22.責任
で、コレ、どういう状況だよ。
現在自室に備え付けのシャワー室。一緒に連れ立って風呂に入ったのが懐かしい、あのシャワー室である。
俺は目隠しをした状態でパンツ一丁。
メアは(おそらく)全裸という状況である。
「わざわざ目隠しなんざしなくても良いってのに。こっちは気を使って前張りだけはつけてんだからよぉ」
「そっちのほうが余計興奮するわ! 困るから!」
前張りとか絆創膏とか、格好がマニアックすぎる!
こんなにも暗闇をありがたいと思ったことは無い。
「……だんだんアブノーマルな発言を隠さなくなってきやがったな、豚め」
「うるさい。オトナには色々あるんです」
「健全なオトナは幼女に興奮しねーと思うが?」
「うるさい」
そんなやりとりをしながら、俺はメアの背中に触れる。
「しかし……この状況で『天罰大痛輪』をかけるのか? しかも、微弱なレベルで?」
最大出力でやってみるというのなら話は分かるが、どうして微弱なレベルで行う必要があるんだ?
「実験だよ、実験。さっきも言っただろ?
ワタシの魔力やチカラは、封印されたと言ったが……、厳密にはどうなっているのか。それを探る実験さ」
「はぁ……?」
厳密には。
どうなっているのか……?
「まぁ、師匠のしつけの魔法――――『天罰大痛輪』だっけ? アレが女神にキいてるあたり、なんとなーく察しはついてるけどな」
メアは鋭い声でそんなことを言う。
この声はアレですね。悪だくみを行っている声ですね。顔を見なくても分かる。
「魔力ってのは基本的に、体内から生成されたり、空気中を漂ってたり、色々だ。だからお前の天罰大痛輪という魔力注入で、『ワタシに魔力が入ったらどうなるのか』を計る」
「あー……、なるほど。なんとなーくだけど、メアのやりたいことが理解できたかも」
なんと説明したら良いのか……。
現在メアの体の中にある魔力量は、ゼロだ。
ではどうして、ゼロになっているのか。
完全に消え去ってしまったのか。
それとも、どこかへと流れていってるのか。
メアのいう『流れ』っていう単語は、それを指しているんだと思われる。
「しかしなぁ……、『天罰大痛輪』を使うと、俺へはフィードバックがあるわけで……。
つまりそれって、ちょっとずつアレが小さくなっていくってワケで……」
「まぁ気にすんな。男はサイズじゃねェよ」
「もとよりサイズで勝負できるモノじゃねえんだよ!」
「じゃあ良いじゃねェか。
どうしようもなくなったらテクを磨けや」
ハッハッハと人ごとのように笑う。
幼女にアレのテクを示唆されるって、なかなか屈辱だ。
しかしまぁ……、やらないわけにはいかないか。
光明が、見えてきたんだからな。
「よし……、とりあえず始めるぞ、メア」
「来やがれ。
ま、こちらには何も起こらないと思うけどなァ。
メアの体中が熱い。
目隠しで視界が塞がっているから分からないけれど……、おそらくは体中の紋章が起動している証拠だ。
「い、痛くないのか……、メア」
「あぁ……。ただ、ちょっと体のナカがアツいくらいだな」
「……言い回し気をつけようネ」
「はは、気にすんなや」
喋りつつ、
魔力を入れていく。――――入れていく。
「ぬぅ……」
……コントロールが難しい。
触れているのはメアの肩口だけなのに、まるで魔力を使って、全身を触診しているみたいだ。
肩口をなぞる様に。そのまま腕の先へと進ませる。指先まで到達すると、この先は行き止まりだと、感覚の壁が伝わってきた。
今度は首筋から背骨のラインだ。背筋あたりから両手を滑らせるイメージで、腰、尻、太もも、脹脛と下っていく。踵まで到達して、完了。
「次は前面のほうだなァ」
「お、おう……」
前面。
前面部分ですか!
ソウデスカ……!
「ンだよ、早くしろ」
「お、おう……。
あのさ、本当に痛くないのか? 大丈夫か?」
「あたりまえだろ。マジで痛かったら、こんな風に喋れてねェよ」
「そ、そうか……」
なら、良かった。
憎たらしいとはいえ……、痛めつけるのは、あんまり気分が良くないからな。
そうしていると、ふと、
最初にお試しで『天罰大痛輪』を使った日のことを思い出す。
『……あのよぉ、師匠』
旅を始めて三日目の夜だった。
メアが興味本位で『天罰大痛輪』を使ってみろと言ってきたので、俺としても効力を確かめておきたくて、使ってしまった後。
まだ痛みで横たわったままのメアが、背中越しにこちらへと言葉を飛ばす。
ぐったりとした姿のまま仰向けになっている。
痛々しいその姿を見たくなかったので、俺は壁を向いたまま会話に応じていた。
『ん……? 何だ?』
背中越しに俺が言葉を飛ばすと、メアは乱雑な声で質問を投げる。
『どうして師匠は……、ワタシに対して罪悪感を持ってんだ?』
『罪悪感……かぁ。別にそんなもの抱えてるつもりは無いんだけどなぁ』
『ウソ吐けよ』
別にウソってわけじゃない。
というか、自分の気持ちに嘘がつけるほど、大人じゃないことは自分がよく分かっている。
『師匠はよぉ』
『ん』
『ワタシを、普通の人間扱い、するんだな』
メアはそう続けて。
ぺたぺたと裸足のまま、俺の背中へと近寄ってきた。
座って、壁を向いたままの俺の背後に。
直立のメアが居る。
声はとても刺々しくも、どこか穏やかだ。
何かを観念したようにも聞こえる。
でも、気のせいかもしれない。
『幼女だぞ、ワタシは』
『幼女だって人間だろ』
メアに、俺は答える。
『勇者だぞ、ワタシは』
『勇者だって、人間だ』
メアに、俺は答える。
『いや、人間かどうかも怪しいぞ、ワタシは』
『俺だって怪しいさ。元魔王だったし。
――――そんな俺が人間やれてんだ。お前だって人間なんじゃないか』
メアに俺は答えて、ただ、と続けた。
『その……、強さ的には……、人間離れしてるとは思うけどな』
俺は力なく笑う。
メアは笑わなかった。
少しだけ、沈黙があって。
メアは口を開く。
『師匠は……、』
『うん?』
俺の返事に、少しだけ間を開けて。
メアは言葉を発する。
『師匠は……。これまでも、ずっと、そうだった。師匠はワタシを、人間としてみている』
これまでも……、か。
勇者と魔王として敵対していた時代。
そのときからも俺は、コイツを人間以外だとは見ていない。
それがどうやら、メアには特別なことだったようで。
『ワタシを人間だと見て、それでいて――――、今では、だい、大事に……、扱う』
本来なら、スラスラと言葉が出てくるであろうメアが。
言葉を言いよどんでいる。
というよりも、紡ぎ方が分からなくなっていると言ったほうが正しいか。
思考に単語が追いついていない感じにも受け取れる。
『大事に……かぁ。大事にしてるかぁ?』
苦笑しながら、俺は答える。
本当に大事にしていたら、そもそも敵対しないと思うし……、興味本位でも『天罰大痛輪』は使わないとは思うけどな。
『こんな――――生物兵器めいたワタシを、人間だと言う』
弱々しい言葉に。
振り返りたくなってしまう。
けど、今は振り返ったらだめだ。
メアは人間だから。
そんな弱々しいところを俺に見られたりしたら……、今の強さを失ってしまうような気がしたから。
『結局童貞なままとは言え……、師匠は力にモノを言わせて、ハーレム築いてたんじゃねえのかよ』
『……あぁ、そうだぞ。俺はスケベで、今もそうだ。
だからこんな俺に弱みでも見せてみろ? 何をされるかわかんねーぞ?』
俺が軽い口調で返すと、メアはギリッと歯軋りをする。
殺気が背中越しでも分かる。……けれど、コレに対してきちんと答えるわけにはいかねえんだ。
悪いな、メア。
魔王セリは、権力にモノを言わせて、ハーレムを築いていた。
女の子たちにエロいことをしまくった。
俺も楽しかったし、自分の意思で楽しんでいた。
事実だし、間違ってねえ。
だから、それで良いんだ。
『あー……、ただな、メア。
お前は十歳だろ?』
『はぁ?』
メアは怒気を少しだけ落とした。
そんな彼女に俺は言う。
『……責任とか、とりたくねーんだよ、俺』
『……責任?』
とても情けない話だから。
ルーリー様にも、メアにも、これまで共に過ごしてきた部下にも、言っていなかった俺の心情だ。
『そう、責任。重いだろ?』
俺は壁を見つめながら、ちょっとだけため息を吐きながら続けた。
『俺はさー……、だめな大人だからさ。というか、子供のままな部分もあるからさ。自分自身が信用できないことを、誰よりも知ってるんだよ。
――――で、俺は、別に幼女趣味とかじゃないんだけどさ。それでも、本格的に幼女を従わせられるって分かっちゃったら、どんな考えおこすか分かんないワケよ』
信用してないからな、自分自身を。
で、そんな俺がだ。
十歳のメアに、完全マウント取れちゃって。
あわよくば何でも言うこと聞かせられちゃったりして。
そんでお前も、それに従ったりしちゃったら。
キズになるだろ? お前の。
『そうなったとき。理性が切れて、お前を性的な意味で襲っちゃったとして、だ。
そうなったら――――、責任、とれねえよ。お前がこの先普通に生きれるようになったとき、困るだろ?』
『――――、は、』
『いやいや、変なリアクションすんなよ。
お前だって……、誰かと結婚したりとか、恋したりとかするかもしれないだろ? 普通になってさぁ。……そうなったとき、初めてを思い出してショック受けたりとかするかもしれないだろうが』
仮に俺がメアの立場だったら、メアの両親の立場だったら……、嫌過ぎる。
オッサン趣味でもない限りだけどな。
『だから……、この先どうしてもお前に酷いことしなくちゃいけなくても、ノーカウントにしといてほしいんだよ』
『ノーカウント……』
『都合が良いコトを言ってるのは分かってる。
けど……、お前だって、俺に酷いことされたって事実があったら嫌だろ? だからさ……』
何か変な脅迫みたいになってしまったが、まぁ、情けないことにそんな感じだ。
『天罰大痛輪とか最終手段の魔ッサージとかも、アレは仕方が無い行為だって思っといてくれ! だ、だって、そうだろ? それが無くなったら俺たち戦えないし、そもそも旅を続けられないんだからさ!』
『……ギャギャギャ、言えば言うほどだな』
『あー……、確かにな。スマン』
何度目になるか分からない謝罪をする。
メアは、俺の肩に触れて言う。
決して優しい触れ方じゃあなかったけど。
『師匠よぉ……。
そういう気遣いは、人間にするものだろ?』
『だからさっきも言っただろ。
お前は十歳の、幼女で、勇者で、人間だよ』
人間じゃないと思うときもあるけどな。
というか、いっそのこと魔物だったら良かったのにと思うこともあるし。思考回路とか、獣のソレに近いときがあるので。
『だから、もうちょーっとだけでも聞き分けが良くなってくれると助かるぜ、メア。俺もしつけするの、大変だからさ』
そう語って、俺は続ける。
『自分でバケモノだって思ってるんだったら、それでもいいよ。
けど、俺はお前のこと、勝手に人間だって思ってるから』
それで――――
『お前がそれでも自分のこと、バケモノだって言うならさ。
俺がお前を、バケモノの座から引き摺り下ろして、人間にしちまうから』
言って、俺は笑う。
メアのほうからは。
軽く鼻をすする音がしたと、思った。まぁ、聞き間違い、かもしれない。
『――――ギャッギャッギャッ! そうかよ、豚ァ』
『おう、そうだよ。メア』
こうして……、俺とメアの冒険は、本格的に始まることとなる。
どんなに人間離れしていても、勇者は人間だと。
元・魔王のオッサンは、思っているのだ。
だってほら、そもそも強さに、種族って関係ないじゃん?
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