63, 陽キャな空気の読める騎士は今日も、言葉が足りない上司の言葉を代弁して歩く。
「で、さっきは何で他の騎士団の女性事情についてなんてマニアックすぎることを聞いてきたんっすか?」
ヨハンは休憩時間にハーディに声をかけた。訓練前に突然、
『騎士団の女性事情について教えてください!!』
と、ハーディとアメリアにこえをかけられたからだ。
その時は時間も無かったし、詳しい事情を聞けなかったが、ヨハンは訓練中、それが気になりすぎていつもより副団長にボコボコにされてしまった。
「えっと、グリエノールさんが、本気では無さそうなんですけど私たちのせいで悩んでそうだったので。女性事情を知れればと思ったのですが⋯。」
(⋯は?)
ヨハンは作っていた笑みをつい崩しかけたが、どうにか耐え抜いた。ここ最近のことを考えれば何となく意味は取れたからだ。
ヨハン含め、魔法騎士団団員の知るグリエノールという男は、恋愛に掛ける時間を全て仕事と魔法に回したい魔法狂で仕事狂。友愛までは順調に育めても、それ以上など、世界が逆転してもありえないだろう。
(薬とか盛られたらどうなるんだろう⋯じゃなくて。)
「あーっと?詳しいお話を聞かせてもらえると嬉しいんすけど。」
好奇心よりも目の前の背の低いジュース屋の店主と新しい仲間の方が明らかに大切なヨハンは確認も兼ねてそう問いかける。
「訓練が始まる前なんですが⋯。」
そうして語られたのは、一見本人を前にした悪口。だが、
(副団長は相変わらず言葉が足らなすぎる⋯⋯!!)
ヨハンには何となく状況が読めた。
まず、ことの発端は、ハーディの団長専属連行係就任。俺らが他の騎士団の前では、雑務要員と誤解してもらえるような言動を取っているせいで、しょうもないやっかみが増えた。
(まぁ、団長というストレスメーカーがいる副団長からすれば、都合よく現れるストレスの捌け口って感じでしたし。)
『ハーディさん本当助かるわ。仕事量も減るし、喧嘩ふっかけてくる子猫ちゃんは近寄ってくるし、ストレスは解消できるし。最高。妹になってくんないかな。』
とは、前に団員皆で飲んだ時にグリエノールが溢した言葉である。まぁ、翌日、酔いが完全に覚めた時に聞いたら、
『あ?なんだそれ。』
と、言われたのだが。
そして次が、アメリアさん。
『お前ら、可愛い子ばっか雇いやがって、ふざけるなよ。』
とは、涙ながらに喧嘩をふっかけてきた他の騎士団である。勿論、全て副団長に可愛がられた。
(最近の若い騎士達、シャルルさんに頼り切って腑抜けたやつが増えてるんすかねぇ。恋愛にうつつを抜かすのは良いっすけど、というか、そういうのが一部の奴らだってのも知ってるっすけど、なんか釈然としないっすよねぇ。)
ちなみに、アメリアが増えると知った時の魔法騎士団の反応は様々だった。
『あの子来るんだ。』
『えっ!?女の人!?ハーディちゃんでも恥ずいのに。というか、まだ顔見て話せないのに。⋯片付ける空き部屋は、1番風通しの良いところにしてあげようね。』
『お前ら、あんまり気ぃ抜いてると訓練増やすからな?』
である。彼女の働きは素晴らしく、床の見えない汚部屋が風通しの良い部屋になり、ご飯にコッケータの卵の殻や野菜の土は混じらなくなりと、環境の改善が素晴らしかったため、今ではアメリアはハーディに次ぐ恩人のような人だ。
(つまり、俺の憶測で良いなら副団長は、冗談交じりにいい加減うざくなってきた若い騎士達のことを愚痴ろうとして、話す前に何か用事を思い出した末に、こめかみを抑えながら消えた、と。)
責任を取ってはそのままの意味だが、押し付けられたと言っていたのは、多分、
『片付けが苦手な団員達のせいで汚れた部屋、飯はまぁまぁで、サボり癖のある騎士団長。問題だらけの騎士団をアメリアが押し付けられた』
と言いたかったのでは無いだろうか。
団長以外の団員の中ではグリエノールとの意思の疎通が最も上手くいっている自負があるヨハンは、すごく簡単に簡潔に言葉をまとめるとこう言った。
「とにかく⋯、これからもよろしくねってことですよ。」
「なら良かったです!!」
(あとで副団長にも、もう一度説明させておこう。)
ヨハンはポヤポヤと笑うハーディとアメリアを見ながらそう決意した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




