッギャッ! 楽しかったぞ、メガネ女神」
「それはどうも」
なんか、少年漫画でライバル同士が分かり合ったみたいな描写が生まれていた。
結局乏されたのは俺だけじゃねーか。
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