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7『お人好し商人、井戸を掘る』

「掘ってた……って言ったよな? ぜんっぜん掘れてねぇんだが?」

「いやぁ、このとおり力仕事ができる者がおらんでのぅ」

「ったく」


 ナタンは腕まくりをし、農具を手に取った。


「すぐっ」


 ――ザクッ


 と、地面が掘り返される。


「近くにっ」


 ――ザクッ


「川がっ、あるっ、ってのにっ、なんでっ、井戸をっ?」

「井戸水のほうが、安心できるからじゃ。川の水は、幼子には毒じゃ」

「あー……道理だな」


 確かに、川の水はよく腹を下す。

 子供たちにとっては、致命的かもしれない。


「ここから水が出るのは確かなのか?」

「保証する」

「証拠は?」

「ワシの【測量】の結果――」

「イノーちゃん!」


 少女イノーが、隣の少女ジスカに言葉をさえぎられた。


「あぁ、ええと、まぁ、勘じゃ」

「おいおいおい、勘って」

「仮に水が出なくとも、ミスリル鉱石はお主のモノじゃ」

「ふぅ、ならいいさ」


 ナタンは農具を振るい、少しずつ井戸を掘り進めていく。


「お姉ちゃん!」


 しばし無心で掘り進めていると、見知った男児がジスカに駆け寄ってきた。


「テオ。落ち葉は集め終わったの?」

「うん。お姉ちゃん、お腹すいた」

「ウサギ肉があるでしょ」

「ウサギ飽きたぁ~」

「なんて贅沢な! お姉ちゃんは、テオをそんなふうに育てた覚えはありませんよ!」

「お姉ちゃんに怒られたぁ~! びえぇ~~~~ん!」

「あぁ、あぁ、もう、怒ってないってば」


 ぐずる男児テオを、少女ジスカが叱ったりなだめたりしている。


(幸せそうだ。あの、おびえきって震えていた子供が……)


 ナタンはなんだかほっこりし、男児に笑顔を取り戻させてくれたイノーのことを好ましく思った。


「とはいえ」


 そのイノーが、ため息をついた。


「実際、食については悩みが尽きぬのじゃ。ウサギが潤沢に獲れるから、飢え死にの心配はない。が、この3日間、本当にウサギ肉しか食っておらんでのぅ。米――じゃなかった、パンと野菜も食わねば、体によくない。あぁちなみに、テオや、今夜はパンとスープも出すぞ。楽しみにしておれ」

「えっ、そうなの!? やったぁ!」

「じゃから、枯れ葉と枯れ木をたくさん集めるのじゃ。やれるか?」

「はーい!」


 ぐずっていたのが嘘のように、テオが仕事に戻っていった。

 ジスカがテオとイノーを交互に見てから、嫉妬と尊敬が入り混じった複雑な表情でイノーを見た。

 そんなジスカを観察しながら、ナタンは内心、ジスカに同情した。


「とはいえ」


 イノーが、再びのため息。


「今日買った食料も、明日で尽きるじゃろうな。もっとパンと野菜を買いたいのじゃが」

「悪いが、食料は最果ての村も欲しがっていてな。向こうとのほうが付き合いが長いから、どうしても、な」

「最果ての村、とは?」

「あぁいや、俺が勝手にそう呼んでるだけなんだが、ほら、その子たちを売った……」

「あぁ……」


 イノーが言葉を濁す。

 ジスカがうつむいた。


「まぁその、あの村も家畜や作物を盗賊団に奪われて大変って話なんだが」

「盗賊? そんなものまで出るのか?」

「ま、ここはケルブ領の最辺境だからな」

「辺境……境界……賊……ふむ」


 少女イノーが、子供らしからぬ思慮深い目で、遠くを睨んでいた。





   ◆   ◇   ◆   ◇





「分かっちゃいたが……」


 夕方。

 半日掘り続けたナタンは、肩をバキバキと鳴らした。


「俺1人で何とかなる話じゃねぇぞ、これ」


 ナタンの言葉のとおり、1メートルも掘れていない。


「むぅ。いっそ、掘り終わるまでこの集落にいてもらうというのはどうじゃろう?」


 伊能は懐から別のミスリル鉱石をチラ見せする。


「いやいやいや、俺にも商売や生活があるんだって」

「そうか、残念。まぁとにかく、今日は泊まってくだされ。ウサギ肉なら腐るほどあるでのぅ」

「お言葉に甘えて」

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