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再始動勇者12

 昨日、アルトと勇者について語り合って……一晩明けた。

 自分自身の、勇者に対する認識が、穏やかに……以前とは別の物になろうとしていた。

 もちろんそれは、アルトと出会って、少しして……気付き始めたことだ。

 でも、はっきりと「こうするべきだ」という形が意識的に見えて来たことが、自分にとって、大きな前進であると感じる。

 それと同時に、明確な自分の敵が現れたことに対する動揺もなくなって……今は落ち着いた気持ちになっている。

 僕は今まで、ずっと間違った「勇者像」というものに振り回されてきた。

 それは周囲の期待や、常識といったものによってそうすることを強要されていると感じる状態で……その時僕の意識の周りには、常に自分の運命から逃げ出したいという想いが付きまとっていた。

 しかし……それは間違いだった。

 僕は何にも囚われない勇者像を手に入れて、それを克服できたんだと思う。

 そして、それは全て――アルトのお陰だったと思う。

「おはよう。勇者」アルトがあくびをしながら現れる。「――どうした。朝からそんな真面目な顔をして」

「勇者について考えていたんだ。以前と少し、考え方が変わったものだから」

「いいことだな」

 アルトは何でもないことのようにそういうと、紅茶を淹れてくる。

「飲むだろう?」

「ありがとう」

 アルトは紅茶を啜ると、「――何だその顔は、力を抜けといっただろう。昨日」という。

「いや、力は抜けてるよ。急に、肩が軽くなったような感じで……今はその変化に、感動しているところなんだ」

「ならいいが」

 一方で、いなくなってしまったシアーのことは心配だけれど、それだって、アルトのいう通り、彼女を信じて待つしかない状態だ。

「アルトって、本当に凄いよな……」

「何だ気持ち悪い」

「いや、本当なんだ……全部、アルトのいう通りだなって、最近思うようになって……」

「私は勇者という存在を信じている。だから、的確なアドバイスが出来ているのかもしれない。私が、一見情けないお前を見て、勇者を信じられなくなっていたら、今頃何もなかっただろう」

「そう思うと怖いな……アルトが居なかったらと思うと」

「また運命の話になってしまうが……私が居なかった、ということはあり得ない。私は何が何でも勇者を信じていたし、お前に会いに来ていたからな」

「何でそこまで勇者を信じるの?」

「……秘密……」

「え」

「くだらない勇者信仰を持った人間の一人だと思ってくれ」

「まあ……いいや、それで」

「勇者を信じる者と信じない者が対立して、勇者は本当に存在するとする……どちらが勝つと思う?」

「普通に考えれば、勇者は存在するわけだから、勇者を信じている方が勝つよね」

「普通にやればそっちが勝つ。だから、普通じゃない方法を使って勝とうとする……。その時点で、勇者を信じない者達は、結局、勇者が存在することを認めていて……ただその存在を消したいだけなんだよ。だからどんな穢いことでもやれる。そもそもの前提が、間違っているんだからな……。つまり、その時点でそいつらはどんな間違ったことでもやれるのさ」

「それってもう、心が痛む、痛まないの問題を通り越してるよね」

「しかも、衝動的に人を殺すのとは違う。計画的に人を殺すのさ」

 僕が、母を殺してしまった時に聴こえた暗示の声を思い出す。

「心当たりがあるだろう? そういうことさ」

 僕はその話をする中で、自分の内側で高まった何かを――一度、沈めようとする。

 それはまだ仮の段階だけど、僕の中に、そういう機構が出来つつある。

 待つ勇者――。

 言葉にしてみると、ちょっと変だけど――こうして心が静まってくると、それでいいんだと思える。

 僕が勇者であるのなら、それは自ずとやって来る。

 その「声の主」と、僕は、いつか、その運命によって、決着をつける時が来る。

 だけど、それは今ではない――。

 そういうことなんだ。

「上出来だ」とアルトがいう。「どうやら、本当に勇者としての落ち着きが、お前の中で構築されようとしているらしい」

「まだ試作段階って感じだよ」

「いや――かなりできてきているさ。お前自身が創る勇者像というものは、既に完成に近づいている」

「そうかな」

「お前はもう、安易な正しさや、形式に囚われず、自分の形を見つけようとしているんだよ。そして……事実をゆがめることと、安易な正しさに囚われないということは違う。事実をゆがめるのは犯罪で、安易な正しさにすがるのは思考停止だ。前者は世界を自分の形に合わせてゆがめることで、後者は、自分を世界に合わせてゆがめてしまうことになる……。どちらにしろそれは、どこかに不幸が生まれるしくみなんだよ」

「僕は、僕自身をゆがめようとしていた……」

「そういうことだ。だが今のお前は、良い落としどころを見つけようとしている。そうでないことが不幸であるといえるなら、逆に、今お前が見つけ出そうとしているその場所に、本当の幸福があるともいえるのかもしれない。お前の、勇者としての幸福がな」

 以前の、無理に動こうとして、どこかおかしくなっていた自分自身を続けていれば、僕はそのうち、身体も心もバラバラになっていたような気がする。

 そして、それどころか、世界も救えずに、終わっていた――。

 そんな予感を、ひしひしと感じる。

「お前は世界を救い――尚且つ、幸福にならなければならない。囚われるなよ、ヒロカズ」

「アルトの幸福は?」

「私か? 私は十分幸福に生きて来た。だから……人の幸福を見ている方が楽しいのさ」

 本当かな……と思ったけど、嘘を吐いている感じじゃなさそうだった。

 何にしろ……まずは、自分のことを片付けないといけない。そして、自分が幸福になり、それから、アルトを幸福にする。

 ――アルトを幸福にする?

 何か――それはとてもいい響きで、心の中にずっと残ってしまいそうだ。

「何を考えている?」とアルト。

「いや――」

 僕はアルトの全身を眺める。頭のてっぺんからつま先まで――。

 なぜだろう――この人を幸福にしたいと思った。

 なぜなんだ?

「おい」

 理屈じゃない。変になった僕を見て、そうやって険しい顔をしているところも含めて――全部幸せにしたいと思う。

「ごめん――気の迷いかもしれない」

「何なんだ」とアルト。

 何なんだ、ホント。

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