11-A
左右から迫る地鳴り。それに伴い、地面がぼこぼこと盛り上がっていく。
私は剣を構え、後ろへ跳ぶ。
直後、激しい破砕音を纏いながら地面が爆発し、2本の長い影が姿を現した。
着地した私は、足のバネを使って地を蹴り、その影へ肉薄。
横に構えていた剣を振れば、刀身はずぶりとそいつにめり込む。
「!」
しかし、切断には至らない。
すぐに剣を抜き、細かくステップして横へ跳べば、その眼前をもう一方の影が通り抜ける。
「くっ」
足が地に着いたのと同時に、身体を回転させ、また横へジャンプ。
次の瞬間、直前まで私がいた場所に、胴を斬られた方の影が頭から突撃し、土埃を上げた。
その長い影は、アースウォームという名のファミリア。
ミミズをそのまま巨大化させたような見た目だけど、頭と尾の区別が無い。どっちの先端にも、鋭い牙が並ぶ大きな口がある。
どのくらい大きいかというと、人一人がすっぽり収まってしまうくらいだ。
そう。こいつらはとにかく大きい。
「ティナさん! 私が囮になります。その隙に斬って下さい!」
「フランカさん?」
横から走って現れたフランカは、2体のアースウォームの中心辺りへ駆けていく。
当然、敵は彼女に反応して動き出す。
隙? こいつらには目が無いけど、振動に対する反応速度を見るに、隙なんてそうそうできるとは思えない。
でも、考えを巡らせてる暇は無い。考えている間に、フランカがやられてしまう。
逃げ回るフランカを、地面を砕きながら頭を出し、捕らえようと暴れるアースウォームたち。
フランカは土や草が舞い散る中を、奴らとほとんど距離を取らずに、必要最低限の動きで攻撃を避け続けている。
私は、フランカの後ろ側にいる方のアースウォームに目を付け、距離を取りながらじょじょに接近する。
しかし、地面の振動で獲物を察知し、位置を測るこいつらには、回り込みなんてやはり通用しない。
地鳴りと共にもう一方の頭が飛び出し、その衝撃で私はバランスを崩してしまった。
「ティナさん!」
傾いていく視界。その中を突き抜けてくる、フランカの叫び。
「くっ!」
焦る心を無理矢理抑え込みながら、私は地面に手をつき、それを軸に身体の向きを変えつつ腕を曲げ、バネのように思い切り後ろへ身体を跳ばした。
「うっ」
直後、そこをアースウォームの口が通り過ぎる。わずかでも飛び退くのが遅れていれば食われていた。その事実が、私の血を冷やす。
どうしよう。隙が見つからない!
「ティナさん。大丈夫ですか?」
「!」
いつの間にか、フランカが私の横に来ていた。さっきまで、奴らの間で走り回っていたのに。
「……大丈夫。それより、どうする?」
「囮作戦は、通用しないようですからね……」
アースウォームたちは、地面に潜り込み、私たちが動くのを待っている。
少しでも動いて地面に振動を与えれば、すぐさま奴らは攻め込んでくるはずだ。
「2人で1体を相手するなら、なんとかなるんだろうけど……」
「敵も同じ数ですからね……」
ズズズという重たい音が、地面の下を這い、私の足に伝わってくる。
奴らは今頃、舌舐めずりをしてるんだろう。私たちの足の下をはしゃぎ回りながら。
「このまま動かずにいるわけにもいきません。なんとかこの状況を打破しなくては」
「だけど、どうすれば……」
その時、ある案が脳裏をよぎる。
そのまま通り抜けていきそうだったそれを掴み取り、声に変える。
「2体同時に、地面から頭を出させられないかな」
「2体同時に? どういうことです?」
私は、両手を使って説明する。
「どうにかして、奴らをこうして向かい合うように誘導するの」
腕を左右に大きく開き、そこから両手を接近させていく。
「そうして、同時に頭を出させれば、うまくいけば奴らは顔面から衝突するはず。そうすれば、さすがに隙ができるでしょ」
「……なるほど。ですがそれは……」
「わかってる。うまくいくかは、私たちの運にかかってる」
フランカの瞳を見つめる。
私はやる気満々。それならあとは、パートナーのやる気次第だ。
「……わかりました。やってみましょう」
意を決したように、表情を引き締めるフランカ。
その言葉に、こんな状況にもかかわらず笑みが浮かぶ。
「私は左へ走るから、フランカさんは右へ行って」
「わかりました」
そして私たちは前を見据え、構える。
「行くよ!」
私の声を合図に、2人同時に駆け出す。すぐさま地鳴りが激しくなり、地面がぼこぼこと隆起し、それが私へ勢いよく迫ってくる。
前方から接近してくるそれに対し、ここだと思ったところで身を翻し、全力で走る。
そんな私を追跡してくる地鳴り。よし、ここまでは作戦通り。
フランカの方を一瞥すれば、あちらも順調らしいことがわかる。
さぁて、勝負はここから。
「フランカさん!」
「ティナさん!」
声を掛け合い、弧を描くように走り、向かい合う。そして、剣を構えて速度を上げる。
「行くよ!」
「はい!」
みるみる縮まる私たちの距離。そして、私たち自身がぶつかりそうになる直前、地についた足に思い切り力を込め、全力で横へ跳んだ。
左右別々に跳んでしまったのは、幸か不幸か。
私たちが跳んだ直後、地面を破砕しつつアースウォームの巨体が現れた。
奴らも確実に私たちを仕留めるつもりだったんだろう。その速度は、これまでの比じゃない。
が、そのスピードが仇となり、奴らは勢いよく正面衝突。
肉の弾ける乾いた音が辺りに響き、私は思わず「やった!」と声を上げた。
でも、喜んでばかりはいられない。っていうか、喜ぶのはまだ早い。
瞬時に気持ちを切り替えた私は、ぐらりと倒れ行くアースウォームたちへ向かって走る。
狙うは、私を追いかけてきた方。フランカも、自分を追ってきた方を狙うはずだ。
そこまで打ち合わせはしてないけど、信じてるよ、フランカ!
「だああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
声を張り上げ、思い切り振り上げた剣を眼前の敵へ振り下ろす。
声は敵の身体の向こうからも。フランカの叫びだ。
弾力のある肉体へずぶっと入り込んだ刀身を、そのまま一気に下まで走らせる。
アースウォームは、強烈な咆哮を上げて身体をくねらせた。
「ぐっ」
そのあまりの勢いに吹き飛ばされそうになるけど、どうにか堪える。そして、刀身が地面へ抜けたのを感じ取るのと同時に後ろへ跳んで、距離を取る。
これで、どうだ!
呼吸を整える私の前で、アースウォームはのた打ち回っている。
奴が動くたびに、斬った箇所から生臭い血が噴き出して、雨のように降ってくる。
「!」
暴れ続けたアースウォームの身体が、半ばまで斬った部分からぶつんと千切れた。
そのゴムが切れるような音は、もう一つ響く。
どうやら、フランカもうまくやったようだ。
「ティナさん!」
びちびちと暴れるアースウォームたちの向こう側から、フランカの声が届く。
「今のうちに、頭を斬り飛ばしましょう!」
「! わかった!」
そうだ。早くとどめをささなきゃ。身体が真っ二つになっても、こいつらが死ぬとは限らない。
再び剣を構え、動き回るアースウォームの頭へ駆ける。よほどダメージが大きいのか、私の足音にはもう反応しない。ただただ、釣り上げられた魚のように、地面の上を跳ねるばかりだ。
激痛で錯乱しているのか、ぐしゃぐしゃと地面を食っている。
こうなってしまえば、あとは動きをよく見つつ斬っていくだけ。
ただ、剣の長さよりこいつらの身体の方が太いため、一撃で切断できないのが面倒なところだ。
それでも、何度も刃を叩きつけることによって、長い胴体から頭を斬り離すことに成功。
2体分、四つの頭がごろりと地面に横たわった光景は、見ていて気分の良いものではなかったけど、大きな達成感はあった。
頭を失った胴体は、しばらくビクビクと脈打つように蠢いていたけど、やがてぴたりと動かなくなった。
「終わったぁ~」
鼻が曲がりそうな返り血を袖で拭いながら、後ろにぺたんと座り込む。
「ティナさん!」
アースウォームの死体の向こうから、フランカが駆け出てくる。私は彼女に手を振り、「おつかれ~」と声をかける。
「大丈夫ですか、ティナさん」
そう言いながら私の隣にしゃがむフランカに、「だいじょぶだいじょぶ」と手のひらをひらひらと動かしてみせた。
「フランカさんこそ、怪我は無い?」
問うと、フランカは「大丈夫です」と白い歯を見せる。
そして、2人ほぼ同時に首を巡らせる。
その視線は、眼前のアースウォームを捉えて止まる。
「……危なかった。1人じゃ絶対に倒せなかった」
「そうですね。かなりの強敵でした」
落ち着いた口調のフランカを一瞥する。
……もしかしたら、この人なら1人でも倒せていたかもしれない。ふと、そう思った。
傭兵候補生期間も、3ヶ月目に入った。
2ヶ月目に入った頃から、仕事の頻度が上がり、その内容もレベルアップをし続けていったように感じる。
少なくとも、泥人形や、動きの鈍い蜂みたいな雑魚ファミリアを相手にする機会は減った。
もしかしたら、最後まで簡単な仕事が続くのかと思っていたけど、やっぱりそんなに甘くはない。
仕事予定も、途中から大幅に更新されたらしく、最近ではEランクどころかDランク傭兵が相手にするようなファミリアを倒す仕事ばかりだ。
正直、かなりキツい。私自身の実力的にね。
そんな中、私はもう何度もフランカに救われた。
今回のこの仕事だってそうだ。彼女がいなかったら、私は今頃食われて死んでいた。
だけど、私がフランカを救ったことは、記憶にある限りではほぼ無いに等しい。
それがもどかしくて、悔しかった。
今、私とフランカの実力差は、一体どのくらい大きくなっているのだろう。
一体、いつからこれほどの差を感じるようになった?
どれだけ頑張っても、彼女は私の一歩先にいる。そんな気がして、こうして敵を倒したことを、素直に喜べない。
できるだけ、顔や態度には出さないようにしているけど。
「どうされました? ティナさん」
私の気持ちなんか露知らず、フランカはいつもの調子で接してくる。
「……なんでもない。さ、ノエリアさんを探しに行こう」
言ってから、ちょっと声に棘があったかなと後悔しつつ、立ち上がる。
「そうですね。行きましょう」
しかし、フランカは気にする素振りもなく立って、歩き始めた。私は、一歩遅れてその後を追う。
……無意識にフランカの背中を睨むように見ている自分に気付き、彼女に悟られないように、私は静かに首を振った。




