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12.勇者VS邪神



 戦いにならない。

 それくらいなまでに、圧倒されていた。


 あぁ、今の話じゃなくて。

 俺がメアと戦っていたときの話。


 奥の手は尽き、万策は尽き、無尽蔵にも思えた魔力も底を尽き。

 命乞いをしながらみっともなく逃げ回るしか、俺には道が無かった。


 かつての栄華を、死というかたちで手放したくなかった。


「メアが思い描く勝利条件は……、『完全勝利』なんすよ」

「ふむ?」


 神官さんをお姫様抱っこし走る俺は、余談がてら語る。いや、最初は一緒に走ってもらってたんだけど、どうしてもスピードが違いすぎてね。


 で、メアの話。


「アイツは。アールメイア・エトワールっていう極悪幼女は。完膚なきまでに敵の上をいかないと、満足できないやつでして」


 だから、魔王軍もそうだった。

 近衛四天王も八兵魔団も十六魔軍将も全員、倒された。タイムアタックでもやってるのかというくらいに、効率よくスピーディに全員負けた。


「勝利とは屈服である。っていうのが信条でして……。だからまぁ、その、なんていうか、」


 俺は口ごもる。

 たぶんこの神官さんは、俗に言う『正義側』だ。

 なんかその……、感覚でわかるだろ? 偽善とかじゃなくて、正義の心とか、正しい考えを持っている人。生まれながらの善人というか、まぁそんな人。

 だから……非常に言いにくいのだけれども。


「その、メアはですね。

 目的達成のためなら、手段も過程も選ばないんですよ」

「……なんとなくじゃが、言いたいことが分かってきたぞい」

「察してくれて助かりますわー」


 そう。アイツは。

 自分の勝利条件が達成できるなら。

 周囲がどうなろうが関係ないのだ。


 分かりやすく今回で例えるならば。

 あの邪神を完膚なきまでに破壊することが出来るのならば、この国一つが滅んでも問題ないと考える。


「じゃから、か?」


 神官さんが俺に尋ねる。


「じゃから、おぬしが『人間』を制圧するほうを担当したのか?

 仮に狂信者の相手があの勇者じゃったら……、殺してしまったかもしれんから」

「……まぁ、そんなところですかねぇ。

 いや勿論、俺じゃああの邪神に勝てるかどうかも分からなかったってのもありますけど」


 そもそも俺じゃ聖剣が持てないしな。

 一応アレって、聖剣じゃないと倒せないモノなんだろ?


「ただまぁアイツには……、狂信者のことは伏せてあります。そんなやつらのことを知っちゃったら、町ごと焼き払いかねない」


 自分で言って身震いする。

 マジでやりかねないからなー。

 ある意味では、人命も、亜人も魔物も邪神の命も、すべて等しく扱っていると言えるのだろうけれど。


「そういうことじゃあ、ねえんだよなぁ」


 嘆息する。

 けどまぁそれも、先回りして俺が片付けたし。


「あとは……、アイツの戦いで起こる、周りへの被害を俺がカバーするだけなんで。

 てきとーにちゃちゃっとやっちゃいますわ」


 元の高台に戻り、俺はそこに神官さんをおろす。


「とりあえず神官さんは、そこでバリアでも張っててください。出来れば物理と魔法の二種類」

「……やはり、どこか業者っぽいのう」

「まぁ……、なんというか、慣れちゃいましたからね」


 それじゃあと言って、地面を蹴る。

 使い慣れた飛行魔法を使って、見慣れた景色を見に行こう。


「さぁて。

 命を賭けた、――――尻拭いだ」









 王都の上空を旋回しつつ、俺はメアと邪神を見比べる。

 とてつもなく恐ろしいことに。

 リミッターの外れてしまった状態の邪神に対しても、圧倒しているのはメアのほうだった。


 先ほどよりも更に多くの、邪気とも呼べる黒色の魔力を放出し、悪魔のような幼女は飛ぶ。


「ギャッギャッギャッギャッ! くらえ!」


 左右の手に凝縮された魔力の塊を作る。そしてそれを無造作に中央で複合させたかと思うと――――、邪神の方向へと放出させた。

 メアが下で、邪神が上という位置関係だったから良かったようなものの。

 もしも逆であったなら、王都全域に被害が及んでいる。そんな破壊力だった。

 邪神の三分の一を消し飛ばした魔法弾は、そのまま通過し雲を割る。


「ひっでえ……」


 黒色の魔力の帯が、まだ残っている。それほどまでに凝縮された一撃。

 あんなもの、直撃してはいけない類のものだ。触れるだけで存在が消滅しかねん。


「……チッ!」


 自身の魔力によりボロボロになった鎧の残骸を無造作に引きちぎり(Aランク金属)、ぽいっと放り投げる。


「おわっと! 下に落ちる落ちる!」


 慌ててキャッチ。

 ……危ない危ない。こんな高さから落下した金属が人に当たろうもんなら、確実に大惨事になる。そこのところ、もうちょっと考えてほしいもんだ。


「まぁ……、そのために俺がいるんだけど……」


 空中戦のときに気をつけるのはそういうところだな。

 経験上、忠告を飛ばしてもあんまり避難してくれないんだよなぁ……。俺の風体が問題なんだろうけれど。

 信用ねえなぁ、俺。


「しかし……」


 ……なんかもう、局部がギリギリでしか隠れてないんだけど、大丈夫ですかね!?

 動きやすい格好になったのか、メアはどこか楽しそうにしている。でも、見えてはいけないところが見えてしまいそうで、かなりハラハラものだ。


「まぁ……、俺みたいに、浮いてこの距離にいないと分かんないか」


 それに例えこのメアを見たとしても。

 エロいとか美しいとか、その他劣情を抱くよりも前に、

 恐怖の対象として見なすだろうから、まぁ、問題無いのかな……?


「と言っても、俺もサポートするのには限界があるからな……って、言ったそばから!」


 メアの魔法弾、二発目。

 先ほど器具していたとおり、今度は上空から下方へ対してだ。


「ヤバイヤバイヤバイ! しかもさっきよりも威力が高そうじゃねえか!?」


 ニイィッっと、歪んだ口元は三日月のよう。

 邪悪そのものだ。


「ギャッギャッギャッ! 師匠ォッ! だから言ったろう!? 手段は選ばず、生き残れ(・・・・)よってなぁっ!」

「あそこ、良いシーンじゃなかったのかよっ!?」


 距離があるにもかかわらず、もうこちらにまで熱源の高まりが伝わってくる。

 邪神も身体を吹き飛ばされたダメージが残っているのか、既に満身創痍だ。


「間に合えよ……っ!」


 俺は急いで急降下。

 日本語的に漢字がかぶっているが、それくらいに急ぐ。急ぐ急ぐ!


「うおおおおおおっっ! 間に合えぇぇぇぇっ!」


 下に向かって飛行するというよりも、落下すると言った方が正しい速度。

 メアと邪神と王都のライン上へと何とか到達する。――――と、同時。


 発射。

 される。


 先ほどの魔力よりも、超高濃度。


 邪悪すぎて邪神よりも暗黒すぎるその魔力の塊は、あたり一帯をなぎ払う威力を伴っていた。

 エネルギーへと飲み込まれ、焼き払われる邪神。


 四肢はちぎれ去り、わずかに頭部が残っている程度だ。


 そして。


「そして――――コレを、王都に直撃させるわけには、いかねええええっ!」



 全力の。というか、全力を超えるレベルの防御魔法を展開する。


「二番、『鏡天洞血(ジェイルヴ)』」



 血液が。

 沸騰する。


 一気に貧血状態のようなものに陥る。が、意識を強く持て。

 あふれ出た血液はまばゆい光を帯び、広域へと拡散される。そして――――真白な、光の壁を現出させた。


「うん゛ギッ……!」


 圧がかかる。

 突き出した両腕の血管が、まとわり付く魔力の圧に耐え切れず悲鳴をあげていた。


 ここがデットライン。

 俺の張り巡らせた、この血液による盾壁が破壊されれば、この国は終わりを迎えるだろう。


「ぐっ……! ぎぎぎぎっ!」

 力を振り絞る。


「かっ、重ねて、二番、『鏡天洞血(ジェイルヴ)』ッ!」


 噴出した血液に魔力を送り込み、俺はそれらを使って二重に盾を展開する。

 これで、防ぎ切っ――――



「ギャッギャッギャァッ! これで、とどめだぁッ!」



「え、何……、ってお前ええええ!?」


 ウソだろ!? え、正気かよ! 神官さん見てるんだぞ!?

 あろうことかこいつ……!


 消滅しかかってる邪神に、聖剣を投げつけやがった……!


 フォークとナイフで、あれだけの威力が出るのだ。

 上から下へと。

 それよりも威力のあるものを投げたら。

 それはもう、大変なことになるわけで。


「か――――」


 そしてそれは、邪神を綺麗に消し飛ばし。それはもう跡形も無く消滅させ。

 俺へ、そのまま飛来する。


「かっ、重ねて重ねて! 二番、『鏡天洞血(ジェイルヴ)』ッッ!!」


 もう、空っぽだよコンチクショウ。

 叫ぶ喉の奥から血液が吹き出る。その血液すらも、シールドへと変換。


 持って行かれる。俺の、魔力が。

 終わらない地獄のような、このよのはてが、みえるような――――



「マジで……、ふざけんなよぉぉぉおおおおおっ!」


 誰に怒るでもなく、俺はキレる。

 怒号と共に、魔力を振り絞る。

 受け止められた聖剣は、それでもこの盾を食い破ろうと必死だ。



 あぁ。

 恨むぜ神様、恨むぜ世界。

 本当に――――手間のかかる幼女勇者だ。



「うぐぉぉぉぉ、……おらああああああああっ!!」



 魔力を出し切って。

 暗黒のエネルギー帯と聖剣の運動エネルギーを、対消滅させる。

 薄れる意識の中、何とか聖剣はキャッチ。柄の部分が血で染まる。


「――――は、はっ、はっ、はっ、」


 喘鳴(ぜんめい)のように呼吸が乱れている。

 やった……、のか? 俺、人々を守れたんだよな……?


「……っていうか、俺、」

 出血と魔力不足で、頭がクラクラする。


「何と……、戦ってた、ん、だっけ――――」


 その疑問は分かりきっていて。

 そこで、意識は途切れた。






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