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10.邪悪



 邪悪で異質なモノが、そこに顕現する。

 あれが、邪神。

 黒い太陽が不気味に蠢いたと思ったら、大きな角と牙を持つ魔人めいた姿へと変化を遂げた。


「うお……」


 確かにあれは……強いかも。この間俺たちが楽に打倒せしめた『魔獣王国』の面々。やつらとは正直比べ物にならないオーラを纏っていた。ただ――――


「……うん、アレくらいなら問題なさそうだな、メア」

「そうだな。ま、予想の範囲内だ。というより、若干拍子抜けだ」


 悪態をつきながらも、鋭い眼光を邪神に向ける我らが勇者・メア。ヤンキーのカチコミ前みたいな風体だ。お近づきになりたくねえ。


「んじゃ、行ってくる」


 ふわりと浮いたと思ったら、一気に加速するメア。魔法と初速の衝撃派で、近場の木々が大きく揺れる。踏み込みんだ地面も、ひびが入っているし、本当に、アメコミの中に出てくる超人みたいだ。


「……あ、あんたは行かないのかのう?」

「え? あぁ、俺は基本的に見てるだけなんで」


 神官さんの質問に俺は軽く答える。


「というか、アレに巻き込まれたくないっす」

「えぇ……? は、はぁ!? な、なんじゃあ、アレは!?」


 俺が指さした方向を見て、神官さんは腰を抜かすほど驚愕していた。無理もない。俺も初めてメアを見たときは、超びっくりしたし。


「は、破壊神じゃ……!」

「おぉ……、破壊神っすかぁ。他の人は天変地異って言ってましたねぇ……」


 見た人によって感想は様々だなぁ。ちなみに俺は、何も語句が出てこなくなるくらい狼狽していましたよ。語彙なんて消失するって、あんなの見ちゃあ。



 そこには。

 この世の者とは思えないほどの動きをする、幼女がいた。










 学校校舎を思い浮かべてほしい。

 その校舎の、地上ゼロセンチ地点から三階の天井くらいまで。そこまでの高さが、大体十メートルから十二メートルくらいなのだそうだ。


 そんな高さ――――大きさの化け物と、

 メアは今対峙している。


 振りかざされる腕のリーチはとてつもなく長い。人型ゆえにまだ軌道予測は立てやすいが、それでも感じたことのない巨大さと速度だろう。


 しかしソレを、メアは瞬間移動の如き速度で回避する。

 神速とはまさにアレを指す言葉だ。俺も色々見てきたけれど、動きの軌跡が閃光のように見えたのはアイツだけだ。


 巨体の周囲を驚異的な速度で飛び回り、攻撃を与え続けていた。そのときに発せられる魔法の残滓の、何と邪悪なことか。


 削れる。

 削れていく、巨人の身体。


 周囲を纏っていた邪悪なオーラが、より邪悪なるオーラを纏う生物によって歪まされている。


 色合いで言えば、黒対黒だ。

 より邪悪である方が勝者だと言わんばかりに、二匹の魔獣は漆黒を放っていた。


「ギャッギャッギャッギャッギャッ!! 愉快愉快! 楽しいなあ、邪神とやらァ!」


 本当に、久しぶりだ。あそこまでの力を敵対者に出すのは。

 飛び回るメアの声が、町中に響き渡る。それに呼応するかのように、地響きめいた唸りを上げる邪神。


「あー……、そりゃそうか。この間の洞窟じゃあ、消化不良だったもんなぁ……」


 途中で止めてしまって非常に申し訳ない。

 ちなみに前回のように、全方位に向けての魔法攻撃などはしていない。あれは対大勢用の戦闘スタイルだ。

 大型一体に対しては、あのように体を削っていく戦闘が多い。

 ギャッギャッギャ! という、悪魔めいた笑いが町に響く。



「なんか今……、邪神って単語が聞こえなかったか?」

「邪神ですって……」

「恐ろしい……」

「あんな小さいのにねぇ。それじゃああの大きいのは何だい?」

「大きいのは軍の兵器か何かなのかしら?」



 逆ゥー!

 あのちっこい方が正義側で勇者なんです、すみませんーっ!


 でもまぁ、そう見えちゃうよね。そこらへんは、後で俺が説明するハメになるのだろう。

 そんなふうに言われているのを知ってか知らずか、笑いながら次々に邪神の身体を削っていくメア。

 ……うん、今日もアイツは変わらず元気だ。


「お、お連れの方、大丈夫なんじゃろうか? 町の人々が勘違いしてしもうとるが……」

「あー……、大丈夫っすよ。たぶんそう思われるだろうことは、分かっていましたので」


 心配そうな神官さんに、俺は苦笑しながら答える。


 残念なことに。

 我ら二人、嫌われることと恐れられることには慣れてしまった。

 多少の誤解を解いたところで、尾ひれが着いて変な噂が出回るのだ。

 そんなことは。

 この世界に転移する前から、知っている。



 ――――いつかはやると思ってたのよねぇ。

 ――――普段から愛想も無くて……。

 ――――オタクっていうんですかね、ああいうの。ちょっと近寄りがたくて。

 ――――絶対怪しいと思ってたんですよ。



「……はっ! イカンイカン! そういうの思い出してる場合じゃないっての!」


 突然の俺の大声に、びくっとなる神官さん。

 あ、すみませんね。ちょっとだけ、その、情緒がね。


「やべえやべえ、女神ルーリー様から言われてたんだったぜ。

 神官さん、結界魔法的なものって使えたりします?」


 俺が尋ねると神官さんは慌てた様子で応じてくれる。


「ワ、ワシか? うむ、一通りは使えるが、どんなものが入用じゃ?」

「えーっとっすね……。あそこに見える噴水広場ありますよね? そこから、人を排除してもらいたいんすよ」

「ワシに貴様らのようなダークサイドに落ちろと言うのか!? ひ、人殺しはやらんぞ!」

「排除ってそういう意味じゃねーよ! ……確かに、俺らが言うとそういう意味に聞こえるかもしれないけどさ!」


 メアもそうだが、俺も決して善人顔というわけではない。うん、発言には気を付けよう……。


「そうじゃなくて、人除けの魔法みたいなのがあれば張ってほしいんです。で、今から俺が言うポイントの通路に、光の壁を設置してほしくて」

「ふむふむ……」


 町の地図を広げて指示を出す。


「こっち半分は俺がやるんで、逆側お願いしてもいいっすか?」

「ふむ、分かった。やってみよう」


 俺が指示したのは、簡単に言うと通路作りだ。

 城下町の入り口から、細かい小道に魔法壁を張ってもらい、噴水広場まで一本道にしてもらう。

 そうすることで。

 俺も残り物(・・・)を片付けることが出来る。


「そんじゃ、よろしく頼んます!」


 メアのほうは幸い空中で。

 どうやら今は肉弾戦を楽しんでいるため、二次被害めいたものは出にくいだろう。……信じてるからな、メア?


 まぁ――――、それで。


 俺のほうは俺のほうで、お仕事だ。

 子供は子供同士、空中戦をやってもらうとして。


 保護者同士の、お話だ。

 あんなものを町に呼び寄せた代償は、払ってもらわないとな。





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