表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーセナリーガール -傭兵候補生-  作者: 海野ゆーひ
第11話「少女の悩み」
PR
22/50

11-A

 左右から迫る地鳴り。それに伴い、地面がぼこぼこと盛り上がっていく。

 私は剣を構え、後ろへ跳ぶ。


 直後、激しい破砕音を纏いながら地面が爆発し、2本の長い影が姿を現した。


 着地した私は、足のバネを使って地を蹴り、その影へ肉薄。

 横に構えていた剣を振れば、刀身はずぶりとそいつにめり込む。


「!」

 しかし、切断には至らない。


 すぐに剣を抜き、細かくステップして横へ跳べば、その眼前をもう一方の影が通り抜ける。


「くっ」

 足が地に着いたのと同時に、身体を回転させ、また横へジャンプ。


 次の瞬間、直前まで私がいた場所に、胴を斬られた方の影が頭から突撃し、土埃を上げた。



 その長い影は、アースウォームという名のファミリア。

 ミミズをそのまま巨大化させたような見た目だけど、頭と尾の区別が無い。どっちの先端にも、鋭い牙が並ぶ大きな口がある。

 どのくらい大きいかというと、人一人がすっぽり収まってしまうくらいだ。


 そう。こいつらはとにかく大きい。



「ティナさん! 私が囮になります。その隙に斬って下さい!」

「フランカさん?」


 横から走って現れたフランカは、2体のアースウォームの中心辺りへ駆けていく。

 当然、敵は彼女に反応して動き出す。


 隙? こいつらには目が無いけど、振動に対する反応速度を見るに、隙なんてそうそうできるとは思えない。

 でも、考えを巡らせてる暇は無い。考えている間に、フランカがやられてしまう。


 逃げ回るフランカを、地面を砕きながら頭を出し、捕らえようと暴れるアースウォームたち。

 フランカは土や草が舞い散る中を、奴らとほとんど距離を取らずに、必要最低限の動きで攻撃を避け続けている。


 私は、フランカの後ろ側にいる方のアースウォームに目を付け、距離を取りながらじょじょに接近する。

 しかし、地面の振動で獲物を察知し、位置を測るこいつらには、回り込みなんてやはり通用しない。

 地鳴りと共にもう一方の頭が飛び出し、その衝撃で私はバランスを崩してしまった。


「ティナさん!」

 傾いていく視界。その中を突き抜けてくる、フランカの叫び。


「くっ!」

 焦る心を無理矢理抑え込みながら、私は地面に手をつき、それを軸に身体の向きを変えつつ腕を曲げ、バネのように思い切り後ろへ身体を跳ばした。


「うっ」

 直後、そこをアースウォームの口が通り過ぎる。わずかでも飛び退くのが遅れていれば食われていた。その事実が、私の血を冷やす。


 どうしよう。隙が見つからない!


「ティナさん。大丈夫ですか?」

「!」

 いつの間にか、フランカが私の横に来ていた。さっきまで、奴らの間で走り回っていたのに。


「……大丈夫。それより、どうする?」

「囮作戦は、通用しないようですからね……」


 アースウォームたちは、地面に潜り込み、私たちが動くのを待っている。

 少しでも動いて地面に振動を与えれば、すぐさま奴らは攻め込んでくるはずだ。


「2人で1体を相手するなら、なんとかなるんだろうけど……」

「敵も同じ数ですからね……」


 ズズズという重たい音が、地面の下を這い、私の足に伝わってくる。

 奴らは今頃、舌舐めずりをしてるんだろう。私たちの足の下をはしゃぎ回りながら。


「このまま動かずにいるわけにもいきません。なんとかこの状況を打破しなくては」

「だけど、どうすれば……」


 その時、ある案が脳裏をよぎる。

 そのまま通り抜けていきそうだったそれを掴み取り、声に変える。


「2体同時に、地面から頭を出させられないかな」

「2体同時に? どういうことです?」

 私は、両手を使って説明する。


「どうにかして、奴らをこうして向かい合うように誘導するの」

 腕を左右に大きく開き、そこから両手を接近させていく。


「そうして、同時に頭を出させれば、うまくいけば奴らは顔面から衝突するはず。そうすれば、さすがに隙ができるでしょ」

「……なるほど。ですがそれは……」

「わかってる。うまくいくかは、私たちの運にかかってる」


 フランカの瞳を見つめる。

 私はやる気満々。それならあとは、パートナーのやる気次第だ。


「……わかりました。やってみましょう」

 意を決したように、表情を引き締めるフランカ。


 その言葉に、こんな状況にもかかわらず笑みが浮かぶ。


「私は左へ走るから、フランカさんは右へ行って」

「わかりました」

 そして私たちは前を見据え、構える。


「行くよ!」

 私の声を合図に、2人同時に駆け出す。すぐさま地鳴りが激しくなり、地面がぼこぼこと隆起し、それが私へ勢いよく迫ってくる。


 前方から接近してくるそれに対し、ここだと思ったところで身を翻し、全力で走る。

 そんな私を追跡してくる地鳴り。よし、ここまでは作戦通り。

 フランカの方を一瞥すれば、あちらも順調らしいことがわかる。


 さぁて、勝負はここから。


「フランカさん!」

「ティナさん!」

 声を掛け合い、弧を描くように走り、向かい合う。そして、剣を構えて速度を上げる。


「行くよ!」

「はい!」

 みるみる縮まる私たちの距離。そして、私たち自身がぶつかりそうになる直前、地についた足に思い切り力を込め、全力で横へ跳んだ。


 左右別々に跳んでしまったのは、幸か不幸か。


 私たちが跳んだ直後、地面を破砕しつつアースウォームの巨体が現れた。

 奴らも確実に私たちを仕留めるつもりだったんだろう。その速度は、これまでの比じゃない。


 が、そのスピードが仇となり、奴らは勢いよく正面衝突。

 肉の弾ける乾いた音が辺りに響き、私は思わず「やった!」と声を上げた。


 でも、喜んでばかりはいられない。っていうか、喜ぶのはまだ早い。

 瞬時に気持ちを切り替えた私は、ぐらりと倒れ行くアースウォームたちへ向かって走る。


 狙うは、私を追いかけてきた方。フランカも、自分を追ってきた方を狙うはずだ。

 そこまで打ち合わせはしてないけど、信じてるよ、フランカ!


「だああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 声を張り上げ、思い切り振り上げた剣を眼前の敵へ振り下ろす。


 声は敵の身体の向こうからも。フランカの叫びだ。


 弾力のある肉体へずぶっと入り込んだ刀身を、そのまま一気に下まで走らせる。

 アースウォームは、強烈な咆哮を上げて身体をくねらせた。


「ぐっ」

 そのあまりの勢いに吹き飛ばされそうになるけど、どうにか堪える。そして、刀身が地面へ抜けたのを感じ取るのと同時に後ろへ跳んで、距離を取る。


 これで、どうだ!


 呼吸を整える私の前で、アースウォームはのた打ち回っている。

 奴が動くたびに、斬った箇所から生臭い血が噴き出して、雨のように降ってくる。


「!」

 暴れ続けたアースウォームの身体が、半ばまで斬った部分からぶつんと千切れた。


 そのゴムが切れるような音は、もう一つ響く。

 どうやら、フランカもうまくやったようだ。


「ティナさん!」

 びちびちと暴れるアースウォームたちの向こう側から、フランカの声が届く。


「今のうちに、頭を斬り飛ばしましょう!」

「! わかった!」

 そうだ。早くとどめをささなきゃ。身体が真っ二つになっても、こいつらが死ぬとは限らない。


 再び剣を構え、動き回るアースウォームの頭へ駆ける。よほどダメージが大きいのか、私の足音にはもう反応しない。ただただ、釣り上げられた魚のように、地面の上を跳ねるばかりだ。

 激痛で錯乱しているのか、ぐしゃぐしゃと地面を食っている。


 こうなってしまえば、あとは動きをよく見つつ斬っていくだけ。

 ただ、剣の長さよりこいつらの身体の方が太いため、一撃で切断できないのが面倒なところだ。


 それでも、何度も刃を叩きつけることによって、長い胴体から頭を斬り離すことに成功。

 2体分、四つの頭がごろりと地面に横たわった光景は、見ていて気分の良いものではなかったけど、大きな達成感はあった。


 頭を失った胴体は、しばらくビクビクと脈打つように蠢いていたけど、やがてぴたりと動かなくなった。


「終わったぁ~」

 鼻が曲がりそうな返り血を袖で拭いながら、後ろにぺたんと座り込む。


「ティナさん!」

 アースウォームの死体の向こうから、フランカが駆け出てくる。私は彼女に手を振り、「おつかれ~」と声をかける。


「大丈夫ですか、ティナさん」

 そう言いながら私の隣にしゃがむフランカに、「だいじょぶだいじょぶ」と手のひらをひらひらと動かしてみせた。


「フランカさんこそ、怪我は無い?」

 問うと、フランカは「大丈夫です」と白い歯を見せる。


 そして、2人ほぼ同時に首を巡らせる。

 その視線は、眼前のアースウォームを捉えて止まる。


「……危なかった。1人じゃ絶対に倒せなかった」

「そうですね。かなりの強敵でした」

 落ち着いた口調のフランカを一瞥する。


 ……もしかしたら、この人なら1人でも倒せていたかもしれない。ふと、そう思った。



 傭兵候補生期間も、3ヶ月目に入った。


 2ヶ月目に入った頃から、仕事の頻度が上がり、その内容もレベルアップをし続けていったように感じる。

 少なくとも、泥人形や、動きの鈍い蜂みたいな雑魚ファミリアを相手にする機会は減った。


 もしかしたら、最後まで簡単な仕事が続くのかと思っていたけど、やっぱりそんなに甘くはない。

 仕事予定も、途中から大幅に更新されたらしく、最近ではEランクどころかDランク傭兵が相手にするようなファミリアを倒す仕事ばかりだ。


 正直、かなりキツい。私自身の実力的にね。



 そんな中、私はもう何度もフランカに救われた。

 今回のこの仕事だってそうだ。彼女がいなかったら、私は今頃食われて死んでいた。


 だけど、私がフランカを救ったことは、記憶にある限りではほぼ無いに等しい。

 それがもどかしくて、悔しかった。


 今、私とフランカの実力差は、一体どのくらい大きくなっているのだろう。

 一体、いつからこれほどの差を感じるようになった?


 どれだけ頑張っても、彼女は私の一歩先にいる。そんな気がして、こうして敵を倒したことを、素直に喜べない。


 できるだけ、顔や態度には出さないようにしているけど。



「どうされました? ティナさん」

 私の気持ちなんか露知らず、フランカはいつもの調子で接してくる。


「……なんでもない。さ、ノエリアさんを探しに行こう」

 言ってから、ちょっと声に棘があったかなと後悔しつつ、立ち上がる。


「そうですね。行きましょう」

 しかし、フランカは気にする素振りもなく立って、歩き始めた。私は、一歩遅れてその後を追う。



 ……無意識にフランカの背中を睨むように見ている自分に気付き、彼女に悟られないように、私は静かに首を振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ