95, 教えてくれないのに怒らないでください。
コンコンッと、扉が叩かれる音が静かな空間に響いた。
「シャルルさん。お家に居ますかねぇ~。」
手に抱えたバスケットの中には、体調不良に効くフルーツの詰め合わせが入っている。
「⋯⋯。」
頭の中にこびりついて離れない、祭日のシャルルの姿。どうしてもそれが気になったハーディは翌日、こうして家に来てみたわけだが。
「あの、シャルルさーん?」
あまりにも返事が無いので、ハーディは試しに扉をガチャリと動かしてみた。
(これで開くのは物語の世界線だけですねー!!)
前に来た時にシャルルがやっていたように横に扉をずらせば、カラカラと軽い音を立てて扉が開く。
「え?」
鍵はかかっていないようだ。
「シャルルさん!?」
頭の中に沢山の推理や探偵モノの小説がフラッシュバックし、ハーディは弾かれるように中に入った。
「え、ハーディ?」
「おぉ、ハーディさんも来たのか。」
「ノックぐらいしなよ。靴脱いだのは偉いじゃん。」
「え、えぇ?」
前に一度会った幼少のシャルルが『これはちゃぶ台っていう床に座るタイプの机。』と言って、紹介してくれた木製の机を囲んで昼食を食べるシャルル、グリエノール、ゾエの三人と目が合った。
「私、ノックはしましたよ〜。」
「あ、ごめん。」
「やっぱ呼び出しの鈴付けたほうがいいぞ。」
「普段来客ないから。」
「というか、そのバスケット何?どうした?」
「お見舞いですねー。」
「え、シャル体調悪いの?」
「いいや。昨日一瞬気分悪かっただけ。」
「もう治ったならなら良かったですー。」
(あぁぁ、何故かすごく恥ずかしいです)
ハーディはこれまた前にシャルルが『畳』と紹介してくれた床に座り込む。
「そこじゃなくてもう少しこっちに寄れば?くらいでしょ?」
シャルルが立ち上がりハーディの前まで歩いてくる。
目の前で屈んで手を差し伸べてくれる。
(あれ、シャルルさんの爪、黒い?)
昨日までは肌よりすこし赤みがかったような色だった爪が、ぶどうの皮でも貼ったのかのように黒い。
「この爪、どうしたんですか?髪の色も、いつもより暗いような⋯⋯⋯。」
シャルルがその言葉に、咄嗟に手を後ろへ隠した。
「⋯⋯⋯⋯別に、気分。」
「そうですか?あ、そういえば」
部屋の空気がヒリリと張り詰めたような気がして、ハーディは慌てて話題を変えようとした。
「おい、アホシャルル、また出たのか?それ、なんで言わねぇんだ?」
「ねぇ、ハーディ、彼の症状が起きる前に何があったの?」
「グリエノール、ゾエも良いって」
「ハーディ、答えて。」
「⋯!?」
ぐわっとハーディの両肩をつかんで問いかけるゾエの剣幕に、ハーディはしどろもどろしながらあったことを伝えた。
「『果物を収穫』『お兄ちゃんとお姉ちゃんの家族は、どうなの?』『ママのジュースが飲みたい』、ねぇ。」
「地雷踏み抜いてんじゃねえか。」
「ねぇ、家族の話題出すなって言ったよね?」
「すみま」
「ゾエ、ハーディのせいじゃないって。話聞いてたならわかるでしょ?」
「でもさ、話題変えるくらいなら」
「ごめんなさい。」
「⋯⋯、は?」
ゾエはだらっと手を下ろした。
「なんで謝ってるの?本当に怒られてる理由わかってるの?」
「⋯いいえ。」
「でしょ?何も知らないよねぇ。」
『何も知らない』
その言葉がハーディの胸を貫いたようだった。足元から崩れ落ちるような、現実を突きつけられる感覚。
(確かに、私シャルルさんのこと、なにもしらないですね。)
命を救ってくれた人と、助けられた人。店主と客。よくサボる団長と、それを度々見つけられる人。所詮、私はその程度の存在だ。
「⋯、ごめん。ハーディさん、今、最高の八つ当たりしてた。悪い人なんて誰もいないもんね。偶然が、最悪の形で重なっただけ。」
「いえ、元をたどれば私が」
「帰って。」
「え?」
「お前、言い方ってものを」
「いまから、シャルルの検診するから。あ、お見舞いはそこに置いてて。後で食べさせるよ。」
「あ⋯⋯⋯はい。」
気まずい沈黙が四人の間に流れた。
「ハーデ」
「では、失礼しました。シャルルさん、お大事に。」
ハーディは涙があふれてしまわないように、笑顔を心がけてそう言った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




