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29.疲れるコト



『ど――――どういう、ことなの!?』


 ルーリー様が疑問を叫びながら、幾多の触手と魔法を同時に放つ。

 それを俺は全速力で回避し、中空で体勢を立て直す。


 ――――疲れる。


 けど、それで良い。

 戦うって、疲れるんだ。


「うん、うん……。俺、疲れてる」


 どこか嬉しそうに、口に出して事実を確認する。

 魔力は確実に減っているし、脳もちょっとだけぐわんぐわんする。冷静に考えると高いところは苦手だし、触れるとアウトの触手って怖くない?

 けれどそんな、俺の中から沸いて出た負のエネルギーを、振り払う。

 頑張って振り払う。


「なる、ほど……」


 恥ずかしながら、この異世界にきてから。

 俺は初めて『戦って』いるらしい。

 照りつける太陽の下、恐怖を感じる敵を前に、なんと爽やかなことを考えているのか俺は。


「冒険者の人たちって、こんなことを日常的に行っていたんだな……」

『なにを、ワケの分からないことをッ!』


 感動で打ち震える俺を、ルーリー様はキッと睨む。

 明確な敵意。

 そうだ。

 俺は……、俺だって。

 彼女に敵意を向けなければならないんだ。


「誰かを憎むってことも、疲れるんだな……」


 負の感情って疲れるんだよ。

 そういう考え方に、脳が慣れていないからなのか。

 仕方ないか。こういうのも慣れていかないとなぁ……。

 これから先出会うかもしれない様々な脅威のことを思うと、気がめ滅入ってくるけども。


「頑張ろう」


 頑張っていこう。

 メアと。


「全力を、出す」


 そうして、彼女を打倒する。

 打倒してみせる。


『――――アアアアアアッ!』


 ばちばちと、ごうごうと、彼女の両腕に高濃度の魔力が集まっていく。

 コレは――――、神域レベルの魔法だ。こんな強力なもの、見たことが無い……!


「これ……、流石に全力でも無理じゃねえかなッ!?」


 流石に俺のチカラでどうこう出来るレベルじゃねえだろ!

 メアが邪神を消滅させた魔力砲。

 その数十倍の濃度を感じる。その証拠に、周囲の木々はその瘴気にあてられ枯れ果てていっている。地面には亀裂が入り、岩々は重力に逆らい浮かび上がる。


 この世がもう一度創られるのではないかと見まごうほどの、一撃。


 それが。

 彼女の手から、放たれようとしている。


誓約(オルコス)信仰(ピスティ)契約(スィンヴォレオ)祈り(プロセフヒ)――――』


 詠唱と共に膨れ上がる魔力と、殺気。


 消滅させるという意思が、

 彼女の瞳を通して、伝わってくる。



『万象、ここに帰結せよ……!

 【女神な(カエサルテ)る煉獄(ィオ・デア)】――――ッッ!!』



 赤く赤く。

 太陽に等しいエネルギーが、飛来する。


 地平の彼方からやってくるかと思えるほどの、目まぐるしいまでの魔力質量。


 あれが直撃すれば、俺はひとたまりもないだろう。


 邪悪。異質。

 燃え盛る、巨大な炎。


 正しく絶望的な状況下。


 さぁ、ゴングは鳴った。

 全力で迎撃しなければ死ぬぞ。


 死んだら――――メアとの。

 アイツとの。


 辛く、大変で……、けれどどこか幸せで、疲れる日々が。


 そんな日々が、送れなくなるぞ。


「死な、ねえよォォォッ!」


 細胞が跳ねる。

 焼け付くような皮膚の痛みを感じる。

 俺の中にあった魔力が、今までにないくらいに躍動しているのが分かる。


 全力だと思っていた。

 手を抜いていると思ったことはない。


 けれど……、そんな全力を、超えてこそ全力。

 メアはそんなことを毎日のように行ってきていたのだ。

 そりゃ強いはずだよ、チクショウ。



 俺も。疲れるけど。観念して。

 チカラを、出そう。



「四番、」



 口にする。

 その、魔法を。


 十二番、『冷えた嘴(クルフェン)』の、相互上位魔法と言っていいだろう。



 近衛四天王が一人の名を。

 

 俺の持つ攻撃魔法では、最上位の魔法。

 それを全力で、

 相対する、敵に。

 ぶつける。



「『太陽は凍える(ファルギス)』――――!」





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