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夜。セイザンの一角にある豪華なシウ家の屋敷。その庭を使った立食パーティが贅沢に開かれていた。
ラウルとシェーンは招待チケットをさらりと入手しており、シレッとその会場にて辺りを見回していた。
「うわー、すっげぇ~」
広い庭に置かれたテーブルの上にこれでもかと盛られた料理の数々に、シェーンが目を輝かせているのを見てラウルは苦笑する。彼女はセイザンの街並みがあまりお気に召さなかったらしいが、しかしここで見る料理の数々には感銘を受けたらしい。目をキラキラさせて色々なテーブルに目移りするその姿は涎を垂らさんばかりの犬にも見えてしまった。もっともその頭上でピンと張っている獣耳を見ると犬にしては長すぎるように見えるが。
「なぁなぁ、もうこれ食べていいんだろ?」
「そうだね。食べる人もいるし、もう良いんじゃないかな。あ、でも一度に取りすぎないようにね。前にビュッフェで皿に盛りすぎて地面に零してただろ?」
「わーってる。あんなのもうしないから」
「本当かなぁ……」
ラウルの小言もそこそこにシェーンは料理の方に突っ込んでいってしまった。昼にたまった鬱憤をここで晴らそうとでもしているらしい。
そんなシェーンの様子を横目で見ながらも、ラウルは招待客や屋敷の様子にも油断なく目を走らせていた。
(パトリック・シウはあそこか……)
もう既に客同士の歓談は各所で始まっているようだった。中にはウェイトレスに対して粉をかけているような若い男も見受けられたが、大抵は何らかの商談をしているように見えた。ホストであるパトリックもまた一部での会話に参加していた。親し気な顔で会話に参加し、すぐに何らかの話をまとめては次々と違うグループへ話に行っているパトリックの姿を見るに、ラウルは"営業活動も大変だな"と自分には無理だと変な感想を抱いてしまう。
とは言え今回のラウルのお目当ては、パトリック本人では無く彼が持っているという海港王の像であった。街中には石に彫られた像が各所にあったが、シウ家が代々もっているそれは木彫りである上、宝石が埋め込まれているらしく、それなりの資産価値があるらしい。
だが、それだけではお宝としての噂が立つ程でもないし、ラウルとしてもあの情報屋が回してくるとも思わなかった。
(見せびらかすでも無いと言う事は、屋敷の中かな――)
パーティを屋敷の中では無く外でやっているというのも、もしかしたら余計な人を立ち入らせないようにするという安全の為にやっているのかもしれない、とラウルは思い至った。だがそれならそれで自分の家でパーティなど開かなければ良いとも思うが、そこはこの地の商売の慣習みたいなものから逃れられないのかな、とも思う。
それにラウルが見た所、各所には警備員が配置され、特に屋敷に関しては誰も侵入できないように目を光らせているように見えた。
そんな風に周りを観察していたラウルの元に、シェーンが「面白いもの見つけた!」と楽しそうに戻って来た。
「ほらこれ、貝殻の形なの。結構細かく模様とかあって、すごくない?」
シェーンが差し出した皿に乗っていたのは、確かに貝殻に見えるものが中央に置かれその上にソースがかけられているようなものだった。姿煮とでもいうのだろうか。その貝殻はわずかに膨らんだ二枚貝の形をしており、その模様は確かに複雑であり作るのに手がかかるように見えた。それでいてスプーンでつついてみればプルプルとゼリーの如く震えるのだから、シェーンが小麦か何か別のものから作ったと思っても不思議ではない。
だが。
「ああ、コルコ貝だね。この地方の珍味だったかな」
「え? これ、本当に貝なん? マジで?」
目を丸くするシェーンにラウルは「ええ、確か」と苦笑しつつ頷いた。
コルコ貝は身の方も当然食べているし、昔は普通に貝殻は捨てられていたのだが、ある日、その地方のサメの一種を捌いていた料理人が胃袋を割いた際にすっかりゼリーのように柔らかくなったコルコ貝の殻を見つけたのが始まりだったらしい。
後に調べたところによると、このサメの一種はコルコ貝を丸のみして食べるのだが、その際に胃の中で消化液を出して貝殻の中身の身だけを溶かして消化していたのだ。そしてその際に特殊な酵素の働きで貝殻は溶けないまでもゼリーの様に柔らかくなってしまうらしいのだ。殻も食べるものであり消化の途中に過ぎないのではないか、もしくは内臓を傷つけない為ではないか、など諸説あるらしいのだが、この仕組みの理由は未だに良く分かっていないらしい。
だが仕組みさえ分かってしまえば利用するのが人間だ。今ではそのサメからは胃袋だけを摘出しておき、そこに身を取り外したコルコ貝の貝殻だけをパンパンにつめて海水で満たしたのちに、封をして2,3日放置する。するとすっかり柔らかくなり人間でも食材に変わってくれるというのだ。
柔らかくなる内に変質しているのか、あまり栄養や味は無いらしいのだが、その見た目やクニュリとした食感の面白さやどのようなソースに合わせるかで輝き方が変わる食材であるため、料理人にとってはこれを美味しく調理することは一つの壁であるらしいとラウルは聞いた事があった。
今回の料理人の腕は良かったのか、スプーンでヌプリと削り取ったものを口に放り込んで味わっていたシェーンの瞳が輝き、ついでスプーンが止まらなくなっていた。歯で噛み切るとクニュリという独特の食感があり、それが珍味なのだとか。本来はああもがっつくような食べ方をする食材ではないのだろうなとは思いつつも、こんなにも美味しそうに食べてくれるならばそれはそれで料理人としては本望なのだろうなともラウルは思う。
事実として彼女が美味しそうに食べるのに興味をそそられたのか、コルコ貝の料理が並べられたテーブルに人が集まっているように見える。
と、料理の方ではなくシェーンの方に近づいて来る男がいるのにラウルは気が付いた。先程ウェイトレスにダルがらみをしていた灰色のスーツに身を包んだ若い男で、まだパーティが始まってからそんなに時間が経っている訳でもないのに、既に赤ら顔になり酒の匂いを漂わせている。そのスーツも暑いのか少し着崩れていた。
「お、可愛いじゃん。それに恰好も中々……良いね!」
シェーンの恰好は一応パーティに合わせて多少抑えられてはいたが、しかしそれでもスカートの丈は短い上、体の線が良く出る服装に変わりは無かった。そこに視線が吸い寄せられるというのは、若い男としては仕方が無いと思える一方で、このような場で露骨にやるようでは問題ではあるとラウルが思う。
だがシェーンは食べる事に夢中だったのか、単に自分の恰好が褒められたと聞こえたのは、笑顔のサービスをしてしまった。それに調子に乗ったのか、男は本格的にシェーンに対してベラベラと何やら自慢を始めてしまった。
料理を食べているシェーンはどちらかと言えば食べる事に集中しており男への反応はおざなりだったが、それでも男からすると自分の話を遮らない女と見たのか、ますます声のトーンが上がって来た。自分に話かけられた訳では無いが、男に無視された形になっているラウルも、聞きたくはなくとも男の話は自然に聞こえてきてしまった。
それによると男の名はコン。同年代の中でもいち早く起業しており、成功者なのだそうだ。何をやっているのかという話をする時にはコンはますます得意げになり、需要があるものを仕入れて欲しがっている人に供給しているだけで商社のようなものだと語っていたが、そのやっている事を細かく聞いていると「あれ?」と思うところがラウルにも出て来た。
同じことを思ったのだろうか。シェーンもちょうど肉を飲み込んだ段階で、コンに向かって首を傾げて言った。
「安く買って高く売るなんて商売の基本だろ? 誰も価値を認めてなかったゴミ同然のものを、俺が目を足して適正価格で市場に出してあげてる訳」
「えっとそれ転売ヤーって事か?」
そう。コンは美辞麗句を並べていて入ってくるお金の事ばかりを述べて、それができる自分は優秀で頭が良いと言う事ばかりを言っていたが、聞いていると最近良く聞く転売ヤーに聞こえてきたのだ。
そしてシェーンは転売ヤーという言葉を出したが、そこには嫌悪感や侮りなどは一切含まれていなかった。彼女は特に転売ヤーについて思う所はなかったため、コンのやっている事を純粋に自分なりに理解しようとして選んだ単語だったというだけにすぎない。
だがそれはコンの逆鱗であったのだろう。先程まで気分よく語っていたコンの顔が一瞬で怒りに歪んだ。
「あ、なんだと? 俺を転売ヤーと一緒にするな。俺は社長なんだぞ」
「社長かどうかは知らないけど、やってることは同じじゃないの? 違うの?」
シェーンとしては本当に純粋に聞いているに過ぎないのだが、コンにとっては煽りに聞こえてしまうのだろうなとラウルは僅かに同情した。コン自身がやっている事がどうかは別としても、世間一般に理解されている転売ヤーという単語は決してイメージが良くない。実体はどうあれそれと一緒にされてしまえば侮辱されていると受け取ってしまうのも無理はないと思うし、酒も入っているのだから自制も効かないのだろう。
止めないと危ないかもしれない、とラウルは一歩踏み出そうとした。このままだとコンが手を出し――返り討ちに遭ってしまうかもしれない。そうなっては事を起こすまでは目立たないようにしたかったのに無理になってしまう。
が、ラウルが何かをする前にそこに割り込む人間がいた。コンと同年代に見える若い男だった。
身長はコンよりも高く、ネイビーのスーツをキッチリと着こなし、やや濃い眉は意志の強さを示しているように見える。
「あ? リクじゃねーか。なんだよ、止めるなよ」
「君のやってる事は転売ヤーと誤解されやすいんだと言ったろう? それと違うのは分かるから、一々引っかかっていてはいつか問題になるからやめようって」
「だがあいつは――」
「頼むよ、コン。君は同期だけど、僕よりも先に起業して成功している先輩なんだから。頼れるところを見せてくれよ」
「え、そうか? そうだな。へへ、確かに先輩だもんな」
酒が入っているからだろうか。それともいつもやっている事なのだろうか。現れたリクという男の説得で、すぐにコンはその勢いを収めていた。これはリクの言葉に説得力があったというよりも、コンを止める為のキーワードを良く知っているという事なのかな、とラウルは思った。
「君もすまなかったね、ちょっと行き違いがあったようだ」
「いえ、こちらも別に問題ないですよ。言葉選びを間違ったのはこちらが先ですし」
シェーンがいつの間にか我関せずと次の料理を口に運びだしたので、ラウルは今更ながらにフォローの言葉を差し込んだ。これでこの場は丸く収まった事になるだろう、とラウルが一息ついた時だった。
「リク先輩、大丈夫でしたか? ……って、あら、あなたは?」
リクを追ってその場に現れたのは、本日のパーティのホストであるパトリック・シウの娘にして、昼にチンピラに絡まれている所に出くわした女性、ミンシャンだった。彼女もラウルたちを覚えていたのか、目を丸くしてこちらを見つめて来た。
***
シウ家で開かれたパーティにおいて、パトリックの娘であるミンシャンもまた彼に劣らず忙しい時間を過ごしていた。
勿論パトリックと比べたらやれることは少ないし、権限もない。しかしこれから先を考えるに顔を売る事だけでもする必要があり、ミンシャンはその挨拶周りに随分と頭と体力を使わされてしまう事になった。
一段落して落ち着いた時にはすっかりヘロヘロになってしまったが、それでもホストの一人としては簡単に退出もできずだらしない恰好をする訳にも行かないと、頑張って立っていた。
だからそこにリクがカクテルを差し出して来て話しかけてきてくれた事には、特大の感謝をしてしまいたくなった。渡されたカクテルは、本来であればもう少し時間をかけるべきだったのかもしれないが、低めのアルコール度数、控えめな甘さに、刺激的な発泡と酸味を備えたカクテルは、疲れた体に沁みわたるようで、ミンシャンは小さなグラスだったとは言えそれを一気飲みしてしまった。
「お疲れ。大変だったみたいだね。良い飲みっぷりだ」
「ご、ごめんなさい。少しマナーが悪かったかしら」
「いや、僕の方が揶揄う様な言い方になってしまってすまない」
思い返してはしたなかったなと思ったミンシャンは少し顔を赤くしてしまったが、リクはそれを自分の非であるかのように謝ってくれた。こうして心を少し軽くしてくれるのはありがたいとミンシャンは思う。
「リク先輩の方こそ、どうですか?」
「それなりに名刺配りは出来たよ。約束も何件か。だけどさすがに君程沢山の人とコネクションを持っている訳でも無いからね。多少は楽さ」
「それは良かったです。御一人で来られたんですか?」
「いや。ほら、君も知っている友人のコンと……ってあいつどこに行ったんだ?」
言いながらリクがキョロキョロとコンを探し始めたので、ミンシャンは僅かに歪んだ自分の表情を見られずに済んでよかったと、慌てて顔を戻しながら思った。
ミンシャンはコンの事が苦手だった。
関係性としてはコンはリクと同じく、サークルの先輩にあたる。だが軽薄で考えが足りずすぐに女の子に声をかけてまわる様子が、ミンシャンにはどうしても受け入れられなかったのだ。リクは友人だと言うし、彼の起業にも協力したというのだから、良いところが無い訳ではないという理解はするのだが、それでも彼に感じる嫌悪感は拭い去れなかった。
「あ、まずいかも。ちょっとごめん」
「え?」
唐突にリクが顔を険しくして足早に進んでいくのを見たミンシャンは、彼の向かう先で女性に話しかけているコンの姿を見かけた。いや、それだけならば別に問題ないのだが何か女性がコンを怒らせるような事を言ったのか、彼の表情に怒りの色が混じっているのが遠目にもミンシャンには分かった。
さすがに自分がホストをやっているパーティで乱暴な事はさせられないと、慌ててミンシャンもリクの跡を追う。追い付いた時には既にリクはコンを女性から引きはがした上で落ち着かせており、少なくともパーティが台無しにならずに済んだとミンシャンは胸をなでおろした。ミンシャンの中でリクの株が少し上がり、逆にコンの株が更に下がっていく。
と、その女性とその傍らにいた青年にミンシャンは見覚えがある事に気づいた。
「あら、あなたは?」
「おや。また会いましたね」
笑顔で返してくるのは昼間にカフェでチンピラからミンシャンを守ってくれた男性だった。服装が昼の派手さと比べてシックになっていたのでパッとは気づかなかったのだが、隣の女性も昼間の人と同じである事に遅まきながらミンシャンは気が付いた。
「あれ、知り合いなのかい?」
「ええ実は……」
どう言いくるめたのかコンを落ち着かせて食事のテーブルに押し付ける事に成功したリクが戻って来た為、ミンシャンは彼に昼間の事を話しつつお互いに自己紹介を行った。
「お父様のお客様だったのですね?」
「ええ。とは言っても私達はその客のおまけみたいなものでして。なのであまり目立たないようにしていたつもりだったのですが……」
「コンがすまない。普段はそうでもないが、酒が入るとどうしてもね」
「コン先輩については酒が入って無くても、では?」
「いやもう少しマシ、では、あるはず?」
リクとコンは幼いころからの友人だというが、少しコンに対しての判断が甘いのが玉に瑕だというのがミンシャンのリク評でもあった。
「リクさん、は先程のコンさんを先輩と呼んでましたよね? 彼の会社に入っていたりするのですか?」
「ああいえ。私は私で起業してまして。彼はその際に色々手助けをしてくれたのです。なにせ彼は同期の中では一番行動力があって、一番最初に起業に成功していたものですから」
「ああ、行動力だけはある馬鹿か。変に頭が良い奴ってやる前に諦めたりするから、そういう奴の方が社長としては成功するって言うしな」
もしゃもしゃとサラダを食べながら言うシェーンの言葉に、ミンシャンは思わず吹き出しそうになったが何とか耐える事に成功した。どうやらシェーンは何の悪気も無いようだったが、批判や揶揄いの意図が混じっていないと感じられるだけに、直截的にコンを評価した言葉だと分かってしまい、笑いがこみあげてきてしまったのだ。だがさすがにホストとして客を笑いものにする訳にもいかず、ミンシャンはなんとか耐える事ができた自分を褒めてあげたいと思った。
ラウルが慌ててシェーンを窘めていたがそれもどこ吹く風。マイペースに食事を続けるシェーンに、再度笑いがこみあげそうになったミンシャンはそれをグッと堪えた。
「――それについてはノーコメントで。その、私の立場からは何とも……」
「いえ、こちらこそすいません。ではリクさんは何をなさっているのですか?」
気まずそうにしているリクに話題転換の為にかラウルが出して来た言葉に、リクが胸元から携帯端末を取り出してラウルに見せた。画面に映っているのはO.W.E.N.の文字とそれを意匠化したアイコンだ。ミンシャンも何度も見た事があるそれは、リクの会社が開発しているアプリであった。
「総括サポートAIマネージャーであるO.W.E.N.通称オーエンというのを私の会社で開発、販売させて貰っています」
「そうかつさぽーとえーあいまねーじゃー? それって何ができるの?」
あまりその方面に詳しく無いのか、シェーンが首をかしげる。素直な女性なのだろう、表情にも良く分からないと書いてあるようだし、頭上の獣耳も心なしかへこたれているようだった。その様子は同性であっても可愛いとミンシャンは思ってしまった。
「今巷で使われているツールとしてのAIではなくて、人間のパートナーとして仕事をこなしてくれるAIです。スタンドアロンでも動かせるのが売りの一つでして、会社の企業秘密や情報漏洩などを気にする際に最適な選択肢としてご提案させていただいているんです」
「すたんどあろん……さいてきなせんたくし……」
「ああ、ええと。シェーンさんがどんなお仕事をされているのかは知りませんが、どうしたってやらなくちゃいけない事務仕事とかありますよね?」
「あーある。あんなの誰がやったっていいだろうに、なんかあたしがやらなくちゃいけないんだよな。面倒だ」
「そんなのをやっといてと言っておけば済ませておいてくれるんです。いえ、場合によってはやれと言わなくてもやってくれて、"やっておきました"と事後報告されるだけとかになりますよ」
「え、マジか。すげぇなそれ」
よっぽど書類仕事が嫌だったのか顔を顰めていたシェーンだったが、それをオーエンが勝手にやってくれると聞いた瞬間に目が輝いた。獣耳もピンと立っていることから本当に感激しているのだろうというのがミンシャンにも伝わって来た。
「他にも……そうですね。例えばこの眼鏡はカメラとイヤホンも兼ねているんですが、これを使っておくと挨拶した取引先の人の事も覚えておいてくれるんですよ。ですから全員の顔と名前を憶えてなくても、その人を前にすれば教えてくれるんです。これで人に失礼をする事が無くなりました」
「え、人の情報を覚えてくれんの? じゃあ、あたしとかも分かる?」
そう言われて驚いたのか目を見開いたリクだったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「いえ。誰もが知っている有名人とかなら話は別ですが、ただの一般人や少しだけ名が売れた人まで網羅するには、さすがに情報の入手やストレージの問題がありますので、そこまでは行きません。が、一度会えば登録されるので次からは大丈夫ですよ」
「ふーん、便利なんだなぁ」
「まだまだ開発中の発展途上ですけれどね。これでも多数の企業に採用された実績もあるんです。お二人もできれば、是非」
言いながらリクが差し出した名刺を受け取ったのはラウルの方だった。まだまだ紙の名刺という前時代的なものは必要だったが、それを如才なく渡せるあたりはリクはうまくやれるものだとミンシャンなどは思ってしまう。
そうしてまだオーエンについて話を広げているリクとラウル達を見ていたミンシャンだったが、ふと父パトリックが中座して屋敷の中に入っていくのに気が付いた。
(あ、これチャンスかも)
今のリクの事を紹介するチャンスかも、と思ったがさすがに屋敷の中に人を入れるのはセキュリティ的な意味で怒られてしまいそうだと思ったミンシャンは、まず自分で先に話を通すべきだと思い至った。
最後に軽い挨拶だけをして中座していくミンシャンは、その後ろ姿をジッとラウル達が観察していることには気づかなかった。




