47, 夢
『月の聖女様。』
優しい笑顔で鞭を向けてくるそのアンバランスさに違和感を持つことを知らなかった。
『辛気臭い顔をしないでください。場の空気が悪くなります。』
嫌な気持ち、怖い気持ち。胸にそれらが浮かんだら、まるでそれを押しつぶすように、気づかないふりをするために、不自然なくらいに底抜けに明るく振る舞うようになったのは何時だろう。
『今日は、元気がよろしいのですね。』
『可愛らしいですね。』
それをしていることに気付いた人は居たのだろうか。
『アハハ。』
私でさえ、そんなことをしていたなんて、気付いていなかった。
○△○ ○△○
『ギャァァァ。』
『月の聖女様、逃げてくださ、うわぁぁぁ⋯。』
あの日、ハーディの住む世界は逆転した。
『⋯君、大丈夫?』
月明かりに照らされて仄暗く反射する、鈍色の髪が印象的だったのを覚えている。
『これ、飲む?フルーツジュース。ここ来る前に買ってたやつだけど⋯。オレンジジュース。美味しいよ。』
踊るように軽やかに、ハーディの信じていた世界を破壊する、洗練された剣技に魔法。
『もし良ければ、俺と一緒に捜査機関まで来てくれないかい?君が、自由になるために。』
優しく私を包みこんでくれた腕の温かさを今も覚えている。
優しい、優しい、兵士さん。
『ごめんね、そんな人知らない。』
『誰だいその人。』
『幻覚じゃないの?』
探しても、探しても、見つからなかった。
(期待しても、無駄になるくらいなら、初めから、期待なんてしなかったら良いんだ。)
ずっと、お礼を言いたかった。
『君の世界が暖かな光に包まれますように。』
初めて、私を人にしてくれた人。考えることを教えてくれた人。名前も名乗らなかった、私の英雄。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




