9-39.後始末(2)
今日は契約に関する後始末の2日目だよ。
昨日の帰りの馬車ではステラとアリアが国王と宰相と同じ馬車に同席することになって、「教団を解体すべきか、あるいは改革で済むのか」って、アドバイスを求められたらしい。馬車の中では、「実情が分からないので申し上げられることはありません。ただし、一案としてアジャニアでは政治や統治と宗教団体は独立した活動を行っており、お互いに不可侵です」って、ミチナガさんの情報を一例として伝えたらしいよ。
夕飯では周りに人が沢山いたので教団に関する話題は出なかったけれど、馬車の中での話の続きとして、翌日に教団施設の視察に付き合うことになってしまったらしい。
まぁ、教団幹部の処罰を条件に含めた以上は、教団の幹部の責任だけでなく、解体するのか、別の形で教祖を立てて立て直しを図るのかは、有識者のアドバイスを聞いていおいて損は無いよね。
少なくともゲームや技術、通貨に関してこれまで教団の言いなりであった状態をアリアがゲームでそれらの実績をひっくり返してしまったのだから……。
「皆様方には昨日に引き続き、賭け事の支払いの契約に基づく現地視察にご同行頂き感謝します。
本日は教団の施設と関連施設を視察したいと考えております。と、言いますのも、昨日の帰路の馬車の中でステラ様とアリア殿に教団の処遇についてご意見を伺ったところ、現地視察をした上で検討した方が良いとのアドバイスを頂いたためです。
視察メンバーは、エルフ族や人族との関係を完全には切り離せないため、昨日同様のメンバーとさせて頂きました」
って、教団施設に向かう前に宰相から説明があったよ。
まぁ、普通に考えてリチャードや私なんかは賭け事とは何ら関係しないのだから、ステラとアリアとの契約で終わっちゃえば良い訳だし、スチュワートさんだってステラに付き従う必要はない。
けれど、今回は種族間の条約に調印する形となっているから、リチャードやスチュワートさんが外されないっていうのは、後々の国家間や種族間に遺恨を残さないための公平性を担保するための措置と考えれば妥当なところだよね。
最初に連れて来られたのは、リサが「インチキだ」って、文句を言っていた治療院だったよ。今回は形はお忍びだけれど、貴族の人達向けの案内者が付いて説明をしてくれた。 基本的な説明は施設や薬草倉庫、治療薬の提供なんかがあることだった。ただし、貴族の方たち向けの高度な治療を施すことが可能とのことで、一般的な訪問者とは隔離された別室に案内された。
「ここだけの話ではございますが、寄付額次第では高度な治療を提供できます。これまで不治の病と言われた病気から回復された方達が何例もございます。また夜な夜な徘徊するような呪われた症状でご家族の方が困り果てている様な事例にも対処した経験がございます。
もし、皆様のお知り合いの方達に問題を抱えている様な方がいらっしゃった場合には、一度こちらの窓口をご訪問頂ければと思います」
う~~~~~ん!怪しい!
プラシボ効果的な話もあると思う。例えば「これは効果が高いのですが、非常に高価で貴重な物です」って処方された薬を飲むと、偽薬であっても医師の発言と支払った高額な治療費によって思い込みが発生して、脳の各種ホルモンが良い側に作用して、実際に症状が軽くなるなってことはよくある話。
嬌声をあげたり、徘徊するっていう症状も現代の地球では多くの場合は精神病とか境界例として診断され、それに応じた症状を緩和させる薬品が投与されて、症状に合う場合には改善に向かうこともある。1900年前半に行われていた様なロボトミー手術なんてのも、こっそり行われているのかもしれない。
ただ、破傷風とか狂犬病の様な類いはワクチンの摂取を行わないと死に至ることも多々あるだろうから、そういった事例は、「既に手遅れの状況ですが、精一杯努力しましょう」とかなんとか言って、責任を予め放棄した上で治療行為に当たっておけば、遺族側から訴えられることも無かったんだろうね。
実際、西洋医学に分類される科学による立証が行われてきている医療行為と、東洋医学と呼ばれる様な漢方とか経絡に針を刺すなどして人体の神秘に基づく治療行為もあるから、この教団の治療行為を疑わしいから全てを否定することは出来ないんだけどさ……。
それにしても前回訪問した際のリサのお怒り状態を考えると、南の大陸で行われている治療行為や投薬の行為と比べても粗末な内容なんだろうから、期待は出来ないんじゃないかな……。
提案できるとしたら、教団の階級制度や財務状況を調べて、高額寄付による階位が上がる様な仕組みが無いかとか、治療に係る薬草などの原価とか入手経路から、教団が適正な思想に従って、多くの人達へ治療行為を施せる仕組みを導入してすることだろうねぇ……。
ま、この辺はリサに落としどころを確認した上で、それをステラかアリア、あるいはミチナガ様から提案して貰うのが良いと思う。
<<リサ、この治療院の財務状況を確認するのと並行して、どう改善したら良いか意見を聞きたいのだけど良いかな?>>
<<お母様、今更なんですか?それにザイムジョウキョウとか、訳のわからないことを言い出さないでください>>
<<あ、れ、……。リサ、怒ってる?>>
<<怒らない要素がどこにありますか?お母様は自分勝手過ぎます!>>
ええと……、なんでリサに怒られるんだっけ?
こういうの、下手に質問すると、「貴方は人の心が分からない!」とか、余計に怒らせちゃうんだよね。上手く誘導しないと……。
<<リサ、サンマールの拠点に帰ったら色々と話を聞きます。今は魔族のために、この治療院を良くする方法が知りたいの>>
<<お母様、ザイムジョウキョウって何ですか?>>
<<簡単に言うと、お金の流れと現在の残額みたいな話です>>
<<それと、治療院の改善がどうつながるのか判りません。お母様はどちらも大切なのですよね?>>
<<うん。
私とリサが自分たちのお金で治療院を改革するなら、全部リサの思い通りに準備を進められるよ。例えば、サンマールの拠点とかエスティア王国の関所の拠点なら、自由に出来ることが多いよね。
でも、ここは魔族の国のなかの教団の施設だから、お金も法律も人員もどの程度自由に変えて良いのか分からないの。お金が無いと何もできないから、それを調べる必要があると思うよ>>
<<お母様なら皆に命令して貢がせれば良いのです!>>
<<リサ……。
確かに色々な人に助けて貰って、そのおかげで様々なことが出来ているよ。それがリサの気分を害しているなら今度詳しく説明する。
今は表立って皆に協力してもらうことが出来ないし、教団という魔族を支配している団体を取り除こうとしているのだから、魔族の人達には教団に依存しない形で自立して貰わないといけない。当然、私達が永遠にここに住んで支援し続けることは出来ないよね>>
<<またステラ様やアリア様にお願いするのですか?>>
<<今はリサにお願いしようとしている。でもリサが嫌なら他の人に相談する>>
<<そういうことであれば分かりました。私が支援します。
まず、この魔族の国にも薬草を採取して薬を作る拠点が必要です。また、その薬草を栽培する場所や人員も妖精の方達の支援が有りませんので、大掛かりに必要になると思います。
魔族の人達は私の生まれた村を滅ぼしましたが、薬草やそういった知識に見向きもしませんでした。今ならステラ様やアリア様の助言を受け入れ可能と思います>>
<<リサ、ありがとう。他にはあるかな?>>
<<症状を見分ける人の知識と人員の拡充が必要です。
見学した施設は何の症状か確認もせず、全員に同じ飲み薬を与えていました。
これでは適切な治療とは言えません>>
<<リサ、ありがとう。
お母さんが居た所では、そういった症状を見分ける人を『医者』って言って、そのお医者さんが必要な薬が何かを決めて、それを病人に渡す仕組みだったよ。
リサの知っている知識ではどういう感じで進めていたの?>>
<<教会か村の長老が症状を診て、どのような方法が良いかを決めます。
小さな教会で知識のある神父さんが不在の場合は大きな町の教会まで出向く必要があります>>
<<そっか……。
人族の教会と魔族の教団では、同じ仕組みが使えないねぇ。
それに、ここの王都の様に人数が多い場所では、村長や長老って人が面倒を見きれる訳じゃないし……>>
<<お母様、私は質問されたことにお答えしただけです。お母様の言うようなお医者さんという仕組みを作るなら、それでも構いません>>
<<わかった。リサ、ありがとうね。魔族の人に相談してみるよ>>
<<よろしくお願いします。
ところで……。
お母様はどうして無償で魔族の人達を支援するのですか?>>
<<え?>>
<<名誉も富も得られず、自分の時間を犠牲にして支援する理由がわかりません。
他の種族なのだから、自分のことを自分ですれば良いのです>>
なんか、リサらしくないねぇ……。
魔族に恨みでも……。
ああ!魔族を滅ぼしたいぐらい恨んでるよね!
そりゃ、そっか……。
でも、教団の治療の仕方にも不満があって、そこはそれで救いたいんだろうねぇ……。
魔族の政権を教団にかわってリサが握っちゃえば自由なんだろうけれど、自分を酷い目に遭わせた国を助ける訳ないし……。
<<お母様、どうかされましたか?皆、つぎの施設へ移動するようですよ>>
<<リサ、ごめんね。おかあさん、リサのこと何もわかって無かった……。
リサの言う通り、魔族のことは魔族に任せれば良いよね……>>
<<私と魔族は関係ありません。関わりたくありません>>
<<そうだよ。それなのに魔族のカサマドさんと一緒に過ごさせたり、今も教団の治療施設を支援させようとしたり、飛竜に関しては飛竜族に助けてもらう形になっているけれど……>>
<<お母様?>>
<<はい>>
<<私は個人的に酷い目に遭いました。その意趣返しに魔族を滅ぼすことは考えていません。お母様の貴重な時間を余計なことに使っていることに腹を立てています>>
<<リサ、もうちょっと詳しく教えてくれる?>>
<<そもそもお母様はお父様に内緒でユグドラシルの登頂を目指していたのですよね>>
<<うん。今もそうだよ>>
<<お父様が1年間という限定でハネムーンという諸国放浪の時間を作ってくれた訳ですよね>>
<<うん、まぁ、そうだよね>>
<<サンマール王国の支援につづけて、魔族の支援をしている場合じゃないです。わかりませんか?>>
<<ユグドラシルの樹は、この大陸のシンボルの様な存在だし、飛竜族にも守られているからその準備をしていると思うよ。
獣人族はレイさんとレミさんの紹介状があるから大丈夫。ドワーフ族はニーニャの伝手で大体なんとかなると思う。エルフ族はステラとスチュワートさんにお願いすれば大丈夫だと思う。
問題は、飛竜族、人族、魔族が残っていて、飛竜族と人族は解決したと思っているよ>>
<<あ……>>
<<リサ、どうしたの?>>
<<いや、あの……。ひょっとして……>>
<<うん?>>
<<でも、まさか……>>
<<リサ、お母さんで分かることなら相談にのるよ>>
<<これまでのお母様の行動は、ユグドラシル登頂を成功させるための準備なのですか?>><<無駄なことも多かったかもしれないけど、大体そうだよ。
リサもシオンもマリア様もリチャードも全部無視して、ステラとユッカちゃんと私の3人だけなら、とっくに登頂は終わってると思うよ>>
<<ん……。んん……。
でも、賭け事で勝利を収めて魔族の国を混乱させるこ必要はありましたか?>>
<<オマケっていうのかな、ちょっと余計なことが付いてきちゃった感じだね。
魔族の国にある神器の斧は取り返す必要があったんだよ……。そのお金を稼ごうとしたら大ごとになっちゃった感じだね>>
<<それなら武闘大会だけで良かったはずです。ゲーム大会なんか参加しなくても……>>
<<リサ、ちょっとごめんね。それはお母さんが悪かった。
ゲーム大会始まるまでの下見のときに武闘大会に参加することになったんだよ。
作戦としてはゲーム大会でお金を稼ぐことが本命で、武闘大会の勝利はオマケみたいなもん>>
<<お母様のちょっとはおかしいです。
ちょっと武闘大会にでて神器の斧が手に入るとか有り得ませんし、新規の斧を手に入れる準備をしたら魔族の国の経済が崩壊するとか有り得ません>>
<<でも、ちょっとだったよね?
ロメリアもちょっと橋を作っただけだし、アジャニアもちょっと迷宮潜っただけだよ>>
<<サンマール王国もちょっと迷宮に潜って、国が崩壊する大混乱を引き起こして、魔族の国ではちょっと賭け事をしたら経済が崩壊するわけですね……>>
<<リサもシオンも訓練で一緒に居たでしょ。1週間とかユグドラシル登頂の準備に比べればちょっとの準備だよ>>
<<確かに、あの訓練を終えていないとユグドラシルの登頂や飛竜族との交流は無理だと思います……>>
<<でしょでしょ?ちょっとだけなんだよ?>>
<<ちょっとの賭け事より、後始末の方が大ごとになっちゃってるじゃないですか!>>
<<じゃ、『全部要らない』って、このまま放棄してユグドラシルの登頂にいく?>>
<<こんな状態で放置したら魔族の人達が可哀想過ぎます!ちょっとは考えて下さい!>>
<<ちょっと考えて、リサに教団施設の治療院のことを手伝って貰おうかなって……>>
<<……。>>
<<なんで私がお母様が起こした戦争の尻ぬぐいをするのですか?>>
<<リサ、リサ、話が最初に戻ってるよ。
お母さんが魔族の国を支援したいというより、『ちょっと』の後始末してるだけ。
リサが嫌なら他の人と一緒にやるよ>>
<<お母様に言い包められている感があって、納得はいきませんが私が表に出ない範囲で最大限の支援をします!>>
<<リサ、ありがとうね。
そうしたらアリアと教団の財務状況と魔族の国の国庫を確認して、教団に代わる治療施設の検討を進めるよ>>
<<お母様、『ものすごく、ちょっと』が良いです。ケチって思われても良いのでちょっとだけしか支援しない方がいいです。お母様が本気をだすと大ごとになります>>
リサの言う通りだよね。
それにしても、日本にいた頃に父が『ヒカリ、お金、時間、手伝ってくれる人に合わせて実験計画を立てるんだよ』って、教えてくれたのを思い出すね。
父の言いたかった実験計画って言葉は、私が実験好きでそれに合わせた単語を分かり易く説明してくれたんだと思う。今、魔族の治療施設は大きなプロジェクト管理が必要になるけれど、基本的な考え方っていうのはこういうところでも役に立つんだね。
魔族の国の財源と人、そして何年で軌道に載せるかかの筋道を立ててあげれば良いかな。とりあえず、それくらの支援に留めておけばリサにも怒られないとおもう……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
いいね!ブックマーク登録、感想や★評価をつけて頂くと、作者の励みになります。




