9-38.後始末(1)
実演が終わったから、あとは魔族の国の滞在の後始末だね。
アリアのゲームの実演が終わった翌日。
朝から魔族の王族の食事に招待された。集まったのは昨日の会見に同席していた中から教団の人達を除いたメンバーだよ。朝食は、流石にお弁当の手持ちは無いし、容量無制限の不思議なカバンを持っていることを見せる訳には行かないから、魔族の方達の普通の食事を提供して貰って、それを皆で頂いたよ。
食事は悪くないと思う。
気を遣ってくれたのか小麦のパン。けれど、ふっくらとしてなくて、硬いホットケーキみたいな、のっぺりと重い感じ。重曹もドライイーストも天然酵母も無いからしょうがないよね。重曹は無理としても、天然酵母の技術が提供されていなのはちょっと違和感があるよね。教団の人達は食事に興味が無かったのか、うまい具合に天然酵母の元が作れなかったのか……。まぁ、麺類とかトルティアみたいな薄焼きの生地なら、無理に膨らませる必要無いしね。
スープは野菜と肉のスープ。部位を限定して煮たのか、それとも灰汁の処理が丁寧に仕上げられているのか、コンソメスープの様な豊潤さは無いけれど、お肉と野菜の旨味がでていていい感じ。贅沢を言えば、油が浮いていて朝から胃に厳しかったり、塩味だけでなく、スパイスとかのアクセントがあるともっと飲みやすくなる感じかな?パンをスープに浸して食べれば、まぁ、いけるラインだと思う。南国のフルーツが剥かれていたので、それを何欠片か頂くことにしたよ。
これで朝ごはんは十分だったよ。
後は、保存されたチーズとソーセージが切って盛り付けてあったけれど、臭いが私には慣れないものだったので手を付けなかったよ。卵料理も卵料理なのか分からない何かだったので手を付けなかった。この辺りの味は不明。生ぬるい牛乳かヤギの乳はちょっと臭いがあったのでこれも手を付けず。
毒を提供していなくても、地場特有の細菌がいて、それ由来が原因で体調を悪くしたらいろいろと国際問題になる。だから自衛も必要だよね。
と、丁重な朝ごはんのもてなしを受けながら、今日の予定についての提案が宰相からあったよ。
「ステラ様、食事をとりながらで申し訳ないのですが、今日の予定についてお話をさせて頂ければと思います。
まず、昨日の面会で話題に挙がりました『飛竜召喚の儀』ですが、無期限の延期とさせて頂きたく。と、申しますのも、昨日の石の落下の痕跡を夜が明けてから確認させて頂きましたところ、我々ではあのような攻撃を受けた際に防衛する手が打てないとの見解に至りました。それ故、飛竜の武力性能につきましては示威頂くまでもないという結論に至りました。エルフ族の方達と和平を結びたく存じ上げます。
本件は昨日の宿題になっておりましたので、このような回答を提示させて頂きましたが宜しいでしょうか?」
「私としては昨日作成した契約書や条約が守られるのであれば問題無いわ。スチュワートは何か意見があるかしら?」
「私としても、遊びで立ち寄った妻の報酬として魔族の国を経済破綻する意図は無く、それよりは魔族の国が飛竜に襲撃されない状況を共有することを主とした提案をさせて頂いたまでです。
いずれ飛竜の召喚や指揮下に入れる手法が得られた段階で改めて協議させて頂ければと思います」
うん。
エルフ族っていうかステラに喧嘩売っちゃいけないって理解して貰えたみたいだね。実際には妖精召喚による魔法の行使はしていないけれどね。
「続きまして、我々が取引の提案として掲げておりました、航海術や料理のレシピについてですが、これも取り下げさせて頂きたく。
その代わり、もし皆様のご都合が付けば鳥の飼育施設へご案内することで、アリア殿との契約を完了を進めさせて頂ければと思います」
魔族としては、エルフ族への無条件降伏を承諾することと、その上でアリア側との契約の精算を無事に完了さること。その上で早急に教団の解体や国の指針を打ち立てて、国の立て直しをする必要があると、昨日の内に決断したんだろうね。非常に前向きで決断力がある王族が残っていてくれて助かるよ。
で、お互いに決着を速やかに進めることでは同じ方向を向いているので、鳥の飼育施設の権利譲渡に向けて、実際に現に向かうことになったよ。皆で馬車に分乗して午前中いっぱいかけて移動して鳥の飼育施設に来たわけだけど……。
リサか誰かがステラに念話を通して、飛竜の居場所を教えたとしか考えられない発言がスチュワートさんからあった。
「こちらの飼育員がいれば、施設での鳥の飼育状況を確認させて頂きたいのだが、あちらの山の中腹でも鳥の飼育を行っているのだろうか?例えば夜行性の鳥などであるが……」
と、スチュワートさん。
その質問を受けて、案内係の飼育員は挙動不審になり、魔族の王族側で新規に手配をしている通訳者に耳元で何やら話をする。
今度はその通訳係が宰相に耳元で伝言ゲームを始める。その宰相の顔色が見る見る悪くなるのを見守っていると、宰相は勇気を振り絞ってディアブロ陛下に伝言を行った。
その伝言ゲームの終着点にいたディアブロ国王陛下から回答があったよ。
「スチュワート様、そしてステラ様、先ずは冷静に話を聞いて欲しい。そして出来れば飛竜との仲介をお願いしたい」
「と、いいますと?」と、スチュワートさん。
「あちらの山中には飛竜の飼育施設があるとのこと。これは教団が主導で行ってきた研究施設であるが、王族として管理責任を問われても致し方ないことである。私の首で話が済むのであれば、責任をとる覚悟がある」
「ディアブロ陛下、承知しました。先ずは現状を確認させて頂きたく存じ上げます。
その上で妻と相談し、どの様な方策が考えられるか検討させてください」
それぞれの発言を通訳が翻訳し、その場にいた全員に情報が共有されると、施設の案内係へ飛竜の研究施設を開示する様に指示が出たよ。
その後は1週間くらい前に私達が案内を受けた内容と一緒で、手前に孵化して数か月の飛竜族、そしてその奥には体長が大きくなり、檻に閉じ込められている飛竜の見学と説明を受けたよ。
「案内係による飛竜に関する研究の説明は以上とのこと。
他に確認されたいことがあれば何なりとお尋ねください」
と、宰相から基本的な説明が完了したこと伝えられた。
事前に想定していた話し合いで解決する方法としては、飛竜族をここへ呼んで、その上でステラが仲介して魔族に恩を売る形で考えていたけれど、今は飛竜を召喚する必要も無いだけでなく、魔族は国王が首を差し出すとまで言っているのだから、無理に事を荒立てる必要は無いんだよね。
さて、どうしたものか……。
<<ヒカリさん、この後の進め方だけれど、国王陛下の首は不要よね。ともかく囚われている飛竜の子達を解放して、飛竜族の下へ返してあげた方が良いと思うだけれど、どうかしら?>>
と、ステラから念話で連絡が入った。
確かに私もステラと同じ考えなんだけど、飛竜族の人達が私達の話を聞き入れてくれるほど冷静でいられるかっていう話なんだよね……。
まぁ、今から念話で交信してみるか……。
<<ステラ、武力衝突は不要で、飛竜の研究も今後魔族の国では禁止させる条約が締結されたことと、研究施設で飼われている子供たちが解放出来ることを伝えるよ。
その上で、飛竜族として子供たちを引き取るのか、我々に処分を任せるのか確認するね>>
<<ヒカリさん、承知しましたわ。それまでは、私は飛竜族を召喚するための検討を始めることにするわ。他の人達は飛竜の研究施設以外の権利の譲渡について内容を精査することにしましょう>>
<<うん。その線でよろしく~>>
ーーー
<<エルマさん、お久しぶりです。今、族長のハリさんに念話を通させて頂いて良いですか?>>
<<ヒカリ様、お久しぶりです。族長のハリは昼食の時間ですが緊急のご用件でしょうか?>>
<<エルマさん、緊急と言えば緊急だけれど……。う~ん……。>>
<<私が代わりの用件を伺っても構わないでしょうか?>>
<<面倒な話だけれど、最後まで聞いて貰えるのなら……>>
<<ヒカリ様のお話であれば、しかと受け止めさせて頂きます>>
なんか、途中で怒り心頭って感じでここに乗り込んで来なければ良いけれど、最後までちゃんと話を聞いてくれるかな……。まぁ、手短に話せば良いかな?
とりあえず、人族が卵を盗んでいて、それは魔族の国に販売されていたこと。その卵が魔族の国で孵化されて、飛竜族の研究に使われていたこと。そして、人族にも魔族にも飛竜の卵の売買や研究を禁止させる様に通達したところまでを説明した。
<<ヒカリ様、ありがとうございます。流石はヒカリ様です。この問題が無くなったことをハリに伝えれば宜しいでしょうか?>>
<<ここまでは良いことだし、それほど緊急では無かったので、直接そちらへ出向いて報告すれば良かったのだけれど……>>
<<そうしますと、ヒカリ様とお仲間が魔族に囚われていて、その救出に向かう必要があるということでしょうか?>>
<<いやいや、それも大丈夫。大丈夫なんだけど、囚われているというか、飼育されているのが飛竜族の子供たちで……>>
<<承知しました!飛竜族全員で直ちに救出に向かいます。場所はヒカリ様の念話を辿れば宜しいですね?>>
<<あの、その、ちょっと待って。
救出する前にここにいる飛竜族の子供たちを世話できるか確認をしたいの。生まれて間もない子達は飛竜族で育て直すことが出来るかもしれないけれど、成長した子が一人いて、その子とは念話が通らなかったの>>
<<ヒカリ様の念話が通らないのは、意識が無い場合とヒカリ様の思考に追いつけてない場合があるかと思います。こちらで世話をします>>
<<孵化中の卵が6個と孵化したばかりの子が4人。それと育成が始まって1年程度の子が一人いるよ。
卵は孵化してから移動させた方が良いと思う。だから4人の子と1年程度育成された子の5人の面倒が見れる人と、運べる最低限の人員を用意して訪問して欲しい。
あまりに大掛かりな編成で来られると魔族の人達や周辺の人達が騒ぎ出して武力衝突になってしまうからね>>
<<ヒカリ様、私はその様な話を聞いて、武力衝突となることを厭いませんが?>>
<<うん。ハリさんとよく相談して欲しいの。
武力衝突というか、魔族そのものを滅ぼす必要があるとすると、飛竜の卵を盗んで販売した人族にも責任があるよね。私も人族だから、飛竜族に滅ぼされなくてはいけないよ>>
<<ヒカリ様は関係ありません!悪いのは魔族です!>>
<<うん。悪いのは魔族の一部の主導者だね。だから、飛竜族のことを知らない人たち全員を巻き込む必要は無いと思うの。だけれど、飛竜族の意思は尊重したいので、ハリさんと相談してくれる?>>
<<直ちに相談を進めます!場合によってはヒカリ様にも念話を繋がせて頂きますので、予めご承知おき下さい>>
<<分かった。よろしくね>>
と、エルマさんとの念話を終わらせてから5分も経たないうちにハリさんから念話が返ってきたよ。私としてはハリさんが族長としての大らかな判断をしてくれるとありがたいのだけど……。
<<ヒカリ様、お忙しい中、挨拶が遅れて申し訳ない。
エルマから概略の情報を頂きましたが、要は魔族の国に囚われている同胞を引き取りに伺えば宜しいでしょうか>>
<<ハリさん、話が早くて助かります。今日のところは生後間もない子供を4人。あとは1年くらい経過して、念話が使えない子を一人。卵の状態で孵化器に入れている子は孵化してから後日引き取りが良いと思います>>
<<うむ。承知した。ヒカリ様がお使いになる、透明化の術を駆使して向かえば宜しいだろうか?>>
<<うん。到着するまでは透明化しておいてくれると助かる。そして、ステラってエルフ族の人が居たと思うけれど、あたかもその人の指示に従っている風に装ってくれるとありがたいです>>
<<承知しました。詳細につきましては、移動しながらヒカリ様とステラ様と打ち合わせさせて頂きます>>
なんか、私が飛竜族を使役してるみたいになっちゃっているけど、族長が冷静に判断した結果が私と同じ方向を向いているのだと捉えたいよね。ステラとも同じ方向を向いて行動しているだけだと思うし……。
ハリさんが飛竜の巣から鳥の飼育施設に来るまでの間、ステラには召喚の儀をする振りをして、適当な印を地面に描いておいて貰ったりした。
その一方で、飛竜族としても魔族の国が所持する孵化器については、孵化した子供の特性次第では、飛竜族としてその機能に期待したい面もあるとのこと。その場合は装置を人族が管理して、その上で今後も飛竜の卵の孵化の支援をしてもらいたいとのお願いがあった。
やはり、今後も卵を盗難される恐れがあることと、崖の上での孵化作業は母親への負担が掛かるとともに、誤って卵を巣から落下させてしまう事故も起きているのだとか。
ともかく、飛竜族と魔族では戦争が起こらずに間接的に調停が済んだことは大きい。そして、図らずもステラが飛竜を召喚して、指示を出して巣に帰らせることが出来ることも実演できた。
飼育施設を人族の支配下におけたことの実利より、とても大きな成果が出せたんじゃないかと私は思うよ?
今日は鳥の飼育施設と飛竜との関係構築が出来たってことで、一旦王城に帰って宿泊することになったよ。さて、明日は何をしようかな?
いつもお読みいただきありがとうございます。
暫くは、毎週金曜日の更新でがんばります。
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