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9:派閥 上


「くっそ…頭いてぇ。あの酒、マジで危険かもしれないな…。」



鳴上はカーチャーとハスティ王女との飲み会を早々に切り上げ、アクアインガ亭が運営する宿の一室で直ぐに休んだ。

酒が入っていたこともあり、眠りは深かった。…が、目覚めは悪く、頭痛が鳴上を襲う。


閉じた木製の窓を開くと、太陽は真上を指していた。昼頃だろうか?

日差しは彼の視界を歪めるが、眠気が徐々にとれていく。

眠気が取れてくると、外からは鳥の鳴声や、住人達の生活音が聞こえてきた。




「3日間分も宿泊費用を立て替えてくれるとは…ハスティ王女には感謝しないとな…」




ハスティ王女は、宿代と言わんばかりに気前よくお金を出してくれており、鳴上は一時的な拠点を設けることができた。

"アンノーマル"についての手掛かりは、残念ながら話には出なかったため、目的には近づけなかった。

代わりに、話せる人間が増えただけでも幸いと捉えよう。



「頭がズキズキするし、あんまり外に出たくないが…。行動しなきゃ何も進まないよな…。」



ドンテス及び、ハスティ王女には昨晩、"アンノーマル"について聞いてみたが、2人ともわからずじまいだった。



「情報源は増えたものの、アンノーマルに近づくものはなかったしな…。

外に出て周辺の人に話を聞いたとして、ドンテスとハスティ王女が知らない以上、望み薄そうだ…。」



じゃあどうする?と言われると、下手なこと考えずに行動あるのみだろうが、如何せん…頭が痛い…。

明後日までであれば、宿に泊まれるので問題ないが、ハスティ王女に借りを作ったままで滞在するのも気が引ける。


不思議と眠気が一切なかったり、お腹が空いたりしないが、だからと言ってやらないという選択肢はない。

眠ろうと思えば眠れるし、食べようと思えば食べる。といっても、食べて寝てをこれまで散々繰り返してきたので、体が勝手に動く。


しかし…お金を稼ぐためにはどうしたらいいだろうか?

アルバイトみたいな、働ける何かがあればいいのだが…。




「…四の五の言わずに外に出「こちらナガミ様のお部屋でしょうか?」

…ん?誰か来た?」



頭を抱えつつ、まさに外に出るぞ!というタイミングで、部屋の外から声がかかった。

声色からして、女性…ぽいが。


「あ、あぁ…そうだ。」



「入ってもよろしいでしょうか?」



「お、おう…。といっても今さっき起きたので寝起きで「失礼します!!!」

も、申し訳ないが…。」



できれば最後まで喋らせてから、部屋に入ってほしい。

そんな気持ちを抑えつつ、目の前に現れた女性に目を向ける。

目の前に姿を見せたその女性は、緑色の髪でみつあみ…かなり特徴的な風貌で、三角形のフレームの眼鏡を付けた子だった。

青白い…スーツみたいな独特な格好をしている。



「あなたはナガミ様でよろしかったでしょうか?」




「あ、あぁ…そうだg「ありがとうございます。ご本人か確認を取りたかったので助かりました。申し訳ございません。」」



ちょいちょい会話を被せてくるのは、故意的なのだろうか…。




「それで?貴女はどちら様でどのような用事で?

突然の来訪、名前まで知っているということは、昨日会った誰かの関係者かなんかだろうが…」



「えぇ、あります。というより、端から他の方にはお願いしづらい用事で、ナガミ様でないとお願いできないかと思います。」



目の前の女性は終始真顔で話し続ける。というか、名前は名乗ってくれないのね…。

俺であればお願いしやすいこと…?なんだろうか?





「なるほど、俺にしかできない用事と…。

ちなみに、今のあんたは、一方的に押しかけてきて、勝手に話を進めているやばい人の認識なんだが…。

まずは、あんたが何者かどうかを話してくれ。」



表情を変えず真顔を貫き通す目の前の女は、一切表情を変えず咳ばらいを挟んだ。



「失礼しました。私はモルペグです。ハスティ王女の命により、こちらに参りました。

用件は、ナガミ様とマイカス帝国への潜入です。」



モルペグ…ハスティ王女の関係者らしいが、確証は持てないな。

ん?いやまて、潜入?



「おいおい、ちょっとまて、昨日の今日の話だぞ…?何故俺を帝国に潜入させる?」



「ナガミ様を潜入させる理由は、その選択が一番安全であるからです。

ハスティ王女曰く、今の段階でナガミ様をこの国においておくのは、国、ナガミ様、どちらの視点から見ても"危険な状態"とのこと。

昨晩の飲みの席で一部の帝国民に気づかれた可能性を考慮し、潜入経験の多い私をここに派遣しました。


…まぁ、ナガミ様を潜入させようという経緯は省きますが、要するに国から一度出したいようです。」




国から一度出したい…か。それにしても判断が早い王女様だ。

潜入となると、またこの場所に戻ってくるのに時間がかかりそうだが…。

せっかくハスティ王女に3日分の宿代を出してもらったのが、2日分無駄になってしまう気がする。



「国から出す…って少し大げさすぎないか?それになんでよりによって帝国のような…もっと危ないところへ行かせるんだ?」



「いえ、大げさではありません。本日の明朝より、帝国軍がこちらに迫っているとの情報があります。

既に行動が開始されておりますので、今この場にナガミ様がいるのは危険だと思います。

それに…帝国に行くのは合理的です。剣を隠すなら同じデザインの剣の中に隠せば、簡単には見つけられない…といえば、わかりますでしょうか?」



猫耳のウェイトレスが昨晩機転を利かせてくれたが…。

それでも帝国民を欺くことは、できなかったか…。



「なるほど、ずいぶんと急な訪問だとは思ったが、すでに帝国の民が動いているなら合点がいく。」



帝国民…いや、マイカス帝国のトップは相当な切れ者のようだ。

昨日今日で、直ぐに行動に移させるとは…。




「わかった、モルペグさん、案内してくれ。」





その発言を聞いたモルペグは、鳴上を無言で誘導し、本来の出口とは別の方向へと歩き始めた。

ただならぬ雰囲気を感じた鳴上は、そのあとをゆっくりとついていく。


アクアインガ亭の正面は危険と捉えているのだろうか?



「こちらへ。裏の勝手口から出ます。アクアインガ亭の裏に荷車があります。」



「なるほど、その荷車に乗れってことね…。」



そうです、と言わんばかりに、モルペグは顔だけ後ろに向けて、鳴上に頷いた。

廊下を歩いているだけでも、下の階からは賑やかな話し声や、食器の重なる音が聞こえる。


「頭いてぇ…。」



賑やかな音に比例して頭に響く痛みが増えたので、思わず口に出してしまった。



「ナガミ様は、頭が痛いのですか?困りましたね、こちらをどうぞ。」


前を向きながら歩くモルペグは、こちらを一切見ずに左手で、小さい箱型の何かを渡してきた。



「えぇっと、これは?」



「そのまま口にお含みください。直ぐに溶けてなくなって、頭痛もおさまると思います。」



ほぉ…便利なやつだなぁ…。頭痛薬みたいな薬…なのだろうか?

直ぐに溶けて効果があるとか、かなり革新的だ。


いわれるがまま、口に含むと、一瞬で口の中から箱型の何かが溶けてなくなった。

不思議と頭の中がクリアに、痛みが安らいでいく。



「すごいな、これ。痛みが吹き飛んだみたいだ。」



「恐れ入ります。…こちらの階段を下りて、そのまま荷車にお乗りください。」


裏の勝手口のドビラをモルペグが開くと、すがすがしいほどの青空と、優しい太陽光が目に入った。

上を向いたらまぶしいだろうなと思いつつ、言われるがまま階段を下りて荷車に乗り込む。



「お疲れ様です。では、参りましょう。潜入に関する話は、道中にお話しします。」



「あぁ、わかった。頼む。」



荷車は、モルペグの声に反応して、動き出した。

昨日今日で、すごい速さで動きが決まったが…。幸か不幸か、別の国に行けることになった。

アンノーマル探しに役立つかもしれない。


鳴上は荷車に揺れて、マイカス帝国へと向かうのであった。



......




「たのもぉぉぉぉぉう!!!!鳴上よ!昨晩は途中で帰ってすまなかった!今日は飯を食べに…ん?」



鳴上がモルペグに連れられて外に出たと同時に、ハスティ王女は、鳴上がいるであろう部屋を訪れていた。

しかし、すでにそこには誰もおらず、もぬけの殻だった。



「むむ…すでに外出中だったか…。

ウェイトレスの話では、外に出た形跡はないとのことだったが…。」



誰もいない部屋で、ベッドに腰を下ろしたハスティ王女は、ため息をつく。



「流れ次第では、手合わせをと思ったが…それも叶わぬか。うぅむ、少なくとも国にはいるだろう。いつもの職務をこなしていれば、そのうち会えるか。」



ハスティ王女は、この時思いもしなかった。

自分自身が知らぬ間に、世界が終焉の一途を辿っているということを。

そして、歯車は既に動き出していることを。



「ふむ…仕方ないか。戻ろう。」



ハスティ王女は、ベッドから立ち上がると、足早に部屋を去っていった。



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