写導戦隊カゲレンジャー4
『写導戦隊カゲレンジャー』4
・第四忍法「ベテラン合気道師範と合気術」
無一郎ら五人は道場に向かった。無一郎の運営する合気道道場だ。そこでは約百人の生徒を抱え、日々、稽古をしていた。時折、カイトとコンが試し合いの相手として特別講師をしており、その日はカイトとコンに加え、ミトリと腕太郎は見学という形で向かった。道場では高校生から社会人の生徒が集まっていた。
「押忍!」
カイトとコン、ミトリ、腕太郎も生徒達に元気良く迎えられた。ウォーミングアップの後、無一郎とカイトは生徒達に囲まれた中で組み手をした。カイトは本気で向かって行ったが、軽く受け流され、すぐに決着が着いた。次はコンだったが、これもすぐにあしらわれ、決着が着いた。すると無一郎はミトリを呼び、組手を申し込んだ。動揺する生徒達だったが、ミトリは着替えて軽いウォーミングアップ後、無一郎と組み手をした。相手が女性だから、という事もあったのだろうが、少し押される無一郎。しかし一瞬の隙を突いてフワッとした背負い投げで一本取った。生徒達は自然と拍手を送っていた。
「手加減しないで下さいよ。無一郎さん?」
「悪いな。女性には優しく、と教わって育ったものでな」
「あら。それって差別じゃないですか?」
「差別でも何でも結構。それがウチの流派なんでな」
生徒達は稽古をし、大いに汗を流した。そして十人程の生徒を残し、他の生徒達は帰っていった。無一郎は残った精鋭達に追加稽古を始めた。さっきまでは合気道の稽古。今度は合気術の稽古だ。『道』は道を究めるスポーツ。しかし『術』は殺人術。根本から違う。その為、選ばれた一部の警察関係者だけが無一郎の稽古を受ける事が出来るのだった。
「じゃあ行くぞ?」
過酷な稽古をし、本当に実戦さながらの格闘術を教える無一郎。そしてこの日はカイトとコン、更にミトリと腕太郎がいる事で無一郎との他流試合を見せる事にした。木刀、クッション付きの弓矢、六尺棒、木製の手裏剣。これらを無一郎は奥の倉庫から持ち出して「宜しく」と手渡した。ミトリと腕太郎は少し躊躇ったが、相手が無一郎なら、と渋々了承した。
まずはカイト。二刀流の構えで行った。どうにも躊躇いがあり、呆気無く負けてしまったカイト。それに対し無一郎は
「今ので死んでたんだぞ!?本気で来いと言っただろう!?」
と怒鳴った。カイトは「悪かったよ」と言って起き上がり、もう一度構えた。今度は本当に本気で向かったカイト。刃先を華麗に避け、受け流し、次第に詰め寄っていく無一郎。カイトは木刀を捨て、正拳突きをした。しかしそれが仇となり、一本背負いされて終わった。
「自分の武器を信用出来なくなったら、その時点で終わりだ」
「……肝に銘じておくよ」
「次、ミトリ」
「はい」
ミトリは最初から矢を構えた状態で少し離れた所からスタートした。次々と放つ矢。しかし何故か距離を詰めて来ない無一郎。百本の矢を全て受け流した時、ミトリは「降参です」と両手を上げた。
「集中力を切らさなければ、相手の弾を全て見極めて受け流す事が出来る。分かったな?」
生徒達は「押忍!」と答えた。
「次、腕太郎」
「あ、俺?」
「早くしろ!」
「は、はいっ!」
腕太郎は棒を手に取り、構えた。勝負開始の合図が無く、いきなり仕掛けた腕太郎。
「御免!」
そう言うが、すぐに避けられ、顔面に思い切り掌底を受けて気絶した。腕太郎が目を覚ました時、そこでは手当てをしてくれているミトリが目に入った。同時に無一郎は
「真剣勝負に行く時に掛け声を出す馬鹿がどこにいる!?」
と怒鳴った。腕太郎は「ご、ごめんなさい……」と謝った。最後にコンが呼ばれた。
「手加減、しなくて良いんですよねー?」
「全力で掛かって来い」
「じゃあ……」
コンは突如、手裏剣を投げた。それを横に跳んで躱す無一郎。その跳んだ方向に既に跳んでいたコン。無一郎の顔面の前で火遁の術をお見舞いするコン。まさかの事態に生徒だけでなくカイト、ミトリ、腕太郎も驚いていた。しかし炎は搔き消され、無傷の無一郎がそこに居た。すかさずコンは手裏剣を取り出して無一郎を刺した。しかし胴着の上着だけ脱ぎ捨て、無一郎は上に跳び、足刀をコンに繰り出した。バランスを崩したコンはその場に倒れ、手裏剣で顔の前を覆った。無一郎は足でコンの腕を踏み付けた。
「このまま行ったらどうなる?手裏剣が自分の顔に刺さるだろう?武器は時として自分への攻撃に切り替わる。忘れるな」
「……はーい」
実戦形式の模倣実技が終わり、生徒達は稽古を付けてもらい、帰っていった。
普段見ない攻撃的な無一郎に対し、カイト達四人は畏怖の念と共に尊敬の念も送っていた。
「いやぁー、強かったねぇー。無一郎さんー」
「全く太刀打ち出来なかったな……」
「あの優しいオッチャンがあんなに厳しくするなんて……」
「その分、アタシはダメージ少なかったなー」
「女性ってだけでズルいぞ」
「そうだそうだー」
「何言ってんの?悪いのはアタシ達でしょ?」
「それはそうだけどさー」
そこへ着替えを終えて出てきた無一郎。
「何だ?何の話だ?」
「いや、無一郎のオッチャン、凄いなーって話」
「何も凄くないさ。ただ歳を重ねただけの男だ」
「そういうところがカックイー」
「茶化すな。さ、今日の晩飯は何が良い?」
「カレーかなー」
「そうか。皆カレーは好きだもんな。楽しみにしておけ」
そうして一同はアパートに帰っていった。
一方地下では闇光師団の幹部ブラック・ガイがイライラしていた。
「あー!イライラする!」
「どうした?ブラック」
「あ、オドゥン様!?もう俺の堪忍袋の緒が切れました!次は俺が出ますからね!?」
「好きにしろ」
「ヘイ!料理人ローチ!入ってきな!」
「兄貴!お呼びで!?」
「俺に料理を持って来い!?人々のイライラを込めた、飛び切り熱いやつをな!」
「お任せあれ!」
ローチは地上に上がり、イライラして愚痴を言い合う人達の溜まり場であるとある居酒屋を狙った。そこの店長に成り済まし、人々のイライラを吸収して、それを概念料理として地下に持って帰っていった。
「兄貴!ご注文の品ですぜ!」
「おぉ!良くやった!……うん!美味い!これ程美味い料理は初めてだ!」
「あざっす!イライラを起こさせないくらいにやる気をも削って集めましたでやんす!」
「おいおい、そんな事をしたらこの飯が食えなくなるじゃないか?」
「この星には八十億人の人間がいるんですぜ?困りませんよ!」
「成程な!その調子でドンドン料理を持って来い!」
「畏まりィ!」
数日が経ち、最近、この地域で仕事に対してやる気が起きず、辞めていく社会人が続出しているとの噂が広まった。最初は「まぁ不景気なんだろう」「鬱病が出ているのかも」程度にしか思わなかったカゲレンジャーだったが、やがて無一郎の道場にも人が来なくなった。これは流石におかしいと感じた無一郎。しかし他四人は「そういうガムシャラになる時代は終わったって事では?」と思っていたのだが、無一郎だけは「いや、アイツらはそんな程度でヘコたれる程、軟な男達に育てていない!」と疑問を持つようになった。
ある時、唯一最後まで通っていた生徒の一人がやる気が起きない様子でやって来た。
「押忍……」
「修二。どうした?最近元気無いな?」
「何か、やる気が起きなくて……」
「それはこの道場が嫌になったって事か?」
「違います……」
「じゃあ仕事か?」
「違います……何て言うか……とある居酒屋に行くと、ストレスが消えるんです……でもそこを出るともうやる気も何も起きなくて……」
「居酒屋……?」
ふと修二の肩を見ると、一匹のゴキブリが乗っかっていた。
「おい、虫を道場の中に入れるな」
「あ、すみません……」
修二が肩のゴキブリを追い払うと、その場に倒れた。
「修二!?修二!?どうした!?」
奥の部屋で介抱すると、修二は目を覚ました。
「うぅ……!」
「大丈夫か?」
「俺は、一体……?」
「ゴキブリを肩から払い除けたら急に倒れたんだ」
「ゴキブリ……?あぁ、何かアイツ、居酒屋に行った時に着いてきたんですよ。何だか愛着が湧いて、飼う感覚で一緒に居たんです」
「何っ……!?」
無一郎は払い除けたゴキブリがいないか探したが、道場の玄関先に、まるでドロドロに溶けたかのように跡だけが残っていた。カゲマルを持ってきて光を当てると、そこには『邪』という文字が浮かび上がった。
「これは……闇光師団……!?」
無一郎は修二にどこの居酒屋か聞き、四人を引き連れてその居酒屋に向かった。するとそこには不気味な雰囲気で異形の姿をしたコックがいた。
「闇光師団!」
「お前達は……カゲレンジャー!?」
「お前は何者だ!?」
「俺様は料理人ローチ!カゲレンジャー!お前達を料理してやる!」
「人々を惑わす悪鬼妖魔!我々が成敗致す!皆!変身だ!」
一同は「応っ!」と答え、カゲマルを地面に刺してライトアップした。
「シャドウ変化!」
五人は変身した。
「カゲグリーン!タートル!」
「カゲブルー!ドッグ!」
「カゲレッド!キャンサー!」
「カゲピンク!バード!」
「カゲイエロー!フォックス!」
「写し、導く……ライトアップ!」
再び光が五人を包んだ。
「写導戦隊!カゲレンジャー!推参!」
「出たなカゲレンジャー!ポチ共!行け!」
小さなゴキブリが無数に現れ、それが人型になり、背丈も人と同じくらいに大きくなった。
「出陣!」
レッド、ピンク、イエロー、ブルーは雑魚のポチを、グリーンはローチに向かって殴り掛かった。
「料理を穢す奴はこの俺が許さん!」
「料理は全て、あの方達の為だ!お前達の物ではない!」
「いいや、それこそ違う!料理は皆の物だ!独占したら、幸せを分かち合えない!」
「黙れェ!」
ローチはフォークやナイフをグリーンに投げるが、グリーンはまるで曲を奏でるかのようにリズミカルに弾いていった。
「ヒィッ!?」
「お前に料理人を名乗る資格は無い!タートルファング!」
タートルファングを両手に装備したグリーンは、渾身の一撃をローチに叩き付けた。ローチはその場に倒れた。
「所詮は人を惑わす悪人……性根が腐ってる輩にこの俺が負ける訳が無い」
勝負が終わったかと思ったその時、ローチの周りにゴキブリが続々と現れ、喰らい尽くすかのようにローチに群がった。そしてローチは巨大化し、街を暴れ回った。
「おい!どうする!?アレ!」
「あんな大きいの、倒せっこないよ!?」
「いいや、落ち着け、皆!カゲマルの伝説を思い出すんだ!」
グリーンはカゲマルを地面に突き刺し、ライトアップした。
「カラクリメカ、出動!」
そう言いながらもう一度影絵を映すと、影絵から亀の姿をしたメカが現れた。
「おぉ!?」
「アレだ!あれを使うんだ!」
「やってみましょう!?」
「あぁ!」
四人は「カラクリメカ、出動!」と言いながらそれぞれの影絵を投影すると、影から蟹、鳥、狐、犬のメカが出現した。
「アレに乗るんだ!」
「分かった!」
五人はそれぞれのメカに乗った。
「カゲフォックス!」
「カゲドッグ!」
イエローとブルーは狐型のメカと犬型のメカでローチにタックルしていった。
「カゲバード!」
ピンクは鳥型のメカでローチを掴んで空高く舞い、地面に叩き付けた。
「カゲタートル!」
グリーンは亀型のメカで地を鳴らし、ローチを浮かせた。
「カゲキャンサー!」
レッドは蟹型のメカで浮いたローチを切り刻み、粉々にした。それでもまだ集まろうとするローチ。それに対し、無一郎は四人を集め、照準をロックした。
「行くぞ!カゲメカ・ファイブバースト!」
四人も「カゲメカ・ファイブバースト!」と叫び、中央のボタンを押した。すると五体のメカからビームが集中し、一つの球となってローチに向かってぶつかっていった。そしてローチは粉々になり、消滅したように見えたが、小さい一匹のゴキブリがそこにひっくり返っていた。五人はメカから降り、ローチの基となったゴキブリの所へ行った。
「封印の石」
グリーンは封印の石を取り出し、ローチを石の中に封印した。
「料理は人の心を癒す一番のセラピーだ。それを穢す奴は、この俺が許さん!」
グリーンは封印の石を天に翳し、高らかに言った。
変身を解いた後、五人はアパートに帰った。一同は、無一郎の作ったカレーに舌鼓を打って堪能し、風呂に入って寝た。
一方、地下ではオドゥン・クリムジャがいつものように鼠を使って何かの探索行動をさせていた。




