44『伊能、国王に謁見する』
「てーっ!」
伊能の号令とともに、ミスリル砲弾が2倍速で射出された。
果たして砲弾は――、
104メートル75センチ6ミリ先を飛んでいたドラゴンの翼を貫き、さらにはその胴体にめり込んだ。
「次弾装填! 急げ急げ急げ!」
ドラゴンが小麦畑に墜落した。
風が巻き起こり、黄金色の小麦がキラキラと舞い上がる。
ドラゴンがもがきながらも首をもたげ、ブレスの予備動作を始める。
「方向、よし! 仰角、21度下げ! てーっ!」
ライフリング、ミスリル砲弾、【エアリアル・ブースト】。
伊能の知識、
伊能のスキル、
ドヴァリンたちの鍛冶の腕、
ギデオンたちの砲兵としての腕、
ドラゴンをここまで弱らせたサムソンの体力と武力、
そして、辺境伯の身でありながら、自ら最前線に現れたリリンの胆力。
それらすべてが合わさった一撃が――、
ドラゴンの頭部を、吹き飛ばした。
役目を終えた大砲は、今度こそ砕け散った。
◆ ◇ ◆ ◇
数日後。
「おもてを上げよ」
伊能は、王都は王城の謁見の間で膝をついていた。
和装ではなく、豪奢なドレスを身につけている。
伊能自身よく忘れそうになるが、今の彼は銀髪美少女なのである。
伊能にドレスを与えた幼女――リリンが、隣で顔を上げた。
それを薄っすら横目で見ていた伊能は、同じように顔を上げた。
眼前、威風堂々と王座に座っているのは、国王陛下だ。
カナン王国の規模感から言えば、藩主どころか征夷大将軍にすら匹敵するお方である。
「そなたが、年若きドラゴンスレイヤーか」
国王の声にはカリスマ性があった。
その泰然とした笑みからはオーラのようなものを感じる。
リリンもたいがい大きいが、このお方はもっと大きい。
「こたびの働き、見事であった」
「お、恐れ多いことでございます」
「褒美は何がよい? 金銀財宝か? 伝説級の武具か?」
「そ、そのようなものは。それがしにはもったいのぅございまする」
「何も要らぬと申すのか?」
「いえ、実は……」
伊能はリリンをチラリと見る。
リリンが小さくうなずいたので、国王を見上げ、告げた。
「もしご迷惑でなければ、とあるご許可を賜りたいのでございます」
「何の許可だ?」
「測量です。それがしは、土地を測って地図にするのが3度の飯よりも好きでございますれば」
「はははっ、測量か! 面白い娘だな」
「実は、ミスリル鉱脈を見つけたのもイノーなのです」
リリンが補足した。
――ざわり
と、謁見の間に居並ぶ宮廷貴族たちがざわめく。
「条件が2つある」
王が告げた。
「1つ、地図の写しを余に献上すること。2つ、その土地の領主の許可を取ること。手始めに、ケルブ辺境伯はどうか?」
「喜んで受け入れましょう。第2のミスリル鉱脈の発見が楽しみです」
――ざわざわっ
宮廷雀たちがますますさえずる。
地形情報を王家につかまれるというリスクと、ミスリルなどの鉱脈が見つかるかもしれないというチャンスを天秤にかけているのだ。
「ところで陛下」
とリリン。
「質問をお許しいただけますか?」
「申してみよ」
「ははっ。例の件はいかがなりましたでしょうか」
「依然として、連絡は来ておらぬ」
「ということは」
「うむ。その可能性が極めて高い」
国王が立ち上がった。
「イノーよ、ベリアル伯領全土の測量を許可する! また、王家直轄領もすべて測量してよいぞ。追って通行手形一式を渡そう」
「うっひょ~っ!」
嬉しさのあまり、時と場合を忘れて飛び上がる伊能である。
リリンが肩をすくめて、
「はぁ~……これさえなければ、完璧なのじゃがなぁ」
「まずはベリアル伯領だ。くまなく捜せ。必ずや見つけ出すのだ」
宮廷雀たちがざわめきを止めた。
領主不在のままの測量許可、国王の意味深な指示……その意味を悟ったからである。
◆ ◇ ◆ ◇
さらに数日後、
「うっひょ~!」
和装の伊能はサムソンとともに軍馬にまたがり、ベリアル伯領をくまなく探検していた。
「ちょっとイノーちゃぁ~ん、興奮しすぎて落ちないでよぉ~ん?」
「【測量】!」
伊能が唱えると、四方数百メートルが即座に地図化される。
地図は伊能の脳内に寸分違わず蓄積されていくので、帰ってから羊皮紙に書き出すことも容易だ。
数百メートル進んで、【測量】。
数百メートル進んで、【測量】。
風のような速さで測量していき、伊能たちはものの1週間でベリアル伯領全土を地図化させてしまった。
そして……、




