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23.女神の目的



 そんな風に。

 まるで走馬灯のような思い出を、脳裏をよぎる。

 まぁできるだけ痛々しいことはしないようにしていたんだぜ、俺も。

 そんな俺の思いを他所に、メアは悪どく笑って言う。


「ククッ、そろそかァ……?」

「さ、さすがにやりすぎたか……って、何っ!?」


 瞬間。

 目隠し越しでもわかるくらいに、眼前が光り輝いた。

 何事かと思い、咄嗟に目隠しを取る。

 そしてそこには、



 邪悪なオーラを纏ったルーリー様が、顕現していた。



「っは、はああっ!?」


 何で、彼女がここに……!?


 ついぞ自衛のために、メアの後ろに隠れてしまう。

 って、しまった! 今はメアはただの幼女だった!

 しかも全裸だったため、白い肩口が近距離で目に焼き付いてしまった。


「……って、エロいこと考えてる場合じゃねえッ!」


 おそるおそる彼女を見ると。

 いつものような笑顔は見えず、ただただ鋭い目つきでこちらを睨むルーリー様がいた。

 羽や衣服の色も黒メインに変わっているため、とても恐ろしい。


「あ……、これ、映像みたいなものか……」


 よく見ると、それはいつもの魔法タブレットで見ているものとほぼ一緒だった。あのときに襲われたときとは、違っている。


『――――! ……、……っ!』


 息遣いだけで、怒り狂っているのが伝わってくるが……、


「な、何だろう……? どこか、息が絶え絶えなような……?」

「キャ、キャキャキャ……。そりゃあそうさ、このクソ女神は、ワタシの魔力(カラダ)を通して……、今まで『天罰大痛輪(ペインズヘブン)』を食らい続けてたんだからなァ!」


 俺の疑問にメアは邪悪な表情と共に答える。


『――――っ!』


 その表情は、メアの言及が正解しているだろうことを示していた。

 怒りの形相のまま、顔が一気に紅潮する。

 憎憎しい視線を、こちらに向けるルーリー様。


「え、お、俺!?」

「当たり前だろうが豚ァ。お前が苦痛を送った、張本人なんだからよ」


 マジかよ。俺はメアに言われたとおりにやっただけなのに!


「言葉を発せないのを見るに……、どうやらワタシの魔力が強大すぎて、まだ身体に馴染んでないみてえだなぁ。

 クククッ! だから『天罰大痛輪(ペインズヘブン)』の効力も、微弱だったにも関わらず、かなりの威力で食らってんだろうさ!」

「そういうことあるのか」

「敏感肌の……感度何百倍ってところサ。ワタシへの一の衝撃が、ヤツには百にも二百にもなって返っていってる」

『――――……ッ! ……!』


 身体の動かし方がまだ分からないという状態なのだろうか。だから口も上手く動かない、と。

 けれど魔力が潤沢に通っているため、俺からの魔法の効力(・・)は十全に伝わってしまうということか。

 こんな状況なのにも関わらず、根っこのところがおめでたい俺は、ルーリー様の身体が心配になってしまい身体を見てしまう。


『……ッ!』


 俺の視線と同時。

 険しい表情になり、彼女は身構える。


「また痛みを送られるとでも思ったんじゃねーかァ……? キャキャキャ」

「そんっ、そんなことしねえよ!」


 いやでも、彼女の気持ちになれば分からんでもないか!?

 俺が何かを弁明しようとしたが――――、彼女はそのまま消えてしまった。

 その場には一瞬の静寂が訪れる。


「……えーと、どうすっかな」


 俺が呆けていると、仁王立ちをしたままのメアが言う。


「とりあえず、こちらを敵視してくれて助かったぜ!

 これで目下、ワタシらを潰しにかかってくるだろうことは間違いねえ」

「な、なるほど……。このまま本能に任せて、街を破壊されても困るからな!」

「キャッキャッキャッ!」


 腰に手を当てて笑うメア。

 そして……、目の毒だから顔をそむける俺。


「とりあえず……、何か着てくれねーかな」

「だから気にするなって言ってンのによ」


 いや、気になるんだって。

 前張りの破壊力、高すぎるんですよ、うん。









「さてと……、それで、だ」


 程なくしてルーリー様の映像魔法は途切れた。

 そんな悶着から一旦落ち着き、俺はとメアは卓を囲み情報をまとめることにする。


「さっきの魔力の流れは、どうだったんだ?」


 俺が聞くとメアは静かに頷いて、答える。


「あぁ。ワタシの中に入った魔力は……、このチョーカーを通じて、全てあの女神の元へと送られているな」

「マジかよ……」

「オウ。最悪の事態だ」


 メアの魔力がルーリー様へと送られているということは。

 それはつまり、ルーリー様が、望んでメアの力を欲したということで。


「規格外のワタシの力を手に入れようと、女神自らが動いた、ってところだろうな……」

「神とか邪神、精霊とかそういう類のものは、自ら人間界へと干渉はできない……、んだっけ?」


 一応俺は確認をとってみる。

 正直この異世界に来てからの十年間。力ある魔王として君臨するだけ(・・)しかしていなかったので、こう……、法則めいたことは詳しくない。


「お前な……。本来ならこういうのは、契約者である師匠が詳しくねえとおかしい話だろうが」

「面目ない……」

「ハン、まぁ良いサ。

 大雑把に言えば、神ってのは人間に直接干渉できねえ。これが大前提だ」

「あ、あぁ……。何だっけ……。チカラを人間のために行使しすぎると……、信仰心がどうたらで……、良くないんだっけ?」

「……まぁ、もうそれでいいよ」


 ジト目で睨まれるが、甘んじて受けよう。


「神は人間に直接関われない。――――ワタシや師匠を、詳しく観測できないのも、それが理由だな」


 魔王時代。

 俺が何をやっているのかは知られてはいたが、それの詳しい内訳までは伝わっていなかった。

 女の子を侍らせていたという事実は伝わっていたけれど……、実際にどういうことをしていたのかは、分かっていないという感じだ。

 そう考えてみると、直接コミュニケーションをとっている魔法タブレットは、実は結構危険な行為なのかもしれないと、ふと思った。


「つーか、その魔法タブレットで痛手を受けてンだろうが」

「あ、そうだった……」


 この魔法でアイテムを受け取っていなければ……、メアにチョーカーが渡ることも無かったわけで。


「ルーリー様は直接メアに関わっていない……。渡したのは俺なんだからな。そういうことか……」


 神側からの、法の抜け道みたいなもんなのか。

 まんまとしてやられた……のかな。


「直接人間に関われないってのは、分かった。けど……、それとメアの力を奪うことと、どうつながりがあるんだ?」


 俺が質問すると、メアは更に深くため息をついて答える。


「師匠が、前にワタシに言った言葉、あるだろ? アレだよ」

「ん? お前に言った言葉……?」


 何だろう。全然ピンと来ない。


「……まぁアレは、そういう意味で言ったんじゃないだろーけどよ」

「ん? 何だって?」


 メアにしては小さく消え入るような声だったので、ついぞ聞き返してしまう。

 なんでもねーよとメアは言い、その答えを俺に示した。


「人間の座に引き摺り下ろしてやるって、言っただろ?

 まさしくソレだ、豚」

「人間の……、座に……?」


 ん? ってことは……、まさか……?


「いやいや、それって、つまり……」

「そうさ」


 答えが分かった俺の顔を見て、邪悪に、忌々しそうに、メアはソレを口にする。



「あろうことかあのクソ女神は――――この地上を征服するために、わざわざ人間に(・・・)なりやがった(・・・・・・)ンだよっ!」



 その言葉は、どこか憎しみに満ちていて。

 けれど、どこか悦楽を孕んでいるような。そんな口調だった。





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