↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/10

第六章 装いと勝率

「服装によっても、勝率は違うんじゃないか」


最初に言い出したのは、また誰だったか。棋士たちは、「品性を落とさず勝率を上げる」という難題に取り組み、各国の民族衣装を、正装として着始めた。袴。サリー。チョゴリ。


荒木会長の悪ノリは、静に及んだ。


「静には、これだ」


届いた箱の中身は、本格的な巫女装束だった。白衣に、緋袴。


「あらあら……」


着替えて現れた瞬間、控室は静まり返った。四十九歳の、穏やかな女性。白と赤の装束。髪を結い、背筋を伸ばした静は、あまりにも神々しかった。


小林は、廊下で石のように固まっていた。


(付き合いたいとか、おこがましい。拝みたい)


氷室名人は、深く手を合わせて涙ぐんでいる。


「僕の先生は、本物の神の使いだった……」


頭の中が、お経だった。静は、恥ずかしさで、耳まで真っ赤だった。


その日の対局は、国際親善戦。相手は、欧州代表のエリアス・ノルト、二十二歳。AI流の若き強豪だ。


盤を挟んだ瞬間、静の頭に、数字が流れ込んだ。


(推奨手 勝率61.3%)


(次善手 勝率59.8%)


(この手は 勝率54.0%)


ノルトの頭の中は、数字だった。感情ではなく、AIの評価値の羅列。静は、不思議な気持ちでそれを眺めた。人間の雑音がない。きれいな世界だ。


静は、数字を鏡に映した。ノルトの「最善」の一歩手前を、お祓いでもするように、淡々と無力化していく。


ノルトの顔色が変わった。


(なぜ。なぜ、最善が通らない)


(この人は、AIの評価値を、見ているのか……?)


終局。半目。静の勝ちだった。


ノルトは、深く礼をして、片言の日本語で言った。


「ゴ、ゴシンカ、デス」


その夜、SNSは「リアル盤上の予言者」のタグで埋まった。巫女服の静は、世界中でバズった。


本人は、控室で緑茶をすすって、首をかしげていた。


「あらあら。この衣装、ちょっと暑いのねえ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。