42『死闘』
結果として、ドヴァリンたちは合計3発の硬質なミスリル砲弾を製造することに成功した。
だが、3発目が完成したとき、すでに東の空が白くなりはじめていた。
「まずいぞ、早く撤退せねば!」
明るくなってしまうと、伊能たちはドラゴンや小麦畑の魔物たちから丸見えになってしまう。
いかな超人のサムソンといえども、ドラゴンを引きつけながら魔物も倒すのは無理というものだろう。
サムソンがドラゴンの注意を引いてくれている間に、一行は領境の小山まで駆け抜けなければならないのだ。
ドヴァリンがルーベンを背負い、ドワーフたちがミスリル砲弾をそれぞれ抱える。
ジスカは弓を構え、伊能の指示でいつでも撃てるようにしている。
「行くぞ!」
伊能たちは工房をあとにし、全速力で南下。
やがて門をくぐったが、そのころにはもう、辺りが薄っすらと照らし出されていた。
――オォォオオオオオオオオオオオオッ!
ひときわ大きな怪物・トロールと目が合った。
「ジスカ、構え! 方角、よし! 仰角、1度上げ! 撃て! みなの者、走れ走れ走れ!」
魔物たちが、一行に気づいた。
四方八方から迫りくる!
眼球を貫かれたトロールが、ゆっくりと倒れる。
そのすぐそばを、伊能たちは駆け抜ける。
だが、何十体もの魔物たちに回り込まれてしまった。
四方八方からつかみかかられ、殴られる。
ジスカが弓で応戦するが、1対数十では話にならない。
伊能は身の丈2メートル以上のオーガに殴られ、首をつかまれて釣り上げられた。
「かっ……はっ……」
(息ができない……っ!)
いや、窒息死するのが先か、首を握り潰されるのが先か。
(助けてくれ……神様、仏様、誰でもいい。誰か、助けてくれ!)
伊能は、祈る。
(ジスカたちを、助けてくれ!!)
轟音。
と同時に、オーガの首が吹き飛んだ。
伊能は放り出された。
続いて、魔物たちが矢に射抜かれ、次々と倒れていく。
「ごほっ……これは……?」
「イノー村長殿、大丈夫ですか!?」
伊能を抱き起こしてくれたのは、
「ギデオン殿? どうしてここに?」
砲兵派遣隊隊長のギデオンだ。
砲兵隊が、ライフリングが施された大砲の再装填を行っている。
先ほどのオーガは、大砲に撃ち抜かれたのだ。
大砲の左右には、東村の弓兵部隊が展開していた。
錬金術師のリベカもいる。
ジスカやドヴァリンたちも魔物に傷を負わされていたが、みなポーションで回復しつつあった。
「我らが君が、国王陛下に直談判してくださったのです。そのため、こうして堂々と立ち入ることができました」
ギデオンが、伊能の『どうして越境することができたのか』という意味の問いに答える。
大砲と弓のさみだれ攻撃により、目下、伊能たちを取り囲んでいた魔物たちは一掃された。
だが、小麦畑には依然として何百体もの魔物たちが潜んでいる。
状況は緊迫しているはずなのに、ギデオンたちに悲壮感はない。
どういうことか、と周囲をうかがって、伊能は目を疑った。
小麦畑で巨大なハリケーンが巻き起こり、何百体もの魔物たちを空の彼方へ放り投げていたからだ。
(なんと! ウワサの地獄級風魔法使い殿が来てくださったということか? それゆえ、ギデオン殿たちはかように落ち着いておるのじゃな)
「それで、ミスリル砲弾は?」
「そうじゃったな。3発だけじゃが、製造に成功したぞ。ドヴァリン殿たちが持っておる」
「承知いたしました」
ギデオンの号令で、砲兵たちがミスリル砲弾を装填しはじめる。
「それで、ドラゴンは?」
「サムソン殿が引きつけてくださっておる。おっと、ウワサをすれば、じゃ」
「やっほー! ギデオンちゃ~ん!」
全身汗だくのサムソンが、猛スピードで城門から出てきた。
その背後からは、ドラゴンが迫りくる。
さすがに飛び疲れたのか、ドラゴンが伊能たちの目の前に着地した。
つまり、至近距離でミスリル砲弾を叩き込むための、またとない機会が訪れたのだ。
「方角、よし! 仰角、2度上げ!」
「【熱】!」
ドヴァリンの魔法による加熱により、ミスリル砲弾がライフリングにガッチリと噛み合った。
「てーっ!」
伊能の号令で、ミスリル砲弾が射出された。
――ガキィィィイイイイイイインッ!
砲弾はドラゴンの下顎にめり込み、顎を砕き、ドラゴンをのけぞらせた。
……。
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