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94, 国内最強の守れなかった者。

シャルルさんの回想

「母さん、俺が持つ。」

「あら、良いの?」

「うん、も」

「それ、すごく重いけど」


ゴトッ


「⋯⋯、何を入れたらこんなに重たくなるの?」

「ふふふ~、ヒ・ミ・ツ♡」

「あそ。」

「もう少し興味を持ってよ。もう~。」


至って平凡な家族だったと思う。

少し天然なとこがあって、家族が大好きで、どことなくふわふわしつつも優しい母親。

寡黙であまり話さないけれど、自分と母に対する愛情があるのはしっかりと態度で示す、村の門番をしていた父親。

親バカで相思相愛の両親に大切に大切に、そして、自炊できるようにと様々な演習(もといお手伝い)をさせられていた息子、それが俺、シャルルだ。


父親は藍色の、母親は銀色の綺麗な髪色を持っていた。シャルルは産まれたとき母親の色を引き継ぎ、綺麗な銀髪の髪をしていた。それがいつからか魔力を使うと、まるで汚れが溜まるのかのように毛先から髪が黒くなっていくようになった。その時はまだ伸びかけだった髪の毛先が明るめの黒色に変色していった。


黒色は魔の者の色。

俺ら家族は忌み子とそれを生んだ親として村を追い出され、様々なところを旅した。


そんな俺らを受け入れてくれたのが、ゾエが住んでいた村だった。


父は村の男と一緒に森に入り、狩りをした。

母はその知識から、果物や薬草を使った食事処を村で開いた。

俺は、来る日も来る日も、ゾエと一緒に色んな所を探検した。


「母さん、ジュース飲みたい。オレンジのやつ。」

「あらら。シャルルったら、本当にジュースが好きね。わかったわ。少し待ってて。」


俺がジュースが好きなのは、母がよく作ってくれていたから。



全てが好転し始めたはずだった。



「逃げて、シャル」

「⋯⋯。」


まだ意識があるにも関わらず、バキ、ボキと音を立てて咀嚼される母。

最後まで家族を守ろうとして、魔物の倒した木の下敷きになり事切れた父。


そんな二人に最後まで守られて、震えることしかできない自分。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


初めての魔力暴走は、このときだった。

気付いたときには魔物は肉片へと姿を変えて、

あたりの地面は抉れて、

俺は血まみれのゾエに羽交い締めにされていた。


あとからわかったことだが、この魔物は、あたりに邪と呼ばれる淀みが溜まっていたせいで生まれたらしい。本来は聖女率いる討伐隊によってすぐに浄化される淀みが何故、魔物を生み出すまでに肥大化したのか。


『辺境の村だからねぇ。』

『仕方ないさ。』

『アイツラはこんなさびれた村のことなんか守っちゃくれない。』

『今だって見てみろ。こんな昼間から酒ばかり。お前の父さんがよく止めるように言ってくれていたが、それも効果は無かった。』

『仕事はサボるくせに、無駄にプライドが高いんだからやになっちゃうよ。』


『『どうせこんなところに派遣される騎士なんて、王都でやらかした、クソな兵士なんだから。』』


(⋯⋯、滅ぼしてやる。)


それは、シャルルの根底にある呪縛のようなもの。


(魔物なんか、父さんと母さんを殺した原因は、全部⋯⋯。)


シャルルが騎士団に入団したのも、これを実行するためだった。


「ひゅッ⋯⋯ひゅ⋯⋯ッ。」


その事件以降、家族の話題を出されると、どうしても調子が狂った。冷や汗は出るし、魔力暴走は起こりかけるし。初めの頃はうまく呼吸ができずに倒れることもあったが回数を重ねるにつれ、それもうまく対処できるようになっていった。


シャルルに剣や魔法を教えた師たちに相談して、できるだけ感情の起伏を抑えることで、反応が出てしまわないように訓練もした。


騎士団で実力をつけて戦績を挙げると共に、俺はあの時の証拠を集め、次々とあの事件に関わる薄汚れた者たちを表舞台に引きずり出した。


そうしてすべてを終えたのが、魔法騎士団の団長になったとき。


(⋯⋯、あれ、俺って、何のために生きてるんだろ。)


母と同じ髪色は、そのときにはもうそこらの魔物よりも深い黒色になった。


『黒髪がうち娘にちかづかないで!!』

『縁起でもない。』

『髪の色さえ違ったらねぇ~。』


表向きの功績をすべて部下グリエノールへと押し付けていれば、あっという間に貴族に嫌われた国内最強ができあがった。


(母さん、父さん。)


復讐を終えた途端、やるべきことがわからなくなった。何に対してもやる気が起きなかった。ひたすらに魔物を討伐する日々。


(守れなくてごめん、ごめんなさい。)


2人の命も、母と揃いの髪の色も、父が残したあの家も。2人に育てられたことへの誇りも、本来は2人のように抱くべき仕事に対する意欲も、すべて。


(なんであのとき、俺が死ななかったんだろう。二人が生きていたほうが、絶対よかったのに。)


そう思うことは、2人への冒涜だと知っているのに。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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