43『伊能たち、力を結集させる』
砲弾はドラゴンの下顎にめり込み、顎を砕き、ドラゴンをのけぞらせた。
……。
…………。
……………………が、それだけだった。
「あぁ……そんなっ」
さしもの伊能も、悲痛な声を上げてしまう。
至近弾であった。
2度と訪れないほどの絶好の機会だった。
しかも、伊能たちはその機会を余すところなく最高の形で使い切った。
……なのに、倒せなかった。
ドラゴンが羽ばたき、飛び上がった。
――ゴォォオオオオオオオオオオオオオオッ!
灼熱のブレスが、伊能たちに襲いかかる!
「【パペサタン・パペサタン・アレッペ・プルート――第二地獄暴風】ッ!!」
猛烈な風が巻き起こり、ブレスを上空へ吹き飛ばし、さらにはドラゴン自体すらをも舞い上げた。
「あはぁっ、危ないところじゃったのぅ」
伊能たちの前にひょっこりと現れたのは、幼き領主・リリンだ。
「は、ははは……なるほどのぅ。ウワサの地獄級風魔法使いとは、あなた様のことでしたか」
「ふふん、敬うがよいぞ」
(圧倒的じゃなぁ、魔法使いの力というものは。じゃが……)
「そう。余の魔法は、ドラゴンとは相性が悪い」
伊能の心を読んだかのようなタイミングで、リリンが言った。
「じゃが、見ておったぞ、イノー。そなたのミスリル砲弾ならば、奴の強固な甲殻をも破ることができるじゃろう」
空では、ドラゴンが体勢を整えつつある。
「ギデオン!」
リリンが短く命じると、ギデオンたちが大急ぎで2発目のミスリル砲弾を装填しはじめた。
さらなる風魔法を警戒しているのか、ドラゴンは中・低空をものすごいスピードで飛び回りはじめた。
こちらの隙を突いて、ブレスを浴びせかけようとしてくる。
が、大きく息を吸い込んだタイミングで、サムソンが剣(ギデオンたちが持ってきた)で攻撃を仕掛けるため、ブレスを撃てない。
ドラゴンとサムソン、千日手の様相を呈しているが、サムソンはすでに一晩中戦ったあとだ。
いつまでもこの状況は続けられないだろう。
「イノー、撃て。必ず当てよ」
泰然とした笑みとともに、リリンが言う。
「いや、当てたところで、あれにミスリル砲弾は効かぬのですぞ?」
「いいや、効く。なぜなら、地獄級風魔法使いたる余が、飛翔体の速度・威力を倍加させる上級魔法【エアリアル・ブースト】を大砲と砲弾にかけるからじゃ」
「信じますぞ? 速度はきっかり2倍なのですな?」
「きっかり2倍じゃ」
「承知」
今、ドラゴンは時速数十キロもの速度で中・低空を飛び回っている。
いくらライフリングが施されているとはいえ、高速移動体に大砲を当てるのは現代地球でも現実的ではない。
普通、ああいう相手には数十、数百発もの弾を『面』としてぶつけることで、命中させるものなのだ。
だというのに今、手元には2発しか残っていない。
「【測量】ッ!」
だから伊能は、自分が唯一使えるスキルを最大出力で使った。
ありったけの魔力を注ぎ込み、脳が焼き切れるほど集中して、ドラゴンを測り、量る。
ドラゴンの現在高度、進行方向、速度、目線、筋肉の動き。
加えて、この数分のうちにドラゴンが見せた軌跡、運動の癖、性格。
様々な諸元が伊能の脳に蓄積されていく。
異世界に生を受けて、半月あまり。
度重なる使用により、伊能のスキル精度はもはや『未来視』の域に達しつつあった。
「方向、よし! 仰角、3度上げ!」
「【熱】!」
ドヴァリンがミスリル砲弾を絶妙の熱加減でわずかに熱膨張させ、ガッチリとライフリングに噛み合わせる。
続いて、
「【エアリアル・ブースト】!」
リリンの詠唱と同時、大砲が光り輝く。
「待て、待て、待て……てーっ!」
リリンの言葉どおり、砲弾は2倍速で射出された。
大砲にヒビが入った。
果たして、果たして砲弾は――、




