再始動勇者11
白服の身元が判明した。
名前はダコタ・シアセン。
生まれも育ちもこの街で、年齢は28。
僕と同じ学校を出ていて――父親は、機械魔術系開発者の、ジョシュア・シアセン。
小型写真機の開発者だ。
先日、ダコタを撮った写真機も、ジョシュア・シアセンが創ったものだった。
ダコタは学校を卒業後、父親の元で本格的な機械魔術を学びながら、そのまま父親と同じ道へ進む。
それから数年後、父親が業績を認められ、城の開発局へ。
ダコタは若くして父親の事業を引き継ぐ。ダコタが父親ほど有能なのかはわからないが、業績は安定している。
ダコタに引き継がれてからも、これといった変化はない、ということで――少なくともダコタは、それに関して、余計な手出しはしていない、あるいは完全な人任せなのかもしれない。
表面上、彼の父親は、何の問題もなく彼に自分の創ったものを送り届けることに成功した。
彼自身の興味が、勇者の否定にしか向かっていないことにも気付かずに……。
だからといって、それが悪いこととも限らないわけだが……表面上は上手く回っているわけで、今の勇者より、全然、問題がないといえる。
……。
追跡の結果、ダコタが所属しているのは、白の会と呼ばれる集団であることがわかった。
中身まではまだ判明はしていないが、それが、恐らく勇者否定論者達の集まりで間違いないだろうとの見方だった。
「それで……白の会に入会はできなかったんだ? その……アルトが向かわせた人」
「こんなことがあったばかりで警戒されているのはわかっているが、一応そういうアプローチは試みたんだ。まあ、無理だった。外からしばらく動向を監視するしかなさそうだな……」
「表向きはどういう会なの?}
「世界を白くしたいんだそうだ」
「白く? 綺麗にするとかそういう?」
「そういうニュアンスだ」
「そういう考えと、勇者を貶めることとが、関係してるのかな……。まあ、あの事件以降、勇者もそういう対象になったと考えられるけど、母の日記からは、それ以前からそういう組織が存在してるってことが読み取れる」
「その日記にある組織が白の会なのかどうかはわからないが、それが白の会の前身だった可能性は高い。つまり、そういう存在理由があやふやな組織っていうのは、その存在意義を確保するために、自分達でまず、黒い噂をばら撒く。そうすると、どうなるか……あら不思議、世界を白くする必要性が自然と浮かび上がってくるわけだ」
「じゃあ、白くすることが目的じゃないのか……」
「他の目的がある。声を大にしていえないような、後ろ暗い目的がな」
「何が望みなんだろうな……世界を白くする、っていうんだったら、そこまで勇者と変わらない気もするし、むしろ、協力してもいいくらいなんだけど」
「でも実際はその逆だからな。それも、白の会の前身の段階からそうなんだ……つまり、最初から目的は勇者を貶めることだといえる。だとしたらお前が起こしたことになっている事件の黒幕は? その事件後にお前の居場所がなくなってしまったのは一体誰のせいだろうな」
「まだ決めつける段階じゃないよ」
「それはそうだが、そうやってお前が意固地になっている間にも奴らはお前を貶めようとしている」
「ダコタの父親の方は?」
「調査はしているが……今、何の研究をしているかはわかっていない。城の中に居るのは確かなようだ」
「時期的に複製人間と重なるけど……何でもかんでも疑うっていうのもな……」
「お前はむしろ一度全てを疑ったほうがいいぞ。そんなだからいいようにやられてしまうんだよ。勇者なんていうのは、格好のターゲットだからな」
アルトのその意見には、言葉を挟む余地が見つからなかった。
確かに僕はそういうことに対して、何の防御手段も持たなければ、何の反撃もしてこなかった。そして、全て自分が悪いものだと思い込んでいたんだ……。
ダコタを捕まえた時、あいつが落ち着き払っていたのは、こちらからは何もしてこないとわかっていたからだ。
向こうは、ずっと僕のことを観察し続けている。
僕はあいつのことを何も知らない。
その時点で、勝てないことは決定していたんだよな……。
でも、もし……僕が父のような勇者だったのなら、そうはいかなかっただろう。
父なら、気に入らなければ叩きのめして、それからどうするか考えていたはずだ。
だけど、僕はそうじゃない……。
僕は僕の戦い方を考えなければならない。
「とにかく、疑うことから始めてみる……それかどうするのかはわからない。今までやったことがないからね」
「問題は、そういうやり取りに勇者の力が発動しない、ということにあるのかもしれない。向こう側は、そのあたりのことはとっくに調べがついていると考えておいた方が無難だな。つまり、その力の発動の特性について熟知し……それが発動する以外の部分で今までお前を追いつめてきたわけだ」
「勇者というものに関して、勇者自身よりよっぽど知っているかもしれない敵か……」
背後から、氷柱を差し込まれたように背筋がぞっとした。でも、向こうはそういうことを全力で……何年もかけてやろうとし、そして、実現して来た。
勇者封印計画とでもいうべきか……とにかく相手は、そういうことをしてきた存在だと思っておいた方がいい。
やっぱり、勇者という運命を少し呪いたくなってきた……。いくらなんでも重すぎるよな、それは。僕に背負える荷物じゃない。
それでも……僕が何とかしなければならない。
「とりあえず、警戒はしておかないとな」とアルト。「今まで殆ど直接的なアプローチは無かったにしろ、一度、接触したんだから、何か動きがあるかもしれない。まあ、お前の力が発動するような方法はとって来ないとは思うが……」
「シアーが戻ってこないのも気になる。無事だといいんだけど」
「彼女なら、自分で何とかするさ。心配しないわけじゃないが、彼女の場合、心配しすぎもよくない。今までずっとそういう『駒』としてやってきたんだから、仲間ごっこはしたくないのさ」
「そうはいっても、割り切れないな」
「どちらにしろ助けようが無い。どこに居るかもつかめていないし、捕まっているのかどうかもわからない。もしかしたら、上手く潜り込んでいるのかもしれない。だとしたら、台無しだろう? 下手にこちらから動くのは」
「まあ……そうだね」
「焦るな。しばらくは情報待ちになるし……ただ警戒は怠らないようにすることだな……。それ以外は、まあ普段通りでいい」
僕はいったん肩の力を抜く。「何か、明確な敵が現れて、力が入りすぎちゃっているのかもしれない」
「どう考えてもこの戦いは長期戦だからな……。それに、お前が変に気張っていても、特に何かが進むわけでもない。前もいったと思うが、お前の意思とそれは、連動してるわけじゃないからな」
「でも、それを受け入れる準備はしなければならない」
「そういうことだ。お前が受け入れなければ――それを代わりに受け入れられる者など誰も居ないのだから――どうなるかはわかるだろう? こういうことをあまり何度もいうべきではないと思うが……世界はお前にしか救えない。世界を救うということと、お前が運命を受け入れるということは連動している。つまりお前はそれを受け入れさえすればいい。そうすることでお前は、いつの間にか世界を救っている。少し、わけがわからないかもしれないが……それが勇者という特性が持つ真実なんだと私自身は思っている。だから……お前はただそう考えておくことで色々と上手く行くのかもしれない」
「一つ一つ、運命を受け入れていく。ただそれだけを意識する。そういうことだね?」
「そうだ」
「何にしろ、今回の件で思ったけど、腕尽くっていう選択肢は、僕にはないよ。その……力が発動したら別だけど……素の状態でそれはない」
「もちろんそれでいいと思うぞ? お前は、お前らしくやればいいんだからな……。運命から逃れようとするのでなければ、それでいい」
「だとしたら……事態は進んではいるわけだし、僕は、何かが自然発生するのを待ち受けていればいいのかもしれないね。極端な話だけど、そういうことになる……もちろんそれって、凄く変な話かもしれないけど……こんな状況においてさえ、僕は受け身になるしかない。それが僕の性質だから」
「お前はそうやって構えていればいい。そういう勇者が居たっていいんだよ」
「そういってもらえると、僕は救われる。だからだろうか、これから僕に襲い掛かってくる何かと、心の底から向かい合うことが出来る気がするよ。そしてそう思うことが出来さえすれば、もう、それは、勝ったようなものなのかもしれないね……」
「今度は大きく出たな……でもそういうことだ。私は、その考え方には同意する。お前はそれでいいよ」
自分の中の扉を開くとか、そんな大げさなことじゃないと思ったけど……その意識改革は、やっぱりそれと同じような意味はあるんだと思う。
随分緩やかだけど……そうして僕は僕自身の扉を開こうとしていた。
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