エピローグ(1/2)
伊能村に平和が戻ってきた。
……いや、これを平和と呼んでよいのかどうかは、人によるかもしれない。
「どいてくれ! ミスリル鉱石のお通りだ!」
舗装された石畳の上を、ミスリル鉱石を満載した馬車が行く。
馬車は、村の中心にドドンと構えた工房の裏庭へと吸い込まれていく。
――わいわいっ
――がやがやっ
――やいのやいのっ
かつては数人しか住んでいなかったはずの寒村は、今や何百人もの人々が常時行き交う立派な『街』になっていた。
人々の出自は様々だ。
旧東村の狩人たち、
癒し一角ウサギのウワサを聞きつけてやってきた冒険者、
ミスリル採掘場で働く鉱夫、
イノーブルクや王国各地からやって来た鍛冶師、
労働者たちを目当てにやって来た行商人、
床屋、風呂屋、居酒屋など同じく労働者を目当てに店を開いた者たち。
とある昼下がり、伊能は定期見回りのために西村を歩いている。
隣を歩くのは、アーチャー少女・ジスカだ。
「人、増えたねぇ」
ジスカが朗らかに言う。
出会ったころこそ大人全般を敵視していたジスカだが、今はもう大人に敵意を向けることもない。
何より、ドラゴンと戦ったあの夜――父にかばってもらったことと、その後、父と和解したことが利いたのだろう。
(すっかり丸くなったのぅ)
日にち薬は、ちゃんと効いたのだ。
「なぁに、イノーちゃん?」
「何でもない。最近、一緒に狩りに行けておらんのぅ」
「寂しいけど、仕方ないわよ。イノーちゃんは今や、飛ぶ鳥を落とす勢いの領主様なんだから。けれど」
ニヤリ、とジスカが笑う。
伊能が周囲を鼓舞したり、リラックスさせるときに使う笑い方だ。
「イノーちゃんの護衛の役目だけは、誰にも譲らないからね」
「ふぉっふぉっふぉっ、頼りにしておるとも」
「どいたどいたっ! 精錬したてのミスリル鋼様のお通りだ!」
先ほど入ったのとは別の馬車が、工房から出てきた。
先ほどから、馬車が北へ南へひっきりなしに行き交っている。
西村の南の採掘場でミスリル鉱石を採掘し、西村で精錬し、それをイノーブルクで製品化する――そういう流れが、すでに確立されているのだ。
いや、『西村』『東村』という表現は、もはや正しくない。
急速な人の増加に伴い、ドワーフたちを始めとする大工たちが退去して押し寄せてきて、東西の間をあっという間に切り開き、たくさんの家を建ててしまったからだ。
今やすっかり整備された石畳の街道には、1日に何度も馬車が往来している。
南のミスリル採掘場、北のイノーブルク、遠く東のケルブルク(ミスリル武具・ミスリル道具の巨大市場 兼 王国中への輸送拠点)。
そんな巨大な流れの中核にあるのが伊能村であり、さらにその心臓部とも言えるのが、旧西村の工房――そう、旧ベリアブルクにあったドヴァリンたちの工房だ。
王家直属の宮廷魔法使いというものはすさまじく、【アイテムボックス】という空間操作魔法でどんな大きな物でも出し入れしてしまう上級魔法使いが在籍している。
その【アイテムボックス】使いがドヴァリンたちの工房を虚空からズルリと引きずり出す瞬間を目にしたときは、さしもの伊能もおっ魂消たものだった。




