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Tarot Quest  作者: KINSYO
10/21

一夜明けて

皆様ちょっとお久しぶりです。

第十話となります。

今回は日常パートなので気楽に楽しんでください。


見慣れた天井で目を覚ます。

時計を見ると十二時きっかり。日付も変わっていない。どうやらあの黙示録の通り、影の一日(シャドウ・デイ)とやらは真実らしい。あんなに濃密な時間を過ごしておいて全く時間が立っていないというの、にわかには信じ難い。

あの後、オルレアン 、ノルマンディーの辺りの空白都市を領有してフランス中部を支配下に置く一大クランにのし上がった。

とは言え空白都市を占領しただけなので、クランにはVRゲームの初心者が多く戦力の増強が急務になっている。

あのゲームで肉体的には疲れていないものの、様々なことがあったので精神的にはグッタリだ。

「今は寝るか……」

光真は再びまどろみに落ちていく……


ちゅん、ちゅん、ちゅん、鳥の綺麗な声で目を覚ます……わけはない。

そんな都合の良いものはマンガやアニメの中だけだ。

フォーカスオンバーチャルの目覚まし機能ーー設定時刻の付近で身体が一番浅い眠りの時に起こしてくれるーーで目を覚ます。

これのおかげで日本全国の寝坊、遅刻が減ったらしい。開発者は今頃ウハウハな生活を送っていることだろう。

母親は既に家を出て行っている。はとても遅く、朝はとても早い、そんな生活を送っていて倒れないのか光真はいつも不思議に思っている。

いつもの通り制服を着て、適当にパンをかじり身支度を済ませて家を出る。

光真はギリギリまで寝ていたいタイプなので、手早く用意したとしても学校に着くのは結構ギリギリだ。

五月も末になってくると、やや湿気を帯びた生暖かい風が流れて不快指数もぐんぐん上がって来る。光真は夏の時期がそれほど好きではない。光真は完全にインドア派であるので、甲子園を目指すわけでもなければインターハイを目指すわけでもない。つまり夏の時期に特段何かがあるわけでもないので、暑さを運んで来る夏は嫌いなのだ。

訳の分からない戦争ゲームに巻き込まれ、光真は昨日あった事を回想しながら雪菜の一言を胸で何度もリピートしながら学校の門まで辿り着く。

教室に着くとそこではいつもと変わりない風景が目の前に広がった。

『Tarot Quest』の影響はまだ学校までは広まっていないらしい。それにホッと一息安心すると、ポツンと机に突っ伏している早紀が目に入る。

早紀が学校に来て眠るなんて珍しい、というか見た事もない。ますます昨日のゲームの疲れによるものだとと確信を深くして、一言声をかける。

「お前が眠ってるなんて珍しいな。昨日何かあったのか」

早紀は右手で目をこすりながら眠たそうな顔をこちらに向けて来る。

「あんたの勉強を教えてあげたんじゃない。それのせいよ」

「その後何かあったんじゃないか?」

「何にもないわよ。そのまますぐに寝たし……」

しかし光真は早紀が一瞬表情を曇らせたのを見逃さなかった。

「Tarot Questという言葉に心当たりは?」

「……」

早紀が普段から美しい目を丸くして、光真を見つめる。

「どうやら、何か知っているようね。昼休みに屋上で話しましょう」

そこで担任の那須野凛がHRのために教室に入って来る。

凛の話を流して聞きつつ、あの甲冑の騎士の正体が早紀だとわかって安心したような、不安になったような相反する感情が同時に心に浮かぶ。

「それじゃあ、転校生を紹介するぞ。入って来てくれ」

非日常な一言で我に返ると、色素を感じさせない白い肌、対象的に漆黒と言っても良い腰まで伸びた髪。何よりも注目すべきは形の整ったその顔、目、唇などどの部分からでさえ一切の感情が感じられないという事だ。

千鳥小夜ちどりさよです。よろしくお願いします」

ぺこりと一切無駄のない、あらかじめプログラムされた機械のように動きで頭を下げる。

「そこが空いてるからそこに座れ。それじゃあ授業の用意をしろよ」

そう言うと凛はそそくさと教室から退散する。

ところで空いている席というのは光真の右隣であったが、光真は特に気に留める事もなく、昼休みの事に意識を飛ばしていた。


全く上の空で授業を受け続けて、ようやく四時間目の数学の授業が終わる。

普段なら食堂に昼食を買いにいく時間だが、今日はそれどころではない。

朝話した通りにすぐに屋上へと向かう。

光真は極度の一級在宅士《引きこもり》なので屋上に出た経験などないが、どうやらそもそも生徒があまり立ち入らないところらしい。だからこそ早紀がこの場所を選んだのだろうが。

既に早紀は一足早く屋上に来ていて、手すりに体を預けていたが光真の気配に気づくとおもむろにこちらを振り向く。

「どうしてあんたがTarot Questの事を知ってるの?」

早紀が開口一番、腕を組んでその質問を繰り出す。

「俺もそのゲームをやっていたからな。そりゃ知ってることは知ってる。早紀は恐らくそのゲームに無理矢理巻き込まれたんだろ?」

「ええそうよ……目が覚めたらマクデブルクってところにいたわ。そこで師匠に拾われて軍隊の司令官になったというわけ。」

早紀は非常にサバサバと状況を告げる。

「ちょっと待て、お前ゲームメッチャヘタだったよな?」

光真の言葉を聞くと早紀はばつが悪そうに目を逸らす。

「……能力よ、能力。だから初心者でも司令官なのよ。」

「ふ~ん、お前、アルカナは?」

早紀はついには白々しく手で風を仰ぎ始める。

「ひ、人にものを聞く時は、自分から言いなさいよッ!」

今度は光真が言葉に詰まる。しかしこのままでは話が進まないので、恥を忍んで渋々告げる。

「『愚者』だよ……」

「きゃっはっはっはっは!『愚者』?あんたにぴったりじゃない!」

早紀は腹を抱えてゲラゲラ笑い出す。涙さえ浮かべている様だ。この光景は前にも見た気がする。

「……で?お前のアルカナは?」

「……」

「……」

「……」

「いや、はよ言わんかい。」

思わず関西弁になってしまうほどの無駄な時間を過ごした気がする。まだご飯も食べていないのに。

「『恋人』よ、『恋人』!何か文句ある!」

ギロリと一瞥をくれる早紀。光真には文句はないのだが、早紀の深層心理からこのアルカナが出てくるとは露ほども思わなかった。

「『恋人』は回復魔法が使えるでしょ。だから司令官になれたの!」

早紀は顔に紅葉を散らすかのように赤面している。

「せっかく師匠にここまでしてもらったのに昨日パリで負けちゃったんだから!」

そこまでできるということは、師匠というのは〈暁の幻魔団〉の中でもかなり重要な役割を果たしているのだろう。

そんな冷静な考察をしている間もなく新たな危機に直面する。


Q1.昨日パリで〈暁の幻魔団〉を破ったクランはどこですか?

A1.〈閃光の師団〉です。

Q2.その〈閃光の師団〉を率いているのは誰ですか?

A2.速川光真です。


「ははは、勝ち負けは兵家の常だよ」

背中に一筋の冷や汗が流れる。ばれたらリアルアタックも止むを得まい。

弓道部の矢なんか食らったら軽い怪我では済まないだろう。

「で、なんであんたが私がそのゲームをしてるのを知ってんの?」

全体、回れ右!教室に戻れ!

光真が一歩目を踏み出すと同時に奥襟をガッと掴まれる。

「何で逃げるの?まさか昨日戦った相手って……」

光真は自分に冷静になれ、と心の中で念じ続ける。いくら勘の鋭い早紀と言えども真実を知っているわけではない。

「あんた昨日パリにいなかったわよね?」

「い、いるわけ、な、ないじゃないか。」

「ホント?」

「サーセン……」

怖いものは怖い、人間だもの。

その後決しておごる約束をしたクレープが二倍になったとか、そんなことはないはずだ、うん。

本日快晴なり。運動場もカラッカラ。光真の財布もカラッカラだ。








次からは普通にバトルパートだよ~!

そう思いたいですね。

いつも駄文にお付き合いいただき誠にありがとうございます。

これからもご声援のほどよろしくお願いします。

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