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10:擬態の英雄 上


"アクアパレッサ精鋭部隊"のトップを務めるアンザ。

彼から語られた"アンノーマル"という単語に、鳴上は表情が強張る。


何故その単語を知っているのかと。

そして、変わっていないとはどういうことか…。



「アンザさん…今なんて?」



「アンノーマルだ。探していただろ?」



鳴上の頭の中では、生前の記憶を呼び覚ましていた。


(アンザさん…この人とはどこかで会ったことがある…?だけど、知り合いの中にアンザさんなんていなかったはず…。)



「まぁ、立ったまま話すのはよくない。ひとまず…そこの椅子に座って話を聞いてほしい。

すまない、モルペグ。一度席を外してくれ。作戦会議の「はい、承知いたしました。話が終わり次第、作戦会議開始の召集をお願いします。」




モルペグは、無表情でトップの話を遮って頭を下げ、静かに部屋を後にした。

鳴上は言われるがままに、アンザの近くにあった椅子に座る。



「はは…悪い子ではないのだがな…いかんせん、気持ちが先走って発言する癖がある…。

ナガミは嫌な思いなどしていないか?」



アンザはため息をつきつつ、モルペグが退出したドアを見る。



「いや、問題ないですよ。道中少し話しましたけど、悪い人じゃないのはわかってます。」



「あぁ…申し訳ない。やはりモルペグはやらかしていたか…。今度注意しておく。

…すまない、脱線した。"アンノーマル"を何故知っているか疑問を持っているようだが…。"アンノーマル"を教えてくれたのは、お前だ。ナガミ。

…その表情を見るに、アンノーマルに、まだあっていないようだな。」



「俺が教えた…?でも今日初めて会ったのに、教えたも何もないと思うが…。」



「あぁ、正確には20年前のナガミから教えてもらった…と言った方が正しいかもしれないな。

しかし、少なくともナガミ本人であることは、"アンノーマル"という単語を知っている時点で把握できた。だからこそ、これからの話を信じてほしい。」



…話は多少だがつかめた。

アンノーマルについては、現時点でドンテスとハスティ王女のみ。

ハスティ王女から情報が回るにしても、彼女は無関係だと聞いたから、可能性は低い。

…どうやら俺は、過去にアンザさんに会ったことがある…。腑に落ちないが。



「会ったことが無いにせよ、あるにせよ…。アンザさんと会って話をしているのは確定みたいだ。

わかった、すまないが話をお願いしていいか?」




「あぁ、今から話すのは20年前…"フレア・イントマス"という国があった時の話だ…。」



アンザさんが語ったのは、荘厳なもの。

何もかも信じられない話の数々だが、ここに至る経緯としては納得いく話だった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時は遡り…

20年前:フレア・イントマス 討伐隊会議後 酒屋にて



「ふひひ、この乱れ…。明らかに外部からの干渉が働いておりますねぇ…。」



「外部からの干渉?何言ってんだ?」



討伐隊会議後、俺ことアンザは、フレア・イントマスでもトップを誇る酒屋に足を運んでいた。



「なぁに、たいした話ではないですがぁ…。アンザさんには関係のない話でもないんですよねぇ…」



「はっきりしないな!もう数年の仲じゃないか。」



「ふひひ、"客と店員"の仲ですがねぇ…。

それより、明日また壁の調査に戻るのでしょう?あまり飲むと支障をきたすのでは?」


目の前にいるオレンジ髪の獣耳の女…。名前は知らないが、この酒屋に通い始めて数年。

来店頻度が多いアンザは、彼女と親しくなっていた。



「はぁ…まぁそうなんだけどな…。

壁に討伐隊の任命に…問題が次から次へと山積みされてってモヤモヤするんだ…。

それに大切な何かを思い出せないでいるのも、なんだか胸騒ぎがしている。」



翌日の早朝から、討伐隊出陣までの期間、本来の持ち場である壁の調査に戻らなければならない。

英気を養うなら、ここ!と思って来たが…酒を積んでも、モヤモヤや悩みは積み下ろせない。



「まぁまぁ、それが近衛兵トップのお勤めですよぉ。ふひひ。我慢して職務を全うするしかないですねぇ…。

まぁ…本来であれば受け流す話…ですが、アンザさんの…そのモヤモヤを解消できるかもしれないですよぉ。ふひひ…」



「は?それはどういうことだ?ってか、さりげなく受け流す話って酷いな…。」



アンザは酒樽に入ったお酒を飲み干して、テーブルに置く。

猫耳ウェイトレスは、ニコニコしながらカウンター下にあった容器から酒を注ぐ。



「ふひひ、お客様一人一人にかまい続けていたら、商売あがったりなもので。

…それよりも、アンザさん。今から話す話を本当に聞くつもりがありますか?アンザさんの運命を大きく変えてしまう可能性があるのですが…。」



運命を変える…?それはいったい…。

急に笑顔から真顔になった猫耳ウェイトレスに、一瞬びっくりしながらも、並々ならぬ覚悟を見せた表情に、思わず息をのむ。



「…その話を聞いたら、本当に運命が変わるのか…?俺の…今抱いているモヤモヤもか…?」



「えぇ。アンザさんが、"聞きたい"と一言いただければ、まずはモヤモヤを解決することを約束しましょう。

…ただし、この話を聞いたら最後、アンザさんを運命が縛り付けます。それでも構わないのであれば…話すこともやぶさかではありませんねぇ…。ふひひ」



さっきから話す程度のことで、何故こんなに真剣な眼を向けてくるんだ…?

と、アンザは目の前の獣耳の女に圧倒されてしまった。



「はは、もしかしたら、明日には死んじまう可能性だってある。覚悟は決まった。

…話してくれ。外部からの干渉も気になるしな。国の問題は、俺たち近衛兵の耳に入ってもいいはずだ。」



「ふひひ…その正義感。まさに器にふさわしいお人…。

では、お話しします。…と言っても、あなた以外が聞くことなどできませんが。」



そういうと、猫耳ウェイトレスは右手を差し出してきた。


「な、なんだ?握手か?」



「えぇ、覚悟があるのでしたら。握ってください。」



お酒の力もあり、アンザは何のためらいもなく猫耳ウェイトレスの手を握る。

すると突然…



「んぐぁああああああああああ!!!!!!」



猛烈な痛みが頭に刻まれていく。まるで、存在そのものを書き換えられているような感覚だった。


突如襲って来た頭痛は、忘れていた何かと、明確な運命…。

そして…とある男名前と言葉が刻まれていく。

痛みの度合いが酷く、アンザは思わずその場に崩れ、目を閉じて頭を左手で押さえる。



「まさか…この"世界"に"情報の圧"を受けて痛みだけで済んでいるとは…。アンザさんが選ばれたのもわかりますねぇ…。」



(…信じてくれるのか?)



頭に響く男の声。

聞いたことがある…。



「んぐぐぐぐ!!!がぁぁあああああ!!」



痛い…痛い痛い痛い痛い痛い…痛い…



(アンザさん…もし、もしですよ?”アンノーマル”を追い出せなかった場合、世界が抹消されるとして、その運命を受け入れられるか?)



「ふひひ…これに耐えれれば、話は進むのですがねぇ…。どうでしょ?」



暫く悶えること数分。時折頭に響いていた、謎男の声も相まって痛みは、今までに味わったことのないものだった。

しかし、痛みは不思議なことに徐々に収まって、やがて何事もなかったかのように消えた。



「はぁ…はぁ…な、なんだってんだ一体…。手を握っただけでなんで頭が痛く…?

…は?な、なんだここは…!?」



痛みに悶え、視界が閉ざされていたアンザの世界は、目を開くことで意表を突かされることになる。



「町が…空に…。なんで空に俺は立っているんだ…?」



いうなれば、空を足場に町を見上げている…。

目の前の握手をした猫耳ウェイトレスは、ニコニコしつつも手だけはアンザから離さなかった。



「ふひひ…アンザさんはもう、こちら側の人間になりましたねぇ…。普通ならもっと驚くと思いますがぁ…。」



「そりゃあな、ナガミから聞いた話に比べたら、どっこいどっこい…。ん?ナガミ…?」



「ふひひ、思い出しましたねぇ。アンザさんは彼を忘れていたのですよ。彼のリミッターが解除されてしまった影響で、記憶がなくなってしまったようですが、

彼と深く話し、関わった貴方であれば、もしかしたら"情報の圧"に耐えられるのではないかと…。いやぁ、予想敵中ですねぇ。」



「彼を忘れていた?何を言ってるんだ、ナガミはナガミだろう。リミッターってなんだ?」




「おほほほほほ、全くその通りですわ!サクフィス、ご苦労。アンザ様、いえ、この世界の代表様。ご機嫌麗しゅう。」



アンザが少し困惑していると、音もなく猫耳ウェイトレスの横に現れた白い女…。

見ただけで分かる。こいつは化け物だ…。魔力の質がそもそも違う…。



「ありがとうございます。ゴーデヴィッヒ様。ここからの説明は…」



「この流れ…ふむ。ここは貴女が説明をなさい。勝手に現れた、"見るからにやばそうな女"に説明を受けても意味が分からないでしょう?

さぁ、この代表様に御説明を!煌びやかに頼みますわよ!」



な、なんだこの女性は…!?

見た目も外見もやばいって相当危険なのでは…?

そして、ふつうに横でカップを取り出して、何かを飲み始めた。自由すぎて更に意味が分からない…。



「猫耳ウェイトレス…いや、お前、サクフィスっていうのか?」



「えぇ…。名乗ったところで覚えてもらえないので、いつも名乗らないようにしているのです。

でも、アンザさんはもう忘れることができないでしょうから、否定はしません。

改めまして、私は"魔女の従者"サクフィス・サーニャ・ボンパディエと申します。名前が長いのでサーちゃんでもいいですよ!ふひひ…」



「いや、遠慮しとこう。こんな芸当ができているんだ、あだ名で呼ぶのは恐れ多い…。」



「ひひひ、まぁいいでしょう。お好きにお呼びください。

そうですねぇ…。単刀直入にお話ししますが、このままではフレア・イントマスという国が消滅します。」



消滅…?何を言っているんだ?




「単刀直入すぎないか?それに消滅ってどういう…」



「文字通り消滅ですよ。国境付近にある壁があるじゃないですか?

あれは…"物語の境界線"なのですよ。壁付近では重力が働いていましたよねぇ?あれは、壁の中にいる者を保護するための力の作用といえば…わかりますでしょうか?ふひひ。」



「保護するための力の作用…?あの壁が…か?だがあれは、近づく物や魔法ですら吸い込む危険な壁だと思っているのだが…」



「ふひひ…それはまぁ、近づけさせない為ですよぉ。あなた方、フレア・イントマス側は大きな勘違いをしていますねぇ…。

先ほど、あの壁は"物語の境界線"と申し上げましたねぇ。どういうことだかわかりますかぁ?」



情報が多すぎて、整理がつかなくなってきた。

あの"壁"は、我々を保護するため?"物語の境界線"というのはどういうことだ…?


「おほほほほ、サクフィスは、い・つ・も!回りくどいですわねぇ!もっと簡潔にいいなさいな!代表者様が話についていけていないのが、乱れで分かりますわ。」



情報の多さに混乱しているのを察したのか、白い女が何かをコップで飲みながら横目でサクフィスを見た。


「も、申し訳ございません…。アンザさんへの配慮を忘れていました…。ふひ…。

簡潔にですね…わかりました…。壁から外側は…もう何も残っていません…。」



サクフィスは、申し訳なさそうな表情で、とんでもないことをさらっと言った。

もう何も残っていない…?


「どういうことだ、壁からは外側の景色は見えていた…!それが何も残っていないとはどういう…?」



「お話しした通り、フレア・イントマスから外側はすべて消滅しているということ。ふひひ…。

壁から出たが最後…無限の無が広がっていますよぉ…。ひぇ=おっかない。」



無限の無…。壁から外側は何もなくなっている…?



「この状況、非常にまずいですねぇ…。世界を破壊するというより、消滅させるスピードが速すぎなんですねぇ。

それにもう次のステップを実行しているんですよ…。なんとまぁ、抜け目のない動き…。」



「ナガミが話していたあの言葉…。"世界が抹消されたら"って、あながち冗談ではなかったってことか…。

消滅ってなると、もう存在していないと捉えていいのか?」



「えぇ…そうですねぇ。もうこの世界の人間がたどり着けることは不可能でしょう。一体いくつの命を奪ったのでしょうね。」



「サクフィス、その件についての被害は既に把握しておりますわよ。

先ほど、双眼鏡で見ましたが、11億の魂が世界から離れておりますわ…。そのうち半数以上は"アンノーマル"が吸収…。相当"魂力"をため込んでおりますわね。

何をしようとしているのか…。"アンノーマル"は、世界というより何か別の目的がありそうですわ!おほほほほほ、まことに、えぇ、まことに面白みがぁ!増えてまいりましたわぁ」



何かを飲む白い女は、なにやら不気味な笑顔をしながら、規模の大きすぎる謎の発言をした。

魂力?11億…?何を言っているんだ…?

ってそれより…この白い女…"アンノーマル"を知っているのか…?



「ふひひ…アンザさん、すみません。規模が大きすぎると思うので、聞き流してもらえると…」


「いや、それより…"アンノーマル"…あんた"アンノーマル"を知っているのか!?」



アンザは、ナガミから聞いた痕跡がつかめない"アンノーマル"の存在を知っている様子を見せる白い女に、向かって話しかけた。



「説明はサクフィスが行うので、こちらに聞かないでくださいな。」



「なっ!」



こ、この女…。どういうテンションなんだ…。いきなり笑顔になったり真顔になったり…。



「ひひひ、ゴーデヴィッヒ様はお忙しいですからねぇ…。

さて…話を続けますが、"アンノーマル"は既にこの世界に降り立っております。

最も行動のスピードが異常に早く…おっと、たった今ですが、コールダイル神が殺害されました。これにより、この世界の最後の要である、フレア・イントマスの消滅が予測されます。

"アンノーマル"はどうやら、この世界の勇者をうまく操って、世界の要である魂を奪うつもりのようですねぇ…。」



「勇者を操って…?比嘉里美をか…?」



「えぇ、勇者をうまく操ってです。今夜日付が変わる頃、勇者に指令が下り行動が実行されるでしょう。行動が起きれば…フレア・イントマスの全国民は死ぬでしょうね。

先ほど翌日死ぬかもしれない…と、アンザさんはおっしゃいましたが、あながち間違いではありません。」



「な、なんだって…?国民全員死ぬ…?いきなり言われてもそんな…」



「横やり失礼、代表者様。これから起きるのは事実ですわ。確実におきますわよ。」



白い女が表情一つ変えず、残酷な運命を受け入れた。

その追撃ともいえる、発言はアンザの心に深く突き刺さる。



「アンザさんがここにいる理由…をお話ししますねぇ…ふひひ。

結果はどうあれ、この運命を変えるには、"アンノーマル"が起こしたい内容をそのままに、邪魔をする必要があるのですよ。

アンザさんにしかできません。ひひひ」



「俺にしか…できないこと…?でも俺には、アンノーマルの動きを抑え込むことなんて…。」



「えぇ、今のままではだめです。ですので、本来エルルの民に継承されるはずだった、力を奪いました。これを使ってあることをしてください。

決してバレない様に、慎重に…。これを渡しておきますねぇ。」



猫耳ウェイトレス…サクフィスは、絶望の表情を浮かべるアンザに対して、黄色の指輪を左人差し指につけた。



「こ、これは…一体?」



「物語の流れは、本来の流れから大きくずれています…。それを正すためには"擬態"の力だけでは、改変の流れに逆らえません。

流れに改編するための"力"と"擬態"の力を封じ込めた指輪というべきでしょうか?

付けているうちに消えてなくなりますが、問題ありません。」



「なるほど…この指輪がか…。

それで俺はこいつを使って、どうしたらいい?どうしたら、その邪魔ってのができる?」




「はい、説明します。"擬態"の力とこれからの動きについて…ふひひ。アンザさんには苦労をおかけしますねぇ…」



……

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