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25.お前が言うのか/お前にだけは



 アレから二時間後。

 簡易的な昼食を済ませ、俺たちは城外へと出ることにした。

 意外なことにその時間の間は何も起こらず、太陽は変わらず健康的に、高く昇っていた。


「ルーリー様が俺たちを狙うのが分かっている以上、あの場所に長居するわけにはいかねえからな……」

「遮蔽物があったほうが、戦いやすくていいとは思うんだが……」

「街の人たちが危険に晒されるだろ? それは避けねえとさ」

「へいへい」


 俺の言葉にため息をつくメア。

 まぁ……、元魔王が何を言ってんだと思うだろうが。こればっかりは性分なんだから仕方ない。


 血が流れるのは、好まない。

 魔王時代からそうだった。


 我が魔王軍は、圧倒的過ぎる(・・・)力を持っていたから。だから、普通の人々は立ち向かおうとも思わなかったのだ。だから傷つけずに済んでいた。


 倒していたのは、勇者や冒険者たちだけ。

 覚悟を持っている者たちだけだ。

 それらも、極力命だけはとらないようにと定めていたし、それができるくらいの強さを持ったヤツらだった。

 まぁそんな生活も、メアに全て覆されたんだけども……。


「甘い……、のかな、俺」

「あぁ、激甘だ。反吐が出る」


 神妙に言う俺に対し、メアはしかめっ面を浮かべて言う。


「単純な話だろ。あの街のヤツらを犠牲にしたり、盾にしながら戦えば、その分だけワタシらが生き残る確率は高くなる。

 女神が攻めてくる前に、地の利を生かすための策だって考えられるかもしれねえ」

「…………」

「そんな有利性を、全て捨てて――――こんな荒野を選んだんだ。アホとしか言いようがねえだろ?」


 野営の荷物を広げつつ、メアは言う。

 確かにそうだ。

 それに……、今のメアは、ただの子供と変わらない。年齢にしてはちょっとだけ身体能力が高いくらいで、ルーリー様や俺には、まるで及ばない。最低ランクの冒険者にもなれないどころか、養成所へも入れないだろう。


「…………」


 市街戦を選択していたならば。

 あの広い街のどこかにメアを隠し、戦うこともできた。

 けれど――――何故か今の俺には出来なかった。

 無関係の人たちを、俺たちの事情に巻き込むことが、どうしても。


「もうちょっと、気楽に考えていたと思ったんだけどなぁ……」


 魔王時代は、もうちょっと身軽だったような気がする。

 そこまで善悪も考えず。

 部下とたわいもない馬鹿話をして盛り上がり、ちょっと女の子とエロいことをする、体たらくでお気楽な日々。

 そんな、日常の残滓を思い返した。


 んー……、まぁ、けれども。

 やっぱり、これも良く分からない変化だ。

 根幹部分は変わってないと思うし。今はおいておこう。


「って、メア。テントは俺が張るよ。今の状況じゃあ、力仕事は大変だろ?」

「別に……、簡易テントなんだから、子供でも張れるっての」

「まぁそうなんだけどさ……」


 俺が心配そうにしていると、メアは怒気を孕ませた声で言う。


「オイ師匠……、今のワタシを心配するのはかまわねえ。

 けどな、下に見るのはやめろ」

「……え、」


 下に見る?

 どういうことだ?


「無自覚なんだろうから、今、釘を刺しとくぜ。

 お前は今、ワタシを下に見てやがる。ふざけんな」


 つかつかとこちらに近寄り、メアは俺を見上げる。

 小さな。

 小さな体だ。

 肩幅も狭いし、一見華奢だ。首筋だって細い。

 仮に、俺が今全力で殴ったら、確実に命を落とす。そんな存在。


「あ――――、そうか……。

 ホントだ。俺、知らずにお前のこと、庇護対象としてみてたわ……」

「……フン」


 片眉を上げて、メアは悪態をつく。


「あの契約があってから……、ワタシたちは一緒に行動してきただろ?

 そのときから、ワタシは――――」


 メアは。

 俺を見て、言う。


「ワタシは――――、お前を対等だと思ってンだぞ」

「……あぁ」


 そうだ。

 力を失ったから、何だ。


 アールメイア・エトワール。

 勇者メア。

 コイツが、メアであることは変わらない。

 強いからとか、力をもってるからだとか……、そういうことじゃあ無いだろう?


「俺も……、お前と対等が良かったよ……」


 俺は。

 言う。

 ただの幼女、アールメイア・エトワールに対して。


「こんな心持ちじゃあ……、とてもとても、お前と対等になんて、いられないよなぁ、メア」


 俺は笑う。

 メアのやつめ。

 十全な力を持っているときには、俺とはあんなにも力の差があるのだ。

 にも関わらず。

 対等、だってよ。

 同じランクだってよ。


「ありがとよ、メア。

 俺を、対等と見てくれて」

「感謝しろ、リョウスケ。

 だからお前も、ワタシを対等に見ろ」


 しかめっ面のまま言うメアに、俺はあぁと頷く。


「って、ん……? 今、何か違和感があったような……?」

「さあなァ? オラ、手伝うんじゃなかったのかよ豚ァ! さっさとこっち来て、お前も準備しろ!」

「へいへい。ったく……、力を失っても、結局態度は変わんねえんだもんなぁ」


 言いつつ、俺は作業を開始したのだった。

 太陽は。

 そんな俺たちを高いところから照らし続けていた。






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