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13.事が終わって



「ワタシはわるいことをしました」

「声が小さい……。もう一回」

『――ワタシはわるいことをしました!――』

「コイツ、直接脳内に……! ええい、くだらないことで伝心系魔法使うのやめなさい!」

「けっ!」


 言いながら軽い蹴りを入れられる。痛い。

 邪神騒動が終わった日の夕方。

 そこには包帯ぐるぐる巻きのオッサンと、奴隷みたいに両手両足を鎖で縛られた幼女が居た。

 まぁなんとも、ヤバい絵面である。


「ぐったり、だ……」


 俺は普通に治療のため。

 メアは女神ルーリー様からの施された、手錠と鎖によって奴隷みたいになっている。

 一応ココ、王宮の広間なんだけども。

 完全に俺たち、罪人みたいな扱いされてません……?


「そんなこんなで詳しくはいえないんだけどねぇ~、りょーちゃんたちはぁ、この街に襲い来る邪神を退治してくれたのよ~」


 ホログラム映像よろしく、俺たちの前で王様に説明をしてくれる女神ルーリー様。

 さすがに今回は特例だとのことで。ありがてえ……。

 王国サイドは、邪神教団がこの国に存在していることすらも掴んでいなかったらしいので、このままでは俺たちが街で勝手に暴れた人たちになってしまうところだった。


「……半分くらいは間違ってないのが、また、ねぇ?」

「なるほど……。ということは、その……、獣のような方が、勇者というわけですか……」

「そうよぉ~♪」

「獣って何だコラ、かみ殺すぞ」


 メンチを切られた王様が頭を抱える。


「ううむ、頭が痛くなってきますね……」


 心中、お察しします。


「そ、そしてその……、全身包帯のほうが、手綱を握っている従者だと」

「一応管理者ポジションなんすけどね……。なんか、すんません」

「ふぅ……、なんとまぁ薄汚い……」


 うん、仕方ないとはいえ、ちょっと傷つきますよ?

 一頻りこちらへの目配せが終わったあと、一度体勢を整えてから、王様は言う。


「まぁ――――信じよう。

 女神、そして神官も居ることだ。少なくとも、我が国から脅威を打ち払ってくれたのは、本当のことなのだろう」


 王様がすっと手を軽く挙げると、周囲の兵士たちが壁際へと去っていった。……え、もしかして警戒されてたの?


「上から目線が気に食わねえ。殺すぞ」

「ルーリー様、猿轡(さるぐつわ)とかありませんかね!?」


 不敬とか通り越してるから! 確かにちょっとイラっとしたけども!


「お、王様すみません……。何分、俺のしつけが上手くないもので……」


 俺が頭を下げると、メアは更に不機嫌そうになった――――が、何故か口は閉じてくれた。……何だ? ちょっとは気を使ってくれたのか?


「ふぅ……。もうよい。お主らは釈放とする。

 しかしドライトンの神官殿。邪神と、邪神の脅威まわりについて、詳しく話をしていただきたい。よろしいですかな?」

「かしこまりましたぞ。

 それでは勇者様、お付の方、また後ほど」


 失礼しますと言って、俺たちは王宮を去る。

 ルーリー様もいつの間にやら消えていたが、まぁ、神官さんが残りは説明してくれるだろう。

 幸い、あの人も俺が元魔王だということは知らないはずだし。この事実が広まってややこしくなることはあるまい。


「あー……、いや、あったわ。ややこしいこと……っ!」

「ん?」

「…………」


 どーすんだ、コレ。

 包帯グルグル巻きなのは良いとして。

 完全に奴隷幼女状態のメアを連れて、王宮から宿屋まで戻るの?


「この街にいる間は、ペナルティとして俺も魔法禁止令出されちゃったし……、魔法で飛ぶことも姿消すことも出来ないんだよなぁ……」


 ちなみにメアに至っては、魔法どころか身体能力にまで制限がかけられている状態だ。

 魔法使わなくても、何やらかすか分からないからな……。


「さっきの伝心魔法が、最後の魔力だったみてーだわ」

「くだらないことで魔力消費すんなよ……」

「ギャギャギャ!」


 いや笑ってる場合か。


「つっても、あんな残りカス状態じゃあ、飛行もままならなかっただろーけどなぁ」

「まぁ確かに……。それはそれで良かったのか」


 そんなわけで。移動手段は歩く以外の選択肢が無い。


「仕方ない……。行くか、メア」

「ん」


 さすがに不便に思ったのか、いつの間にやら足かせだけは消えていた。けれど、若干薄汚れた肌と衣服はそのままだ。


「ご丁寧に、ここまで奴隷に見えるような服じゃなくてもいいだろうに……」


 ルーリー様も意地悪な神である。

 奴隷引き連れプレイかよ。


「さっさと歩けよ師匠。腹減った」

「はいはい」


 言われるがままに歩き出す。

 これじゃあ、どっちが奴隷かわかんねえなあ。








 結局のところ。

 邪神とメアの脅威から人々を救った後(間違って無いよな!)、俺はそのまま意識を失ってしまい。

 中空からどうやって地面へとたどり着いたのかは分からないが、薄れ行く意識の中で、ぼんやりとメアに抱きかかえられたような、そうでないような……、という感じだった。

 街への被害はほぼほぼ無く、どうにかメアの砲撃を対消滅させることに成功したらしかった。


「ただまぁ……」


 呟きつつぐるりとあたりを見回す。


「一躍有名人になっちまったよなぁ……。悪い意味で」


 遠巻きな人々の視線が痛いのは、奴隷風の幼女を連れまわしているように見えるから……というだけではない。


 昨日の、あの激闘。

 勿論街の皆さんは知っているわけで。

 俺たちが戦っていたのが早朝で、騒動自体は知っているが、実際には目撃していないという人たちも多く。

 つまりどういうことかと言うと……、


『どうやらこの街を守ってくれた人たちらしいんだけど、何だか大分ヤバい人たちでもあるみたい』


 というのが、現在俺たちに張られているレッテルでございます。

 ……昨日までは、まだ『ちょっとしたロリコン』くらいで済んでいたものを。いや、それも何だか嫌だけれど。

 今日はもう完全にヤバい人扱いだ。しかもロリコン方面にヤバいのか、武力的にヤバいのかが正確に伝わっていないため、恐れられているというよりも不気味がられている。


 でも……、ある意味。

 魔王時代に戻っただけとも言えるか。

 ちょっとだけな。


「ま、入店拒否とかされないだけありがたいってもんだな」


 腹ごしらえのためてきとうな食堂へ入る。

 迷惑にならないよう隅っこのほうへ。

 ビクビクしながら給仕のお姉さんが注文を聞いてくれた。……うん、もう仕方が無いことだと思って諦めよう。

 つーか元々、髪の毛オバケのメアを引き連れているのだ。今までも悪目立ち自体はしてきたことだしな。


「……傷」

「ん?」

「治らねーのか?」


 料理がくるまでぼんやりとメアの金髪とおでこのあたりを眺めていると、珍しくコイツのほうから話しかけてきた。

 口調は相変わらずだが、目を逸らして言う姿は、どことなくしおらしいような、そうでないような。


「まぁ……、俺のほうも魔力が空っぽだからなー。ルーリー様にも、この街での魔法の使用を禁止されちゃってるだろ? だから、自然治癒とか出来なくてさ」


 と言っても。日ごろの魔力行使に慣れているせいか、常人よりもかなり回復スピードは速いけどな。

 俺特有のスキルみたいなものである。


「ただ、痛みが軽減されないのは辛いかなぁ……。いつもはそういうのも、半ばオートで付与してるからさ」

「そうなのか?」

「おう、そうだぞ。え、お前はやってないの? ダメージ軽減とかそういうの」

「やってねーよ。防御に回す暇があったら攻撃するし。

 そもそもそんなに攻撃は食らわないからな。やる意味がねぇ」

「強者の理論ですなぁ……」


 相変わらず頼もしいことで。


「けど、そうだったんだなぁ。え、痛かったりしねえの? 俺なんか未だに慣れないんだが……」

「慣れないって?」

「いや、『痛い』ってことに……、かなぁ?」


 そりゃ多少だったら、傷を負うことにも慣れたけれども。ただそれも、所詮は多少の域を出ない。

 けれどメアは。


 ――――だったら、てめえは、

 ――――何をもって生きてるってンだよ。


 傷だらけの、姿を。


「…………、」


 一瞬思い出す。が……、脳裏からすぐに取り払う。

 いかんいかん。

 そこにどんな理由があるにせよ、メアは――――


「痛みってよぉ」


 メアの言葉ではたと意識を戻す。


「お、おう?」

「何か、クセになるんだよなぁ。生物だなぁって思える」

「……え、お前ドMなの?」

「…………」


 あ、いかん。なにやら対応間違ったくさいな!?

 これ絶対殴られるやつじゃん! せめて店内には迷惑をおかけしないようにしなければ!


「あ、いや、メア。その、な」

「……ギャ、」

「ぎゃ?」

「ギャッギャッギャッギャ! そうかもなぁ! ドMかもなぁ! ギャギャギャッ!」


 一瞬だけ沈み込んだかと思えば、今度は声高らかに笑い出す。

 やめて! その奴隷めいた姿で、大声でドMだ何だと言わないで!


 あ、ホラぁ! 周囲からの視線が痛いじゃないっ! 絶対俺が特殊なプレイをしていると思われてるじゃん!


「ギャギャ、ドM結構じゃねーか。そもそも生きるって、辛いだろ? それなのにのうのうと生きてるってことは、つまりは、少なくともワタシは、苦境に自ら飛び込むドMだよなぁ」

「……お前そんなこと考えながら生きてんの? 大丈夫か?」


 俺がそう聞くと、この十歳の幼女は。

 幼女らしからぬニヒルな顔つきで笑って言った。


「大丈夫なんかじゃねーよ」


 けれどその目は。

 しっかりと俺を、見かえしていて。


「辛いに決まってんだろ、ギャギャギャ」


 何故か、今までに見た中で、最高にイカしていて、

 そしてイカれた笑顔だった。


「…………そうかよ」


 良いんだけどさ。

 ならお前、ルーリー様にオシオキ食らってんのって、もしかしてアレわざと?

 そんな疑問が一瞬頭をよぎったが、まぁ、これはたぶん聞かないほうが良いんだろうなと、飲み込むことにした。

 たぶんこれ、確認したらデスるやつだからネ。





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