71, 魔物研究者
『ゴギャー!!』
『キーキー』
『プルプルプルプル』
「うはぁ♡♡可愛いなぁお前たち♡そら、今日のご飯を持ってきたぞ〜♡♡ちょ、私の髪は食べても栄養も何もない⋯あは♡♡まぁ、お前がいいならいっか♡」
見たことの無いほど沢山の魔物に囲まれ、恍惚とした表情でだらしなく笑う男を見て四人は開けた扉をそっと閉めた。
「⋯、えっと⋯。」
「副団長、あいつ絶対ヤバイですって!!」
「あれ、本物のゾエ?ゾエはあんなに気持ち悪く笑わない。というか、あんなだらしない顔しない!!」
「⋯⋯、言いたいことはわかるが、あの魔物に囲まれてヤバい顔をしてるアレがゾエだ。」
「ちょっと、随分と失礼なことを言うじゃないか。」
「「「!?」」」
振り返って後ろを見ると、そこには、先ほどまで魔物に囲まれて幸せそうにしていた男が居た。ボサボサの焦茶色の髪を後ろで乱雑に一つにまとめ、サイズの合っていない丸メガネの奥からは、隠す気もない不満をたたえた瑠璃紺色の瞳がじっと私たちを見つめている。ふと、彼の使い込まれた白衣のポケットを見ると、小さなトカゲがこちらを見上げていた。
「ノックに気づいていたなら一言声をかけてくれ。」
「魔物たちを驚かせたくないからね。で、本日はどうしたのか⋯⋯、シャル?」
「やっぱり、ゾエなの?」
彼はハーディの横を見て目を見開いた。
(シャルって、シャルルさんのあだ名なんでしょうか?)
「何で、その姿⋯。どうして⋯」
「逆に、何でゾエはそんなに大きくなってるの?」
「⋯、ねぇ、覚えているところまで話してみて。昨日は、何をした?」
ゾエはシャルルの手を握って、私たちを、手招きした。どうやら、どこかの部屋に案内してくれるらしい。
「えっと、母さんと朝から森に木の実を取りに行った。ほら、薬になるやつ。」
「それで?」
「午後からは父さんとちょっと薪を割って、それからはゾエと一緒に晩御飯まで遊んでた。」
「⋯⋯、そっか。」
ゾエは優しく微笑むと、曲がり角の部屋の扉を開ける。その部屋は書庫の様で、大きな棚には本がぎっしりと並んでいた。
「シャル、少しここで待ってて。3人は奥に来て。」
「あ、はい。」
「⋯うっす。」
「⋯。」
四人で黙って書庫の奥の方、壁際まで歩いたところで、ゾエは口を開いた。
「多分、診た感じ、魔力が暴走していた。」
「魔力暴走?」
「マジかよ。」
「あの、魔力暴走って?」
「名前の通り、体内の魔力が暴走して、身体に異常が起こるものだね。手を繋いだりして、そこから魔力を流すだけで発見できる。」
「あ、だから、手を繋いで⋯。」
そうだね、とゾエは軽く頷いた。ヨハンが手を挙げて付け加える。
「普通は、高熱が出たり嘔吐したり、風邪や病気と間違えられやすい症状が出るんすけど⋯。」
「何で子供になってんだ?」
「それはまだ分からないけど⋯、十中八九魔力暴走が原因だろうね。そしてシャルル、意識が朦朧としているからか、記憶が曖昧になってるみたい。過去の記憶が前面に出て、若干の記憶障害みたいな感じになってる」
「え?意識が朦朧とって、そんな様子無さそうでしたけど⋯。」
ハーディは先ほどまでのシャルルを思い出した。子供だからか、いつもよりハキハキと喋っていた気がする。そして感情表現が豊か。
「うん、一見ね。でも、違和感はあったでしょ?知識は今まで通りなのに、どこでそれを知ったか思い出せない〜、とか。
成人した魔法騎士団長シャルルの意識が掻き消えて、幼少期のシャルが出てきてる。あれは、丁度11歳の頃のシャルだね。」
「あの一瞬で随分細かくわかるんだな。」
「それが研究者だよ。⋯、冗談。髪の色と、シャルの前日の記憶から判断した。」
「あ、そう。髪の色どうなっているんすか?銀髪って、団長黒髪っすよね?」
「まぁね。」
ゾエはパンッと手を叩いた。
「しばらくは魔力を魔石に吐き出させながら、経過観察するしか無いね。多分、治ったらもとに戻るよ。」
「それでもとに戻るんですか?」
「シャルルは魔力量が身体に合っていないからね。昔はよく魔力暴走していたんだよ。成長してからいつもは調整してるみたいだけど、緊張の糸が緩んだみたいな?何かしらあったんたろう。とにかく、今の状況になった。なんでかは知らん。」
「⋯。」
ゾエはヨハンとハーディの肩をパンッと叩いた。
「副団長くんは知ってるから、分かってると思うけど、今のシャルに両親の事を聞くな。家族を彷彿とさせることを話すな。⋯絶対だよ。良いね?」
「「⋯はい。」」
「じゃあ、もう良いよ。」
ゾエはそう言うと今来た道を帰り始めた。
(⋯⋯、どういうことでしょうか?)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
[追記]
7月のはじめ頃までしばらく更新ができないかもしれません。すみません。




