21.仕切りなおし
「さーて、状況を整理しようぜ」
「あぁ……。と言っても……、何がなにやらだけど、な」
一度宿に戻って。
俺たちはテーブルについた。
メアは足を組み、俺はこじんまりと座っていた。
あぁ勿論、メアはいつもの装備に着替え済みです。
「頭がその……、うまく回らないんだけど、さ……」
事実として思い返せるのは。
味方だったはずのルーリー様が、
何故か俺たちに危害を加えてきたってことだけだ。
「俺に、」
攻撃を、
行った。
「ショックか、豚」
メアの声ではたと意識を取り戻し、顔を上げて答える。
「……そりゃ、ショックだろ。ルーリー様と、敵対することになっちまったんだぞ。
それだけじゃねえ……。俺は、騙されて……、お前の力を、おそらく取られちまって……」
しかもそれの手助けをしちまったみたいで――――あぁだめだ、頭の中でワードがぐるぐる回ってる。
「はっはっはっは! 逆境に慣れてねェなあ豚ァ。だからお前は、凡人なんだよ」
メアの言葉に、俺は力なく応える。
「……俺は、お前ほど強くはなれなかったからな」
「ワタシだって、別に強かったつもりじゃねえさ。強かった事実と強い気でいるのは、また別だろ?」
それよりだと、メアは笑って続けた。
「まずは確認だ、豚。
お前はワタシを嵌める気は無かった。そうだなァ?」
嵌めるとは、勿論そのままの意味だろう。
ルーリー様と俺が結託して、メアにその首輪をつける。つけさせる。
信頼関係を築いてまで、だ。
「あた、当たり前だろ……!」
「当たり前かぁ? 日ごろから、アタシの強さにもうちょっと蓋ができればなァって思ってたろ?」
「そりゃあ思ってたけど、こんな、罠に嵌めるような……、っ……!」
罠に嵌めるという自分の言葉で、また現実に引き戻される。
罠に嵌ったのだ。
俺は。
女神ルーリー様の。
「…………っ、」
「チッ……! 張り合いがねえなぁ、豚ァ。
今お前の目の前にいるのは、ただのクソ生意気な十歳のガキなんだぜ? 言いたい放題言われて、悔しかねーのかよ」
ただの生意気な……、か。
まったくもって、その通りだな。
「……生意気なのが分かってんだったら、普段から態度を改めようとか思ってくれよ」
「ンな面倒なことするワケねーだろ」
はぁ……、まぁそういうもんか。言うだけ無駄だった。
メアの軽口により、少しだけ気持ちを持ち直す。
「……その、本当に。
お前、力が……、無くなってるのか?」
俺が確認をすると、メアは自信満々に頷いた。
「あぁ、間違いねーな。ワタシの魔力が溜まりやすい喉元。そこでさえも、魔力は感知できないからなー。たぶん現時点で、ワタシの体の中の魔力量は……、ゼロだ」
「のど、もと……」
羽飾りのついた光り輝くチョーカーを見やる。
あれによって、メアの力は封印されているってことか……。
「それ、壊せたり外せたりは……」
「出来るんだったら、とっくにやってる。そんでついでに、さっき反撃でもしてるさ」
「だよ……、な」
俺は頭を抱え込んでその場にうな垂れた。
射抜くような声でメアは言う。
「相互関与呪縛が働いてないのが良い証拠だ。
ワタシは、もう特異でも何でも無い、ただの人間になっちまってる」
「え、相互関与呪縛、働いてないのか? でも、そういうのって分かるもんなの?」
今のところ俺とメアはルールに抵触していないはずだ。というか、普通にしていればそうそう触れるものじゃあないはずだが。あぁでも、『天罰大痛輪』も効かなかったし……。
「は……?」
メアはぽかんとした、レアな表情をこちらに見せる。
いやいや、だって、相互関与呪縛って別に魔力で行ってるわけじゃないから、身体的な部分にまで働きかけるものじゃないだろ?
俺もぽかんとした表情をしていると、メアが苦虫を噛み潰したような表情でこちらを睨んできた。
「お前は、マジで何も覚えてないんだな!」
「えぇ……? って、あぁ、そうか! お前って!」
「そうだよ!」
フンと、そっぽを向くメア。
首の振りが強すぎて、ポニーテイルの束がゆさりと大きく揺れた。
「俺への呼び方か……。すっかり忘れてた」
「――――まぁ、別にいいけどな」
「いや……、悪い」
相互関与呪縛の三つ目。
まぁこれは、凄く簡単なものだ。
メアに少しでも態度を改めてもらうため。
俺をちょっとでも尊重してもらうため。
メアからの呼び方を、固定した。
と言っても……、一種類だけだと困りそうなので、二種類。
それが女神ルーリー様からの譲歩だった。
お互いの提案で、一種類ずつ。案を出し合ったのだ。
『そうだなぁ……、もっと俺のことを尊敬してもらいたいからな! 俺からの呼称提案は『師匠』で!』
腕を組み、胸を張ってそう俺は言う。
メアは眉間にしわを寄せ、怪訝そうな表情をしていた。そして、反撃とばかりに悪い笑みを見せる。
『だったら、ワタシの提案は『豚』だな。
丸々超え太った体に相応しい。豚。豚師匠。ギャッギャッギャ!』
『なんだとコイツ!』
『それじゃあ成立ね~』
俺の怒りを途中で遮って、ルーリー様はそうしてギアスを結んだ。
『へぇ……、本当に師匠のこと、『豚』か『師匠』としか呼べなくなってやがる』
俺の怒りを他所に、メアはもう自分の体の変化にしか興味を示していなかった。
まったく、先が思いやられると、そう思った。
こうして相互関与呪縛によって、メアは俺のことを『師匠』か『豚』としか呼べないはずなのだが……、先ほどから俺に対して『お前』と言えている。
つまり、ギアスが働いてないってことか……。
「つまり今のアタシは、ただの十歳の子供なわけだ。
さっきも触れたけど、喉にあった魔力の塊。それも無くなってるのが良い証拠だな」
メアの笑い方って魔力の引っかかりのせいだったのか……。
不思議と今の笑い方のほうが違和感あるな……。見た目は変わらず、邪悪だからだろうか。
「ま、一つだけ朗報があるとすれば……、こちらは、お前の魔法が使えてるってところだなァ」
「……あ、本当だ。この町の中なのに、魔法が使えてるな」
邪神討伐のさいの罰として、この街中での魔法使用は禁止されていたはずだ。
けれど先ほどは、ルーリー様に対して魔法が使えている。
「クソ女神が手を出してきたことで、強制権がなくなったんだろう」
「どういうことだよ」
原理が全然分からない。
「……師匠って、魔法は使えてるけど、原理とかを全然知らねえで使ってンだろ」
「わ、悪かったな……! お前が現れるまでは、俺が一番強かったからそれでよかったんだよ!」
我ながらなかなかに小物くさい台詞である。
まぁ確かに……、勉強しておけばよかったと後悔中。
俺がうなだれていると、メアは乱雑な口調で教えてくれた。
「細かい理屈は置いといて……。カンタンな話、神は直接人間に攻撃することはできねえ。
つまり、お前に攻撃を加えたことで……、お前とクソ女神の間にあった契約も、ちょっと緩んだんだろーよ」
「へぇ……。そういうもんなのか……」
「複雑なようで緩い。そして、緩いようで複雑。コレ、魔法の基本だからな」
だいぶ理不尽なことが基本だった。
しかし……、大雑把に魔法をぶっ放しているイメージしか無かったメアだが。きちんと理論的なことも知っていたとは……。ちょっと意外だ。
「ん……? ってことはお前、ルーリー様が敵として出てきたあの時点で、俺がこの街の中で、また魔法を使えるようになったかもしれないって考えを巡らせてたのか!?」
「そりゃそーだろ。
そういうところに気が回るのがワタシだぜ?」
ふふんと悪どい顔をする。
恐ろしい頭の回転の速さだ。俺は呆気にとられることしか出来なかったってのに……。
「あぁ、そういえば。それで思い出した」
「あん? 何だよ」
メアの指示通りに魔法を使ったときのことを思い出し、あのときに考えていた疑問が再浮上する。
「どうして俺の『天罰大痛輪』の魔法は、メアじゃなくてルーリー様に効力を及ぼしたんだ?」
「まぁぼんやりとアタリはついてるが……。言ったろ? 賭けには勝ったって。
一応、一か八かだったんだよ」
運が良かっただけだと言って、メアは笑う。
「そんで……、それを確かめるために、ちょっとばっかし実験が必要だな」
「じ、実験……?」
あぁそうだと言って、メアは立ち上がり、
至極真面目な声で、俺に言った。
「豚、服を脱げ」
「はい?」
「つーかワタシも脱ぐ」
「……はい?」
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