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0.平常運転な俺たち



「ギャーッギャッギャッギャッ!」


 ドスの効いたけたたましい声が、洞窟内に響き渡る。


 ここは、クリスタルの洞窟。

 A級冒険者しか立ち入りを許されていない、いわゆる危険区域という場所だ。

 俺たちはそこへ、借金返済(・・・・)のため、潜ることとなっていた。

 爆発四散していく岩石集合生物(ゴーレム)たちを尻目に、俺、リョウスケ・セキウチは、本日何度目かになるため息をついた。


「辛い……」


 心からの言葉である。

 もう一度言おう。辛い。

 心根が、ではない。

 普通に、身体が辛い。


「オイオイ師匠よォ! これくらいでヘバってんじゃねーよ!」


 特大魔法をこれでもかとぶっ放しながら前を行くメアに、俺は悪態をつかずにはいられなかった。


「仕方ねーだろ! この間起こったルーリーの一件以来、俺らのチカラはかなり制限されちまってるんだから!」

「ンなこと分かってるっての! 気持ちの問題だ気持ちのッ! 気合入れて走れってんだよ、この豚ァ!」


 口角を上げ、楽しそうにこちらを罵倒する小生意気なあの幼女は、何を隠そう勇者サマである。


「はぁ……」


 一ヵ月半ほど前。魔王であった俺を見事に……。――――それはもう、完膚なきまでに打倒し、強すぎるがゆえに神々からも危険視され、元・魔王(おれ)なんていうお目付け役までつけられることとなった、トンデモ幼女。

 それが勇者、アールメイア・エトワール。通称メアだ。

 全身をおおう程の、赤いメッシュが斑に入った金髪。

 露出度の多い軽鎧で、健康美な白い手足を、今日も惜しげもなくさらしている。

 大きなツリ目。攻撃的な眉。存在感のある口元。

 今日も彼女のド派手さは健在である。


「メアお前なぁ……。本来なら既に巨万の富を築けているハズの俺たちが、どうして金稼ぎのために依頼をこなしているのか、分かってねえだろ!?」

「……うるっせえなァ! ちっとは反省してるっての」


 小休止中。

 俺はメアをしかりつけるように言と、先ほどまでの上機嫌はどこへやら、メアはふくれっ面のままそっぽを向いた。

 髪の毛がもふりと揺れ、俺の腕に尻尾のように当たる。


「反省してるやつの態度かよ……」


 頭をかきつつ、俺は再び嘆息して口にする。


「しかし……、今でも信じられないな。お前との勝負事で、裏をかけるやつがいるなんて」

「……」


 思い返してみても、手口が完璧すぎた。

 ある意味、唯一の欠点とも言えるべきところを点いてきたのだ。


「まぁ責任の一端は俺にもないでもないけど……」

「…………、」

「しかし、まさかお前が、賭け事系には弱かっただなんてなぁ……」

「……ッ!」


 あ……、怒りマークが見えた。

 俺も……学習しねえよなあ!? 毎度いらんこと言って……、こうして……、怒らせるんだもんよッ!?


「――――うるせえーッ!」

「ぐわばはァァァァーッ!」


 どてっぱらに魔力弾を食らう。

 いやいや、ギャグみたいにしてるけれども! 小さいドラゴンくらいなら消し飛ぶレベルの威力だからね!? 俺の魔王としての魔力が無かったら、再生できてないからね!?


 勇者のしつけも大変です!

 ……こんな風にタイトル回収する作品って、ある?


「ギギギッ……! あのゴミ女神(・・)め……! 殺してやりたい!」

「お前って基本的に、神様系と相性悪いよね……」


 しかも、相手の善性・悪性は、あんまり関係ないところでだ。

 生き方というか、在り方の問題なのだろうか。

 ともかく。


「ま、地道に借金返済のため、なんとかミッションクリアしようぜー……」

「オウ……。あぁ~~~~~っ! くそったれめッ!」


 うなだれた態度を取っていたメアが、急に叫びだし、その声が洞窟にこだまする。



「さっさと帰って師匠とラブラブエッチしてェェェェェッッ!」



 してェェェェェ……。

 してェェェ……。

 してェ……。


「ふー…………。よし」

「……………………オイ、」


 呆気にとられる俺を置いて、歩みを再開させるメア。


「叫んだらすっきりしたし、行こうぜ師匠」

「あー、あー……、ちょっと先行ってろクソヤロウ……!」


 先述しておくけれども。

 ヤってない! ヤってないからね!?

 十歳に手を出したら流石に異世界とはいえ捕まるっぽいしね!


「アイツ……、だんだん俺に惚れてるってこと、隠さなくなってきたな……」


 というか、言い始めてからは全く隠す気配がないのだが。


 アールメイア・エトワール。

 通称メア。


 幼女で勇者で極悪で反則級のチカラを持つ、彼女は――――


 あんなにも悪態をついているのにも関わらず、

 何故か俺に惚れているのであった。







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