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9『伊能、盗賊のアジトを突き止める』

 集落から少し北に行った森の中にて。


「狩りをするにも木を集めるにも、森の内部を知っておかねばならぬ」

「道理ね。けど、イノーちゃんって測量のこととなると、どうしてそんなにうれしそうなのかしら?」

「だって、測量じゃぞ!? 土地を測る! と・ち・を・は・か・る、のじゃぞ!? こんなに楽しい仕事はあるまいっ」

「う、うーん……」


 ずんずんと森を西へと進んでいくイノーに、ジスカは大人しくついて行く。

 測量の何がそんなに楽しいのか、ジスカにはまるで理解できない。

 が、理解はできずとも判断はできる。

 つまり、放っておけばイノーが単身で森の奥深くまで突き進んでしまうということが。

 そして、イノーは頼りになる反面、非常に弱いということが。

 1人で森に行かせてしまったら、一角ウサギのひと突きであっさり死んでしまいかねない危うさが、イノーにはつきまとっている。

 だからジスカは、イノーから目が離せない。


 加えて言うと、イノーは目を離すと寝食を忘れて測量に没頭するところがある。

 見ていないと、本当に倒れかねないのだ。


(本当に、どうしようもない人。本当、本当に……)


「【測量】!」


 イノーが唱えると、数百メートル先までの範囲がパッと光った。

 光はすぐに収まる。


「【地図化】!」


 続いて、イノーが半透明の窓のようなものを表示させた。


「見てもいい?」

「うむ」


 のぞき込んでみると、まるで空から見下ろしているかのような詳細な地図が描かれていた。

 どこに木があるのか、どこに動物が潜んでいるのか、すべて丸見えだ。


「本当に、とんでもない魔法ね。あ、ウサギ見っけ。狩っていい?」

「帰りに、な。ジスカや、この辺りの地理について知っていることを教えてくれぬか?」

「え? うん!」


 ジスカはイノーに頼ってもらえることがうれしい。


「この辺りは、ケルブ様っていうお貴族様の領地なの。とはいっても、ここは領地の中でも最西端のド田舎なんだけどね。東のほうへ行けば、大きな街があるって聞くわ」

「ふむ」

「北のほうに小山が見えるでしょ? あの山を超えた先は、別のお貴族様の領地なの。村では、『山の向こうには絶対に行くな』って厳しく言われてた。『行ったが最後、捕まえられて奴隷にされる』って」

「よくない領主なのか?」

「らしいわね。ま、もっとも、私は山を超えるまでもなく奴隷にされちゃったわけだけど」

「ま、まぁまぁ。今はもう違うではないか」

「そうね。イノーちゃんには本当に感謝してる」


 2人は北へ数百メートルほど進む。

 イノーが再び、


「【測量】!」


 と唱える。

 土地が一瞬だけパッと輝き、地図化される。

 ジスカに測量のことはよく分からないが、イノーがとてつもなくすごいことをやっているのは分かる。

 普通は何日もかかるのであろう仕事を、一瞬で終わらせてしまっているのだから。


「立ち入ったことを聞くが、ジスカの村は、口減らしをせざるをえないほど困窮しておったのか?」

「……作物を作っても、盗賊に奪われてしまうのよ」

「そうか、盗賊か。ナタンも言っておったのぅ」


 2人は北に進んでいく。

【測量】と北進を繰り返すうちに、くだんの小山が見えてきた。

 絶対に近づいてはならない山。

 物心ついたころから、大人たちにさんざん脅されてきた。


「では、測量距離を目一杯伸ばして――【測量】!」

「え? 光らなかったけど」

「範囲を示すために光らせることもできるし、光らせないこともできるのじゃ」

「便利ね。でも、どうして光らせなかったの?」

「奴らに気づかれたら面倒じゃろう?」

「奴らって? 隣領のお貴族様?」

「違う違う。盗賊団じゃよ」

「と、盗賊!? なんで居場所が分かったの!?」


 ジスカは仰天する。


「賊が潜むのは境界線、と相場が決まっておるのじゃ」

「どういうこと?」

「ジスカ自身が言ったのではないか。『ここいらは貧しい』『東には大きな街がある』と。つまり、ケルブ領の中心から最も遠いここは、お貴族様の守護が行き届いていない場所なのじゃ。しかも、あの小山は隣領との領境。下手に軍を派遣しようものなら、隣領領主を刺激してしまう」

「刺激、というと?」

「最悪、盗賊退治どころではなく、隣領との係争になってしまう」

「けいそう?」

「つまりは戦争じゃ」

「大変じゃない!」

「じゃから、領主というのは境界線に手を出したがらない。じゃから、境界線は治安が悪化しがち。じゃから、賊は境界線に好んで潜むのじゃよ」

「そ、それで……いたの?」

「いた。洞窟の中に、男どもが13人」

「じゅ、13人も……」

「得るべき情報は得た。戻るとしよう」

「そ、そうね」

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