43, 人形聖女
「聖女様、お召し物を俗世の物から着替えましょうね。穢れを落としましょう?」
彼女が私にそう言って見せたのは、見るだけで良質なものとわかる白いドレス。装飾などは一切施されていない、彼女たち曰く清らかな純白の、マーメイドラインのドレス。彼女たちは私に近付くと、勝手に私の着替えを始めた。
「まぁ、やはり本物の月の聖女様ですね。」
「見てください、この立派な月と月桂樹の紋章」
「この印を見ることができるなんて⋯。」
「神に感謝しなければなりませんね。」
彼女たちは私の背中を見ると楽しそうな声で話し始める。
(⋯、神なんて信じていないくせに。)
ハーディの背中には、意識もはっきりしない程幼い頃に、この教団の当時の神父によって彫られた月の聖女とやらの紋章がある。
四贄教や、創世教、10柱教といった、世の中の宗教は全て邪教と宣うカルト教団。邪神を崇めると言いながらも、所有している資産は全て純白に塗り上げるという2面性を持つ狂った集団。思想のためならどんなこともして良いと本気で信じる愚かな大人の集団。
私は、10才になるまで次期月の聖女としてここで育てられた。
暴力は教育、断食は聖女になるために必要な体を浄める大事な儀式。冷たい水に溺れさせるのは、聖女としての力を発芽させるため。
洗脳によって作り上げられた、考えることを知らない幼い女児。
(最初の頃は沢山子供がいたけど、気づいたら私だけになっていた。月の聖女なんてもの、実際は誰がなろうと関係無かった。別に、彼らは私を見ていないから。あの試練とやらを勝ち抜いた人なら、誰でも良かったから。)
本当に、何も考えられなかった。何かを思うこともなかった。心配しなくても与えられる衣食住。周囲の大人の言う通りにしていれば、気に入られれば、望まれる行いをすれば、死ぬことは無いのだから。
『ハーディちゃん。ここから逃げよ。』
そう言って私を逃がそうとした女の子は殺された。
『何故涙を流すのです?彼女は月の聖女の試練から逃げた臆病者。貴女様が泣くことなんてないのですよ。』
人を殺すことに、神の使命という言い訳をする、無責任な大人。
『何故勝手に歩かれたのです。貴女はここに座っていれば良いのです。勝手なことをする人には、罰が与えられます。』
人間として当然の行いが、全て彼女達の折檻の対象。
考えなければ、求められるようにしてたら、言うことをひたすら聞いていたら、あの痛いことは何もされない。優しく笑いかけてもらえる。
イイコにしていたら、生きることができる。
(周りの人たちを、巻き込みたくない。私が言うことを聞いておけば、全て円満に終わる。⋯よね?)
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