18.チョーカー
「露出度の問題はさておいて、メアって本当に服のセンス良いっすよね」
時間は少し巻き戻って、昨晩のこと。
メアが自室へと帰った後。俺は魔法タブレットを使用して、ルーリー様と通話をしていた。
「そうねぇ~。元の素材がいいのもあるけれど……、どんな格好でも堂々としているからかしら」
「それもあるかもしれないっすねぇ……。
俺なんか、未だにこの冒険者服ってのに慣れなくて」
基本的にはそこらの人と変わらない服装だが、場合によってはマントなんかも羽織ったりする。
マント。……マントって! 何ともその……、気恥ずかしいよなぁ!?
「かっこいいんすけどね! だからその分、俺には不釣合いっていうか……」
「あらぁ、そんなことないと思うわよぉ~。りょーちゃん可愛いわよ」
「はぁ……」
可愛いって。
それはたぶん、馬子にも衣装とか、そういった意味合いで使われている気がしないでもないのだが。
「色合いのセンスとかも、すげえっすからね。
普通そんな色着ないだろうって服も、難なく着こなしたりするし」
俺には理解できないセンスだ。
その光景にはいつも唖然としてしまう。
「……センスといえば。攻撃魔法一つとっても、同じ魔法を使っているのにも関わらず、りょーちゃんとは違った感じになるわよねぇ~」
「あぁ、確かに」
同じ氷系とか使っていても、俺のは乱雑に凍らせるだけだ。
メアはけっこう綺麗な氷柱が出来上がったりする。
センス……。センスなぁ……。
「闇系の魔法を使って飛行してるときは、恐ろしいもんですが……、炎を纏って飛んでるときは神秘的にも見えるんですよねぇ」
さながらフェニックスのようだ。氷を纏ってるときは、幻想的にも見えるし。うん、ああいうところは勇者っぽいポイントだ。
「そうなのねぇ。
こっちでは細かいところまでは観測できないから」
そういやそうか。
ルーリー様は俺たちの行動をぼんやりと感覚で追っているだけで、見えているわけではないからなぁ。
王宮で説明をしてくれたときや今みたいなかんじで、こちらから通信魔法を開けなければ、俺たちを物理的に見ることは出来ないらしい。
「まぁアイツは……、思い描いているモノが、常人とは違うんでしょうねぇ。だから、魔法一つとっても、出来上がりが違う。
元の魔力の強さが違うからこそ、やりたい放題できるってのもあるんでしょうけど」
「魔力の純度が違うものねぇ」
「そうなんすか? 恥ずかしながら……、俺はそこらへん、あんまり分かって無くて……」
異世界にやってきて十年。
魔力というものに触れてきて十年。
メアが現れるまで、無双状態のやりたい放題だったからなぁ……!
勉強しようとも思わなかった。
「単純なお話よ~。りょーちゃんの魔力とメアちゃんの魔力じゃあ、泥水と綺麗な色水くらい違うのよ~」
「例えがひでえ!」
きっと俺が泥水側ですね!?
「泥水のほうが色味としては濃いけれど、色水のほうが不純物が少ないから、流れやすいでしょう~? そういう感じね♪」
「は、はぁ……」
なんとなく分かったような分からんような。
ガソリンのハイオクとレギュラーみたいなものだろうか(免許すら持っていないから、こちらも違いが分からんが)。
というか、その泥水の魔力を渡したのは女神様なんですが!
「まぁメアちゃんの優れているところは……、あんな高純度の魔力を使いこなせる『器』のほうなんだけれどね~」
少しだけうっとりとした表情でルーリー様は言う。
「ウフフ……、イイわよね、人間」
「はぁ……? よく分かりませんが……」
魔力関係には、『貯蓄』だの『出力』だの、他にも色々とある。
感覚としては理解しているから、例えば狂信者たちを制圧したときみたいなことも出来はするのだが……。まぁぶっちゃけ、レベル差が広ければ無双もしやすいわなというか。
「集団制圧が苦手って言っていたのが、ウソみたいよねぇ~」
ウフフとルーリー様は笑う。
「いやいや、今でも怖いですよ集団は。だからこそ、この間のリザードマンの大群には……」
って、アレ?
状況的には狂信者らを制圧できたときと、同じじゃないか?
まぁ……、いいか……? 俺も俺で、魔力の波が激しいんだろう――――
「そういえばお洋服のほうはぁ、」
ルーリー様の声で、俺ははっと我に返る。
いかんいかん。せっかくのルーリー様との時間だ。
他所事を考えるなんて勿体無い。
「足りてるのかしらぁ? きちんと買ってあげてるのぉ?」
「え、あ、あぁ、勿論っすよ。
アイツが欲しいって言ったものは、基本的には買ってあげてます」
と言うと、低のいいパトロンみたいだが。
ここでいう『買ってあげている』というのは、相互関与呪縛によってメアは金銭ごとに関われないので、代わりに金を払ってやってるという意味だ。
「ただまぁ知られたくない物品もあったりするかもしれないっすから。ホラ、女の子にも色々あるでしょうし。あまりその内容は見ないようにしてます」
それを把握していなかったからこそ、数時間後に襲い来る『裸オーバーオール・ウィズ・胸部絆創膏』という服装に驚愕することになるのだが――――いや、所有アイテムを知っていたところで、予想できるかそんなもん!
「俺とメアの仲を心配してくれるのは痛み入ります」
「そういうんじゃないんだけれどね~。じゃあ、りょーちゃん側から何かプレゼントしてあげたりはしてないのねぇ~」
ルーリー様からの言葉に、俺は苦笑しながら返答する。
「俺ごときのセンスじゃあ、アイツに鼻で笑われちゃいますよ」
まぁアイツが嫌がるかどうかはおいておいてだ。
せっかく金で服を買うのであれば、それはセンスが良いほうが良いに決まっている。
だったらセンスの良い側に選んでもらったほうが良いのだ。
「俺に任せちゃうと、無難に上下黒とか、オッサンくさい色合いのものになっちゃいますから」
がんばって勉強してみてはいるが、どうにも上手いこと、ファッションセンスの落としどころというのが分からない。
上下一式で揃えちゃうのが無難ということを、俺はこの一ヶ月で学んだよ、うん。
「それなら、コレをあげるといいわぁ~♪」
タブレットの画面を通して、ルーリー様から物品が送られてきた。
……コレは、アクセサリーか?
俺の手のひらに納まるくらいの、細い糸で編みこまれたチョーカーだった。
小さな羽根を模した飾りがついてあり、センスの無い俺でもオシャレなものだとわかる。
「これ、メアちゃんにプレゼントしてあげて。勿論、りょーちゃんからってことで」
「はぁ……」
「少しは良好な関係にならないと、これから先も大変でしょうから」
ぱちりとウインクを飛ばしてくれるルーリー様。
「あ……、ありがとうございます」
気遣いが身に染みる。
普段から気にかけてくれているのだろうか。
「邪神討伐のクリア報酬とでも思ってくれればいいわよ~」
「ははは……。そう考えると、逆に微妙に思えてきますね」
ルーリー様は、というか女神・神というものは。
基本的には人間に直接干渉できないものらしい。
だからこそ、魔王というものがいたワケだし、勇者という存在が必要なワケで。
こうして贈り物をするのでも、契約者となっている俺を介してじゃないと行えない。それにだって限りがある。
「それじゃあ、渡しておきます」
これはきっと、女神ルーリー様から勇者へのプレゼントという意味も含まれているのかもしれない。それを伝えてしまうと台無しになってしまうので、言わないけれど。
そうして、通信を切って、眠りについて。
翌日裸オーバーオールのメアと会って、驚愕して。
いつもの馬鹿な会話をして。
ギルドに行く前に、メアに軽く、
プレゼントを渡して。
そうして。
メアの力は、奪われた。
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次回から新展開です。




