30.そして悪魔は笑う
状況はあのときと一緒だった。
多いか少ないかの違い。
それだけ。
言葉にすると簡単で。
迫り来る、炎の魔法。
俺を囲んでいたかとか、一本なのか、複数なのかの違い。
王都にて、狂信者たちと戦ったときと、同じだ。
『――――ッ……、ガ……、ァ、ァ、ァ……ッ、』
ルーリー様は。
まるで時が止まったかのように、中空で凍り付いていた。
否、凍っているのはルーリー様だけではない。
彼女の放った炎。
周囲の木々。岩々。ひび割れた地面。そして、術者本人である俺の半身までも。
「……コレが、全力、か……ッ!」
…………。
……。
いや、
いやいやいやいや、死ぬわ!
術者自身すら凍りつかせかねない魔法とか、恐ろしすぎる!
俺の魔力総動員すると、こんなことになるんだなぁ……。怖っ! 全力、怖ぁっ!
「疲れた、とかじゃ、ないんだよなぁ……! 命の危機なんだけど!」
ばきばきと、どうにか自身にへばりついた氷を割りながら、身体の機能を取り戻していく。……うし、どうにか身体は動く。引き続き、浮いてられるみたいだし。
メアには一応、超上級の概念防護魔法をつかってあるから、一度の致命傷は平気なハズだ。生きてはいるだろう。……死んでないだけかもしれないが。
「あ、そうだ」
一応動けるようになったついでだ。
仕事をしておこう。
――――よっと。
「うん……。大丈夫かな、コレで」
しかし飛行しているだけでも既にギリギリだ。
なるほど。メアは常にこんな感じだったのか。
出力の穴を広げることでとんでもない威力が出る……代わりに、空っぽにもなりやすい、と。そりゃあ誰かに魔力を分け与えてもらいたくもなるわ。
そんなことを考えていると。
『……ッ! ガ、ガァァァッ……!』
俺と同じように、ばきばきと自身の氷を割り、封印から解かれようとする女神ルーリー様。
獣を思わせる雄たけびめいたものと同時、彼女はその身を自由にする。
氷の残滓が辺りに舞い、どこか神秘的だ。
『リョーちゃンンン……ッッ! ヨクも、ヨくもヤってクれたワねェェェっッ!』
鬼のような形相をした、翼持つ者。
元・神。
元・女神。
そして今はもう……、その面影は感じられない。
邪悪な言葉と、醜悪な魔力を発するだけの、
ヒトのような。
悲しい生物に成り果ててしまった。
「……ルーリー様」
それでも俺の口から『様』と出てしまう以上、彼女はどこまでいっても女神のままだ。
だから。
それを、終わらせよう。
これはもう女神ではないし。
これを女神としていては、いけない。
『ナァに『を余裕ブッテいる『のカシらぁ『ァァァッ!?』
あの優しい笑顔を浮かべる彼女は、もう居ない。
邪悪に。
顔を歪ませる。
『アナたニはもう『、わタシトタたかう『ダけノチカらは鋸ッ手『凪いで諸おォォッ!?』
迫り来る。ルーリー様が。
力持つ者が。
力無き者に。
俺へと迫り来る。
「そうですね……。俺はもう、魔力も空っぽです」
正直もう、空を飛んでいるだけでギリギリだ。高速で動くことさえできないだろう。
「まぁけど……、俺の仕事は既に、終わってるんで」
『ハァ?』
怪訝な顔をのぞかせる彼女は、どこか人間らしくも見える。
ちょっと可愛らしい。――――前のルーリー様に見ていた可愛らしさでは、決してないけれど。
「俺は、ルーリー様が炎魔法を使おうが使うまいが、『太陽は凍える』を……、凍結魔法を使うつもりでした。
分かりますか? つまり俺は、一瞬だけでも貴女を止めたかったんです」
だって、そうすれば勝ちだから。
『ナにヲイッてイルのカ『ワか『らナイわネェ、『リョーちゃン……』
「大丈夫。
もう、分かりますから」
なぁ……。
そうだろ?
――――仕事は終わっている。
凍結されていたし、無防備だったから。
ルーリー様のチョーカーなら、先ほど、すでに壊している。
だから、きっと向こうのも壊れているだろう。
それに、アイツの魔力を、ここまで行使したのだ。
絶えられるわけがない。
だから、
ひどく、
砕くのは簡単だった。
女神だった彼女は。
そうやって、苦く笑う俺の、
視線の先を。
自身の背後に迫るソレを、
見る。
そこには。
全力の俺なんざ、全然相手にもならないほどの、本物が。
邪悪に笑っていた。
「――――ギャ、」
口を開けば、
こだまする、
よく響く……、声。
「ギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッギャッッッ!!」
悪魔のような、幼女のような、勇者のような、聖者のような、
バケモノのようで――――人間のような。
そんな、ヒトでありながら異質なるチカラを持った選ばれし者が、
腕を組んで、偉そうに。
邪悪な笑みを浮かべていた。
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