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24.魔王セリについて、思い返すこと



「地上征服って……、まぁ確かに、女神パワーとメアの力があればできるかもしれないけどよ」


 というか女神パワーさえいらないと思われる。

 勇者メアの力は、それくらい絶大だ。


「……なんたって、俺でさえ征服出来てた時期があったんだからなぁ」


 魔王セリって、一応地上で最強だった時期もあるんですよ?

 思い返している場合ではないけれど。


「それじゃあルーリー様は、何らかの目的で、地上を征服しようとしていて……、」


 していて……。

 えーと……?


「征服して……、えっと、何する気なんだ?」

「知るか。それこそ、付き合いの長い師匠は思い当たらないのかよ」

「俺だって、力をもらってからの十年間は、特に会ってなかったしなぁ……」


 ルーリー様。

 ルーリー様についてねぇ……。


「って、ん? アレ、なんか……、俺、おかしくないか?」

「あん?」


 目つきの悪いままのメアの表情が、少しだけ怪訝そうに方眉を上げる。


「ルーリー様……、ルーリー、サマ……?

 あれ、俺なんで……、こんな状況なのに様付けで呼んでんの?」


 そういえばずっとそうだ。

 出会ってから、十年経って、今に至るまで。

 心の中で名称を思い返すときでさえも、『ルーリー様』と呼んでいた。

 様づけ。

 様を、つける、……呼称の固定。


「え、まさかこれも……、ギアス的なものなのか!?」


 相互関与呪縛(ギフト・ギアス)とまではいかないものの。

 俺とルーリー様の間にも、そういうのが敷かれていたってのか。

 鳥肌が体の表面を支配する。

 うすら寒い感覚が背筋を覆う。


「……ハッハッハ、やられたな。

 まさかとは思うが――――、おい豚ァ、薬指の『神紋』、ちょっと見せてみろ」


 メアはまるで俺に結婚指輪をつけるかのようなポーズで、薬指の付け根をまじまじと見つめる。


「……蛇のシンボルが四つ、波うちが一つ、いや二つ、か。

 端的に言って、お前、ライト洗脳されてるぜ」

「えっ」


 ライト洗脳ってなんだよ! 怖い!


「完全催眠とか支配とかまではいってないけどなァ。ある程度の思考強制などが行われているくさいな」

「えぇ……?」


 どういうことだよソレ……。


「この街で魔法が使えるようになったところを見ると、大分支配も弱まってるみてえだし……。それが切欠で、こっちの方も緩くなったからこそ疑問がわいてきたってところだな」


「洗脳……。それって、……どういう、」


 ことなんだろうか。


「…………、」


 思考強制。

 それはいつから。

 どこから?

 俺の頭を様々なワードが行き来している最中、メアは鋭い目をしたまま言う。



「まぁ例えば――――『膨大な力を手にして気が大きくなった人間が、その力を存分に振るって魔王になってみようと考える』――――、くらいの思考誘導は……、できるかもなぁ」



「は――――」


 それって。

 それは。


「魔王を……、やっていた、俺……?」

「心当たりあるんじゃねーのか」


 ……魔王セリ。

 セキウチ・リョウスケは。

 俺、は……。


「…………」

「いや……、別に師匠を責めてるとかじゃなくて、だな……、その、大体の事柄は全部あのクソ女神が悪い……、っつーか、」

「――――、」


 大体の事柄は、女神ルーリー様が悪い……?


 いや、それは……、

 それは、違う。


 俺はちょっとだけ、けれど確実に力が抜けて。

 珍しく焦った調子のメアの頭に、ぽんと手を置く。


「ありがとな、メア。けれど――――魔王をやってたっていう事実と罪は、俺のものだよ」

「……」


 責任はとりたくないけれど。

 とらなきゃいけないこともある。


「俺は……、魔王セリは。明確な理由があって、魔王をやってたんだ。

 例えば、そんな考えにうまいこと誘導されてたんだとしても……、納得はしてるさ」


 もしゃもしゃとメアの髪をなでながら、俺は遠くを見て言う。

 ややくせのある金髪は、指触りが心地よい。

 何故だろうか、こうしてなでていると、とても落ち着く。


「って……、ハッ! す、すまん、また気軽に頭に触れちまった!」


 ヤベエエエエッ! 頭なでなでなんて、イケメンでも嫌がられると噂で聞いた! それをこんなオッサンがやらかしてしまうとは! 完全に気が抜けていたっ!


「……別に、今はいいよ」

「あ、あれ?」


 攻撃に身構えていると、メアは目をそらしてそう言った。


「と――――とにかく。

 お前はあのクソ女神に洗脳されかかっていた。だが、気づいてしまえばもうこっちのもんだ」

「お、おう。そうだな」


 思考誘導の魔法や契約は、それと気づけなければ恐ろしい効果を発揮するのだが、気づいてしまえばほとんど問題ない。

 要は気の持ちようになってくるので、すぐに対策をとることが出来る。


「それだけでも解呪しちまうか……? その方が楽に動けるよな?」

「ふむ……」


 メアはそう呟いて小考する。


「ワタシが思うにあの女神は……。

 あまりにも強力な暗示をかけたら、莫大な魔力を持つ師匠が気づくと思ったんだろうなァ。だからこそ、あえて思考誘導くらいにしておいた」

「あぁ、そうかも……」


 自分で頷いておいてなんだが、気づけたかどうかの自信はない。楽しんじゃってたことは事実だし。

 ……というかもしかして、解呪系の魔法を知ろうとしなかったのは、思考誘導されて対策をとられていたのだろうか。だとしたら恐ろしすぎる。

 考えていると、メアは顔を上げて「ただなァ」と口を開く。


「解呪でもしようものなら……、おそらくは、向こうにもソレはバレる」

「まぁそうだなぁ……。呪い系は、術者がコントロールしてるものが多いらしいし」


 一時的なものだったら別だが、人一人を支配下におくレベルなら、間違いなく術者が把握しているだろう。

 ふむ、と。

 メアは何やら考える。

 ……? 何だ?


「そうだな……。――――解呪は無しだ、豚ァ。

 思考は代わりにワタシがしてやる。お前はそのままの状態で、あの女神に近づけ」

「は……、はぁぁぁぁあ!? お前、マジで言ってんのか!?」

「マジも大マジ。超本気だぜ、師匠。

 つーか、あのクソ女神の裏をかけるとしたら、今、この状況しかねーんだよ」

「お前なぁ……! 洗脳されてるのが分かってて行動するの、めちゃくちゃ脳に負担かかるんだぞ!?」


 というか今もそうである。

 ご主人様(ルーリー様)に反旗を翻そうと作戦を企てているのだから。そりゃもう、頭の中の拒否反応がすごい。

 理解しないままなら負荷は無いのだが、気づいてしまったなら、それが重くのしかかってくるのである。


「軽めだからまだ耐えられるけどよ……、この状況が長く続けば、俺、脳死状態にでもなるんじゃねーか?」

「大丈夫だって。どのみちあのクソ女神を倒さねえと、この世界自体が長くはもたねーんだからよォ」


 そ、そりゃそうだけどよ……。

 うぐぐ……。


「――――わかった、腹くくってやるよ!」

「よく言ったぜ。それこそ、この勇者の師匠ポジだ」


 そんなん一度も思ったことないくせに。よく言うぜ。


「さて……、あのクソ女神を、倒しに行くぞ!」

「本当に大変なんだぜ……、今の状況……」


 けどまぁ、もうなるようになれだ。

 こうして。

 魔王と勇者VS闇落ちした女神という図式が出来上がった。


 勝率は。

 果たして、いかほどなのだろうか。







「と言ってもよ、メア。ルーリー様に近づくって、どうすれば良いんだ?」


 俺たちの前に姿を現したのは、二度。

 街中と、先ほどの浴室だ。


「そんなの決まってンだろ。アレをこちらに来ざるを得ないようにしてやれば良い」

「は!? ど、どうやるんだよソレ」


 向こうから来てくれるのであれば、そんなカンタンな話はないが……。


「キャキャキャ! さっきと一緒さ、豚ァ。至極簡単・簡潔な話。

 あのクソ女神が、いても立ってもいられなくなるような状況を、作り出せば良いだけさ」


「だから、そんな状況って……、」


 あ、いやいや、待てよ?

 さっき俺がメアにやった『天罰大痛輪(ペインズヘブン)

 それをやっていたときに、ルーリー様は現れたのだ。


「……えーと、ということは」

「ちなみに……、どうやらワタシの身体と女神の身体は、魔力を通して繋がっているみたいだ」


 考え込む俺にメアは言う。


「ワタシの中に溜まるはずの魔力を、全て徴収されていると。現在はそういうことになっているみてえだなァ。あー、腹立たしいぜ」


 ただと、メアは付け加えて続ける。


「それが、突破口になる」

「突破口……」


 メアは、体内で大量の魔力を生産できる。

 現在はその体内魔力を、無条件でルーリー様に取られていると。だからメアの体内魔力はゼロになっているわけだ。


「つまりワタシという魔力生産タンクが死ねば、その魔力供給は止まるわけだが……、残念ながらワタシは死にたくないのでな」

「当たり前だ。

 こういうことで死なせてたまるか」

「……フン、わ、分かってるじゃないか、豚」

「おう。……何で今デレた?」

「デレてねーよ! 死ね!」


 ぽこりと腹を叩かれた。

 いつもの威力なら死んでたわ。今は逆に、可愛さで悶え死にそうだが。

 ともかく。


「メアの魔力とルーリー様の魔力が繋がっている……。それは、なんとなく分かった。えーと、だから……? えー……、」


 足りない頭をフル回転させて考える。そして、答えを導き出すことが出来た。


「そ、そういうこと……、か!?」

「理解したか?」


 ぽんと手を打って、俺もメアの考えに至る。

 メアの魔力(チカラ)とルーリー様の内部は、現在ずっと繋がっている。

 つまり。

 メアが『天罰大痛輪(ペインズヘブン)』で受けるはずの痛覚は、メアを通り、というか素通りし、ルーリー様へ伝わる……。

 そして――――、『天罰大痛輪(ペインズヘブン)』を発動するかどうかの選択権は、こちら側(おれ)にある。

 ということは、だ。


「ルーリー様を痛めつける選択権を、俺が握っている……」

「なんだよその表情は」

「いやぁ……、改めて今の状況をまとめてみると……、だいぶアレだなぁって」


 白目を向きそうになるのを堪えて、何とか自身の体を支える。

 とんでもないことになってきた。

 えー、つまり。



「俺は今……。メアを通して、遠隔で女神様に酷いことが出来るってわけだろ……?」

「あぁ、思う存分やりやがれ。

 世界の命運がかかってるっていう、大義名分もあるぞ?」



 うわー……、最低な考え方。

 けらけらと笑うメアを見つつ、俺は思う。


「まぁだから……、こうして魔力が繋がっている限り、あのクソ女神は絶対もう一度こちらに向かってくる。ワタシを生け捕りにするためになァ」


 なるほど……。メアが生成する魔力だけが目的なら、飼い殺しにすればいいだけなのか。

 というよりも、それがベスト。

 こんな猛獣めいた人間を、ルーリー様が自由にさせておくわけが無い。


 彼女の考えは、おそらくこうだ。

 メアが超高出力で魔力を発しない限り、基本的には超高濃度の魔力はメアの中にたまり続ける。

 ルーリー様はそれを、無くならないようギリギリのラインで使い続けるつもりなのだろう。


 触手に絡め取られるメア……。ルーリー様は暗黒微笑を携え、傍らでワインを飲みつつ悦に浸る……。

 うーん、可哀想なのはちょっと。


「いかんいかん」


 ぶんぶんと頭を振って、邪な考えを振り払う。

 えーとつまり……、そうなってくると。

 今度は、俺という存在が、邪魔になるのかな。おそらく。


 ルーリー様の最終目的は、俺とメアを切り離し……、メアを飼い殺しにすること。コレだ。


「――――ッ」


 まとめた思考回路にぞっとして、メアを見る。


「キャキャキャ……。まぁ苗床にされるみてーでちょっとだけ興奮するが、そうはさせねーよ」

「いよいよお前の趣味が分からなくなってきたが……、まぁいいや。幼女がかわいそうな目にあうのは、俺も避けたいしな」


 まぁ……、今更コイツのクソ度胸に驚いていても、仕方ないか。

 ほんと、肝が据わってるというか、何と言うか。


「……覚悟は良いか、豚ァ。

 お前の魔法で、神に鉄槌を食らわせてやれ!」


 世界の命運をかけた勝負に挑む台詞として。

 なかなかそそる台詞であった。


 やることに対して荘厳すぎるけどな!






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