29, 鶏を追いかけて
「と、鶏さ〜ん?こっちに来てくださいね〜?」
ハーディはなるべく音を立てないように気をつけながら、巨大なその子に近付いた。
「そ、そうですよ〜、そのまま〜、動かずに〜」
「「ゴギャー」」
もう少し、のところでその鶏は脚を大きく振り上げる。突然の攻撃に驚いてハーディは盛大に尻もちをついた。
「あれまぁ、逃げられてしまいましたねぇ。」
「頑張れ〜。ハーディさん。」
彼女の背後の森から2人の男性が姿を現す。彼らの手には、さっきの鶏の仲間が繋がれた鎖が握られている。
「すみません、ザナさん、ローツさん。」
「いえいえ、謝らんといてね?こちらこそ悪いわぁ。」
「まさか鶏が逃げるとは思っちょらんかったんよ。」
「あと3匹やし頑張ろうな。」
「そーそー。お礼はするけぇ。」
「いえ、お礼なんてそんな」
(何で私、今、鶏【コッケータ】を追いかけているんだろう。)
ハーディはよいしょっと、立ち上がる。太陽の位置的に盛大に約束には遅刻しているだろう。
(相手の方はきっともう帰ってしまっているだろうな。でも、困っている人は放っておけないし。若干私のせいな気もするし、果樹園のオーナーさんには今度お詫びのお手紙を書こう。)
○△○ 〜数時間前〜 ○△○
「着いた!!果樹園の宝庫、フォン領!!」
ハーディは先日、祝福の実の仕入れについてのお話をしたいという手紙を、とある果樹園のオーナーさんに送っていた。そして返事のお手紙で、会いたいと指定されていた日が今日なのだ。
(魔法騎士団のみなさんのご帰還に間に合うといいな。他の騎士団の方々も来てくださったら本当は嬉しいけれど、それはなさそうだし⋯。)
ハーディはメモを広げて必要事項を確認する。
「えっと~、確か馬車乗り場で集合だったよね?」
「あら?アンタさんも誰かと馬車乗り場で集合しちょるん?」
「そうなんですよねぇ。」
「ワイらもなんよ。」
ニコニコの笑顔で話しかけてきた男の人たちは、ザナと、ローツと名乗った。
「ザナちゃんの魅力は何と言ってもこの水色の瞳!覚えとってや〜。」
「いや、双子の弟のウチも同じ瞳の色やがな。」
「じゃあ、桃色の髪の毛と口の左側のホクロが魅力やわ。」
「魅力はそうもコロコロ変わらんて。そういうウチの魅力はザナちゃんよりも濃い濃いこのワインのような赤い髪の毛と口の右側のホクロやな。」
「えっと~、魅力というより、見分け方ですか?いや、魅力じゃないってわけでは無いのですが、充分に魅力的なのですが、その、口ぶりがどちらかと言うとそんな感じだったので⋯。」
「「せやな!!」」
2人は、何が面白かったのか、その場に崩れ落ちたり、腹を押さえて笑った。
「ヤバい、アカンよザナ。ウチら、今まで言葉ずっっっと間違えとったんやない?誰も指摘してくれたこと無かったけど。」
「ヤバいなぁ。アカン、どーしょ?この子のフォローの仕方、可愛すぎん?こんな田舎には君みたいな優しい子おらんって。」
「王都でも、こんな街には君みたいな優しい子は居ないって言われたことあります。」
「ギャハハ!!田舎にも都会にも居らんやないか。」
「待って、笑いすぎて腹痛いわ!!」
(ハイテンションなお二人だなぁ⋯⋯。)
悪い人たちでは無いのだろうが、このテンションの人を王都ではあまり見たことがないので、ハーディは若干苦笑する。
今だ笑い続ける2人の激しい動きに不快感を覚えたのか、後ろでずっと静かにしていたその子達が2人を蹴飛ばした。
「ちょっ、堪忍ね、コッケータちゃんたち。」
「蹴らんといてぇね。」
「ずっと突っ込んでよかったのかわからなかったから黙っていたんですけど、何でコッケータがここに?」
「あぁ、ウチらもここで待ち合わせしちょるんやけど、来る途中に貰ったそ。」
「今もらってもこの子ら可哀想やって言ったんやけどね。」
ハーディの身長では、見上げないと顔が見えない程大きな鶏。ちなみに、コッケータの卵はとっても美味しい。街で売られている卵の過半数はコッケータの卵だ。
(こんな緩い雰囲気で渡し渡されするんだコッケータって!!)
「ごめんなぁ〜コッケータ。お詫びに撫でちゃるけ」
「ワイもやる〜。」
そして2人が鎖を持つ手を少し緩めた瞬間コッケータたちは逃走し、冒頭に戻る。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少し長めでした。




