44, やっぱり逃げたい!?
「⋯あの。」
「はい。何でしょうか、月の聖女様。」
ハーディは部屋の清掃に来た女性に話しかけた。『月の聖女様』の世話役を請け負ったと紹介された女性の中では、最もハーディと年齢が近そうな子だ。髪は被っているベールのせいで見えないが銀縁眼鏡の奥の夜明けの空みたいな綺麗な瞳の色が特徴の女の人。
彼女は周りを見回し、作業を止めるとこちらへ歩いてきた。
「すみません。私、何かできることはありませんか」
「?」
「私、ここに来てから数日、貴女方にお世話されてばかりで何もできていないので。お手伝いでも⋯」
(と言いつつ、とにかく教団の詳しい情報が欲しいから、知ってる情報を聞き出したいな、とか思ってみたり⋯。)
相手はカルト教団の修道女。騙すようなことをして良心が痛まないのかと問われれば、正直言って、痛まない。
(うじうじしてちゃ、ダメ。何かしなくちゃ。)
「⋯月の聖女様はそこに居られるだけでいいのです。貴女はこの教団の象徴。貴女様がそこに居られるだけで、教団の士気が高まるのですから。でも、何かしたいと仰っていただけたことは、とても嬉しいです。ありがとうございます、月の聖女様。」
(作業の邪魔をしたのに、お礼を言ってくれるんだ。)
ハーディは虚を突かれたような気分だった。他の女性達なら、間違いなく折檻室直行コースだったから。
「⋯。貴女、他の人達と少し違いますね。あ、悪口では無いんです!?ただ⋯。」
「他の修道女にもよく言われるので大丈夫ですよ。」
「そうなんですね⋯。」
「私から信仰心を感じないらしいんです。」
「⋯。」
(⋯、本当に、ここにいる人達とは何かが違う。)
淡々としているというか、月の聖女(私)への執着が無いというか、教団の決まり事を守ろうとする、他のあからさまに熱心な信者達と比べて、何か、冷めてるような⋯。
「あの、貴女」
(何でここに来たの?)
「シスターアメリア。月の聖女様も。何をしているのです?」
二人して扉の方を向けば、熱心な信者筆と⋯じゃなくて、月の聖女の世話役筆頭の修道女がそこに居た。
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