新たなるモノ
皆様御無沙汰しております。
いつも見ていってくださってありがとうございます。
これからも頑張りますので是非是非ご声援のほどよろしくお願いします。
光真と早紀は『Tarot Quest』についての話を終えて一緒に教室に戻り、ようやくの昼飯にありつく。屋上の帰りに食堂で買ったおにぎりとパンだ。
こう言っては失礼だがおにぎりはカツオ、パンはシナモンパンという売れ残り感が全開のラインナップだった。
話の先に買うべきだったと心の中で後悔しながら光真は自分の席につく。
ご飯といい、さっきの事といい今日は精神的にも、肉体的にも、金銭的にもグッタリだ。
するとおにぎりの包みを剥がしたところで、前の席の椅子に茶髪でツンツン頭の調子のいい少年、不破純也が後ろ向きに座る。
「光真ちゃん、早紀ちゃんとなにしてたの?まさか愛の告白?」
「そう見えるんだったら、眼科にでも行った方がいいんじゃないか……」
早紀に告白などとんでもない。もし屋上なんかでしたら昔ガリレイもピサの斜塔で行った落体の実験をその身で体験する事になる。。鉄球でやってくれ、鉄球で。
『Tarot Quest』の事は伏せて、純也に事の顛末を話す。すると純也は愉快そうにすかした笑みを浮かべる。
「まあそんなところだと思ったけどね。光真ちゃん鈍いし」
そう言われれば、確かに危機回避能力がかけていたような気がする。以後気をつけようと光真は胸に刻み込んだ。
「それより光真ちゃん、光真ちゃん。あの娘にアタックして見たんだけどさぁ、受け入れる、断る以前に反応がなかったんだけど……」
それよりとは何事だ財布にとっては死活問題だぞ、と心の中で反論しつつ純也が目配せをする方に目をやる。千鳥は席にはついておらず、どこかに出かけているらしい。転校初日なら委員長の楪希あたりが学校を案内して回ってるかもしれない。
「転校生の千鳥小夜だったっけ?それよりもうアタックしたのかよ。お前のせいで運動部=硬派っていう俺のイメージがどんどん壊れていっているぞ」
「光真ちゃん、男ってのは欲望に忠実な生き物なんだよ」
「全世界のストイックな男性に謝れ」
こいつの一言に真面目な人まで巻き込まれるのは忍びない。まあ一部にはその通りかもしれないが。
「あの転校生はなかなか気難しいと思うぜ。いくらお前でも無理だろ」
純也は背も高く、顔も良く、スポーツ万能という事でモテることはモテる。
成績についてはお察しください。
だからこそ結構な修羅場を体験しているという噂も聞いたことがある。
「世の中って思い通りに行かないものだねぇ」
純也がそう小さく呟くと同時に五限目を知らせるチャイムが鳴る。
世の中は思い通りにはならない。確かにその言葉は真実かもしれない。
「でもそれに抗うために皆戦ってるんだよな……」
もう一つの世界を念頭に置きながら、まどろみの中に落ちていく。
スコーン。
教室に快音が響き渡る。光真はようやくそれが自分の頭上で発生したものだと気付いて目をこすりながら顔を上げる。そこには怒髪天を衝くとばかりに怒っている二年C組の担任、もとい那須野凛がいた。怒っているとはいっても、その年の割に幼い印象から迫力ではなく萌え要素を含んでいるようにも思われる。
「ゲッ!凛ちゃん?なんでここに……この時間は仏の稲尾先生のはずなのに……」
「鬼で悪かったな」
スコーン。
もう一度出席簿が唸りをあげて光真の頭の上に振り下ろされる。
ご存知だろうか、出席簿しかも角の威力は眠気を吹き飛ばすどころかヘタをしたら記憶を吹き飛ばすほどだ。
「時間割変更だ、バカモノ。大体先生によって寝るかどうかを決めるな。」
凛が舌足らずな言葉を切って、光真の席から踵を返し教壇に戻る。
「放課後、進路指導室に来い。説教はそこでだ」
「ちょっと待ってくださいよ!俺にも私生活ってものがですね……」
「返事は?」
「はい……」
凛の流し目の睨みに光真はズコズコと引き下がるしかなかった。凛は怒っている姿が怖いのではない、やることがえげつないから怖いのだ。
光真は放課後に控える非公開処刑に心を砕いていた。
ふと横をみると、こちらを一瞬チラッと見つめた転校生の千鳥小夜の無感情な一対の黒い瞳が光真には不思議に感じられた。
授業が終わっても今日は平穏が訪れることはない。
早紀や純也に別れを告げて光真は一人階段を降りて一階に向かう。
数歩歩いたところで、進路指導室とゴシック体で書かれたドアをノックしてからガラリと開ける。
「おお逃げずに、来たなまあそこに座ってくれ。」
「逃げたら一番被害食うの俺じゃないですか……」
「紅茶がいいか、それともコーヒーがいいか?」
光真の返答には耳を貸さず凛は湯沸かし器を持って尋ねる。
「じゃあ紅茶でお願いします。」
すると小さな引き出しがたくさん付いた週刊誌ぐらいのサイズのタンスをゴソゴソと漁っている。どうやら凛はこういうことには結構こだわるタイプらしい。
それよりもこの進路指導室には凛の私物と思える物で溢れかえっている。
テーブルクロスといい、さっきのポッドやタンスといい進路指導室を私物化するのはいかがなものだろうか。
「ハイ」
しばらくの沈黙の後、凛が淹れた紅茶を光真の前に差し出す。
とても良い香りが漂ってくるが、光真は紅茶の品種に詳しいわけではないのでダージリンやらアッサムやらなどは分からなかった。
礼儀正しく光真のと同じ紅茶を啜っている凛に向かって光真は声をかける。
「俺をここに呼んだ理由はなんですか?別に説教だけなら教室でも構わないでしょう」
「一生徒との親交を深めるという理由ではだめか?」
凛は幼さの残る表情に似合わないわざとらしい笑みを浮かべる。
どうやら光真をからかっているらしかった。
「そこまで言うなら話そうか。しかし君は本当によく眠れるな。いや私は感心しているのだよ?朝の朝礼に始まり終礼まで一度も目覚めることなく過ごすことができる人間は、あまり長くはないとはいえ私の教師人生で君が始めてだ。宿題は出さないわ、挙げ句の果てにはテスト時間にも寝るとは君は一体何をしに学校に来ているんだ?君ももう高校生二年生だぞ。そろそろ大学に進学することを考えなければいけない時期に来ているんだぞ。君と仲のいい鳥宮はその辺を考えて日々暮らしているはずだ。その影響を受けて少しは頑張ろうとは思わないのか?」
「すいませんでした……」
多少怒られることは想定していたが、流石にここまでのマシンガントークを仕掛けられるとは光真は予想だにしていなかった。凛の口を極める説教ーー罵詈雑言の一言一言が光真の胸に突き刺さり、それほど長い時間ではなかったはずだが、かなりの間針の筵に座っているような気分だった。
「さて、本題に入ろう」
凛がさっきの辛辣な口調から一転、真剣な口調に変わる。
「本題って、さっきの話が本題じゃなかったんですか?」
突然の凛の話題転換に光真は懐疑の念を抱く。凛の方も一呼吸つき、重々しくその小さな口を開く。
「君は『Tarot Quest』というゲームを知っているか?」
光真は即座に言葉を返さなかった、と言うより返すことはできなかった……
お疲れ様でした。
次の話こそはゲーム世界に戻ると思います。
是非是非楽しみにして待っていてください!




