8『アーチャー少女、伊能の「癖」を知る』
翌朝、ナタンはウサギ肉と毛皮を馬車に山盛り積んで帰っていった。
馴染みの仕立てギルドに毛皮を卸し、その一部を冬の備え――防寒具として還元してもらうためである。
ナタンはジスカが仕留めたウサギの毛皮を、ずいぶんと褒めていた。
いわく、傷が脳天にしかないのが素晴らしい、無傷な面積がたくさん取れる、とのこと。
ジスカとしては、イノーに指示された強さ・角度で撃っただけなので、なんともむずがゆかった。
何にせよ、テオをはじめ子供たちが寒さに震えずに済むのはよいことだ。
「のぅ、ジスカや」
そんな感慨にふけりながらナタンの馬車を見送っていると、隣の美しき少女――イノー・タダタカが話しかけてきた。
ジスカはわずかな緊張と、圧倒的な喜びを感じる。
この人が何か言ったり何かするたび、目の前の光景が、世界が、劇的に動くのだ。
それも、決まってよい方向に。
「な、何?」
「このあたりの冬は、どのくらい寒くなるのじゃ?」
「イノーちゃんってば、本当に変なところで非常識ねぇ」
元来、お姉ちゃんキャラで売ってきたジスカは、ついつい余計なことを言ってしまう。
が、イノーはニコニコ笑うばかりで、村の大人たちのように嫌な顔をしたりはしない。
それがまた、ジスカの心を快くくすぐる。
「川が凍ったりはしないけど、池とか瓶の水なら凍るわよ」
「凍る、か。冬に向けて、隙間だらけの家屋を補強せねばな。して、冬はいつ来る?」
「まだまだ先よ」
「何日後じゃ?」
「えっ、日!?」
ジスカは驚き、戸惑う。
が、今や自分はイノーに頼ってもらっているナンバーツー。
そして、ナンバーワンのイノーはすごく頼りになるくせに、ジスカでも知っているような常識がすっぽり抜けているところがある。
「ええとええと」
この一言が、集落の存亡を決めるかもしれない。
ジスカは今まで生きてきた経験・記憶を総動員して、必死に数えた。
「た、多分……150日後、くらい?」
「ほほう!」
果たして、イノーの表情が明るくなった。
「まさしく、『まだまだ先』じゃな。誤差や勘違い、文化差を鑑みて1ヵ月は前倒しに動くとしても、まだ半年以上ある。安心したわい」
それからイノーが、宙空を見上げながらブツブツとつぶやきはじめた。
イノーの『考えモード』だ。
この状態になったイノーは、いつだって劇的な『何か』を発する。
その『何か』が集落のためになることもあれば、ならないこともある。
果たして今回は――、
「衣食住が一通り整ったところで――」
「ところで?」
「測量じゃぁ!」
「はぁ?」




