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27.ここからはアールメイア・エトワールがお届けするぜ・1



 戦闘行為を。

 脳が拒否する感覚というものを、知っているだろうか。

 ワタシはちょっとだけ分かる。

 呪いや魔術なんかは効きにくい体質ではあるけれど、この身に受けたことがないわけではない。

 なんつーか……、脳にフィルターがかかった感じになるのだ。


 寝起き状態というか何というか。

 とにかく。

 そういうフィルターめいたものがかかっていて……、更に、本能の部分で身体が拒絶反応を示す。


 対象に攻撃を行うことを。

 拒む。


 勿論それを無視して行動することは出来る。ただ――――いつもの倍は疲弊するだろう。

 なんたってそれは、我慢を常に続けているのと一緒だ。

 常に歯を食いしばって。胃痛を感じながら。どことなく気だるい身体を、無理やり駆動させる。そんなところだ。

 だったら何故。

 ワタシは。

 今もああやって女神と撃ち合う師匠に、呪いを解かせなかったのか。



『ただ、お前が解呪でもしようものなら……、おそらくは向こうにもバレる』

『まぁそうだなぁ……。呪い系は、術者がコントロールしてるものが多いっていうし』


『そうだな……。――――解呪は無しだ、豚ァ。

 思考は代わりにワタシがしてやる。お前はそのままの状態で、あの女神に近づけ』



 相手にバレるとかバレないとかは、実はそんなに重要ではなかった。

 ワタシはただ単純に。



 あの豚を、苦境に追い込み(・・・・・・・)たかったのだ。



 豚に、勿論クソ女神にもバレないようにニヤリと笑う。

 作戦は成功だ。

 これで。

 あぁ、そうさ。

 これで、勝てるんだからな。


 剣戟の音が聞こえる。

 まったくあの豚は……。ワタシ以上に剣の使い方がなってねぇ……。呆れるぜ。


「ただまァ、それでもがんばってもらわねえとよォ」


 口元を歪ませ、私はついぞ笑ってしまう。

 まだ身体は虚弱なままなのに、堂々と胸を張って立っていたくなる。

 ……身体に染み付いた行動のクセって、こえーな。

 心の中で「ギャギャギャ」と笑い、宙を舞う豚のあとを追った。


「ほらほら、がんばれや豚ァ。本気を出さないと、死んじまうぜ……?」


 女神の凶爪と触手が、六方向からヤツに襲い掛かる。

 それをどうにか回避・迎撃しつつ、無傷で脱する豚。身のこなしだけは、ワタシと冒険するようになってから成長してきたらしい。


「――――ただ、まだまだ」


 立ち向かえ。

 強者に、立ち向かえ。

 アイツはまだ、チカラを出し切れていない。



 ワタシは。

 昨晩の、旅立つ前の夜に会話を思い返す。







「本気を、出してない……?」


 俺が?

 と、豚はいつものようにマヌケな声を出す。


「いやいや……、いつも死に物狂いだったって! 全力だったよ俺は」

「まぁ……、お前の中ではそうなんだろ、お前の中ではなァ……」

「えぇ……? そ、そんなこと言われてもな……」


 そう言って師匠は頭をばりばりと掻いた。

 まったく忌々しい豚だ。

 こちらがせっかく、女神打倒のヒントを、答えを示したというのに。


「もう一度言うぞ、豚ァ。

 あのクソ女神は、地上においてはお前よりも弱い。お前が本気を出すことができれば(・・・・・・・・・)の話だが」


 気弱になっている豚を軽く蹴る。

 ……クソ、出力が落ちているせいか、ビクともしやがらねえ。面白くない。


「本気を出せればって、何だか不思議な言い回しだな?」

「そう言いまわすしかねェんだよ」

「ますますわかんねーよ、メア。どういうことなんだよ」


 困惑する豚を見て、ワタシは本日何度目になるか分からないため息をついてしまう。


「……もう一度説明するぞ、豚。

 ワタシらが契約をさせられたとき……、天界で会ったときもちょっと触れたが、女神とか神ってのは、天界なら自身のチカラを思う存分振るうことができる。しかし、地上となったら話は別だ」

「単純に言えば、出力が落ちる……、ん、だっけ? だからこそ、それを補うために、メアのチカラを奪ったんだろ?」

「おう。そこまでは大丈夫みてーだな」


 天界にいる女神の強さが一万だとすると、地上に降りたときは百とか五十とか。良くて上級レベルの冒険者くらいか。

 ワタシらは二千とか三千とかの出力がカンタンに出せるため、仮にそのまま戦闘を吹っかけられてきても、楽に勝てる相手である。


「ま、数値はテキトーだがな。

 それくらいの差があるんだよ、元々」

「それは分かった。けど……、今はルーリー様も、お前のチカラを奪ったから、出力も、五千か六千くらいは出るんだろ?」

「あぁ。だったらカンタンな結論じゃねえか、豚。

 お前が一万のチカラを出せば良い」

「無茶言うなって! そんなもん出したことねえよ!」


 豚が叫ぶのも無理はない。

 そもそもそんなチカラが出るのであれば。勇者(ワタシ)に負けてなどいないはずだ。


「キャッキャッキャッ! まァ一万は言い過ぎたけどなぁ。けど、女神を上回るチカラなら、本来なら出せるはずなんだよ、お前なら」

「……何を根拠にそんなこと言ってんだよ」


 ややムキになって、突っかかってくる豚。

 仕方が無い。

 きちんと言っておく必要も、あるか……。


「お前の元部下――――帝王知眼のルーリマーズ、だったか。そいつの能力、お前も使えるんだろ?」


 ワタシは、今までの追い詰めるような言い方ではなく、ちょっとだけ軽めの口調でヤツに言う。

 元々の性格の話。

 頭に血が上った状態で話しても、きっとこの話は理解してくれねーだろうからなぁ。


「あん……? ルーリマーズ、くん? あぁ、二十五番魔法の、『帝眼(ルーリマーズ)』な……。使えるさ、そりゃあ」


 豚はちょっとだけ身の構えを緩め、頷いて続ける。


「けどこの魔法、相手の強さを見るためだけの魔法だぞ? ルーリマーズくんは頭が良かったから、上手いことこの能力を使って立ち回ってたけどさ。

 そもそもこの魔法……、相手の強さは見れても、自分の強さは見れないんだよ……」

「まァ、それは別にイイんだよ、どーだってな。

 そのルーリマーズが。どうしてお前に付き従ってたのかって話」


 ワタシがそう言うと、豚は頭にハテナを浮かべて首をかしげた。

 見事に可愛くない動作だ。蹴っ飛ばしたい。


「……今その話、カンケイあるのか?」

「おう、大いにカンケイあるぜ?」

「…………」


 師匠は沈黙して、考え出す。

 分かれや。ワタシが言いたいことが。


「んー……、ただなぁ。本人からは、『多腕フェチだから、人間側より魔族側についていたほうが素敵な出会いがありますのでッッ!』としか言われて無かったからなぁ……」

「類は友を呼ぶってか……。変態しかいねえな、お前の部下」

「それは否定できないな……。

 二番の防御魔法・ジェイルヴくんなんかも、性癖は『寝取られ』だったからなぁ……。いや、その話は、今はどうでもいいか」


 知りたくもない情報を入手してしまった。

 煮え切らないので、ワタシはルーリマーズから得た言葉を、豚に伝えることにする。


「ワタシがヤツを倒す前に、聞いた言葉だ」

「……っ!」


 倒す前に。

 言葉を、聞いていた。

 その事実に豚は、少なからず驚いているようだ。

 まったくコイツ。人を何だと思ってやがる。こんなにも可愛らしいアールメイア様だぞ。殺してやろうか。


「そのルーリマーズ曰く、『底が見えない強さだから』だ、そうだ……」

「底が……、見えない……?」


 簡単に言えば、相手の強さを見れるってことは、対象の底を計れるってことだ。

 だからワタシも計られた。……結果的に、ヤツはそれでも適わなかったわけだが。つーか逃げる前に倒したんだが。


 ただ、コイツは違う。


 底を計れる定規を持ってしても。

 底を計れない。

 そんな存在のようだ。


「細かい理屈はわからねえけどなァ……。ただ、お前はそれだけのポテンシャルを秘めてるんだよ」


 ワタシは。

 勇者として、魔王に言う。

 かつて討ち果たしたことのある、本来ならば弱き者に対して。


「お前はまだ本気を出せていないだけサ」


 ワタシの笑みに。

 魔王は、固唾を呑む。

 そして口を開き、疑問を口にした。


「それは……、どうして、なんだ?」


 俺はと。

 こぼす豚。


「あぁ、それは。

 とてもとても、単純な話だよ、豚――――」


 ワタシはおそらくこのとき。

 笑ってはいなかったと思う。








 もう何度の剣戟を交わしているかは、分からない。

 しかし豚は、昨日の会話で吹っ切れたのか、何かを掴んだのか、動きは悪くない。

 いつもワタシにやられてひいひい言っている姿とは、大違いだった。


「やりゃあ出来るじゃねえか、豚ァ」


 まぁワタシもワタシで。

 余裕をかましている暇はないのだけれど。

 あぁやって善戦はしてはいるが、あの豚が負けたが最後。女神はワタシを連れ去り、飼い殺しにして一生涯養分として扱うだろう。


「……まだまだ、死ぬわけにはいかねえんだよなァ」


 残念ながらな。

 まだ、まだまだ……。

 あの、豚と……。


「……キャキャキャ。湿っぽいのは股座だけにしとこうぜ、アールメイア・エトワール」


 今は感傷的になっている場合ではないと、自身の名を口にして奮起させる。

 豚から事前に与えられていた防護魔法の札を起動させ、身を守る。

 ワタシの言葉が効いているのなら。

 決着のときは近い。


「――――効いてて欲しいな」


 なんて。

 ちょっと、その、自分でも信じられないくらい、ナニか、甘い声が出て。


 今の……、ナシだ。

 仕切りなおそう。


「……コホン」


 咳払いをして、気持ちを切り替える。

 すうっと息を吸って、吐いて、また、吸って。

 叫べ。



「オイ豚ァ!」



 空へと舞う師匠に、ワタシは大きな声で叫ぶ。


 地上ではどうやら、ヤツらの強さを受け止められないらしい。

 無限に広がる魔力エネルギーは、知らず、大地を傷つける。


「メア……ッ! あぶねえから、もうちょっと下がっとけ!」


 キャキャキャ。豚が何か言ってるぜ。

 自分も必死なはずなのに――――いや、今から必死になるのか。


 ならざるを、得ないのか。


 そんな豚に。

 ワタシは更に、声を送る。届ける。



「――――せいぜい、」



 聞こえるかな。

 聞こえて欲しいな。



疲れろ(・・・)ッ!」



 そうして。


 あの豚は、何かから開放されたように、空へ――――





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