40『アーチャー少女、父の愛を知る』
「…………」
ジスカは、居心地が悪い。
隣に男――自分がかつて『父』と呼んでいた者が立っているからだ。
今、ジスカは男と2人で工房前の通りに立ち、見張りをしている。
頼みのサムソンは、
『ドラゴンを直接目視できるポイントを探してくるわぁ~ん』
と言ってどこかへ去ってしまった。
「ジスカ」
「…………」
「こっちを向いてくれ、ジスカ」
ジスカは顔を背ける。
「……すまなかった」
「……?」
恐る恐る男のほうを見て、ジスカは仰天した。
あの父が、深々と頭を下げていたからである。
「謝って許されるとは思っていない。だが、今はイノー村長の元で結束すべきときだ。難民組に対して、我々東西村の面々が規範を示さなければならない」
男の言葉はどこまでも正論だ。
テオたちを売ろうと発言したあの夜と、同じ正論。
「……っ!」
イノーが口にする正論ならば、まだ我慢できる。
だが、この男の正論は我慢ならなかった。
「やめてよ……!」
思わず、声が大きくなってしまった。
どこかで、風を打つ音。
だが、ジスカは頭に血が昇ってしまって、その音に気づけない。
「テオは……ううん、ノアもミカもヨナもダンもみんな、自分たちが捨てられたことに気づいてすらいないのよ!? そんなにも幼くて無分別な子供を、あんたは――」
「そっちに行ったわよぉ~!」
そのとき、遠くからサムソンの声が届いてきた。
「……え?」
それでようやくジスカは、激しい風の音に気づいた。
ドラゴンが羽ばたく音に。
恐怖で凍りそうになりながら、空を見上げる。
空を覆わんばかりの巨体――ドラゴンと、目が合った。
――ゴォオオオオオオオオオオオッ!
ドラゴンが炎のブレスを吐いた。
(あ、駄目、死――)
そのとき、ジスカは男に突き飛ばされた。
「鬼さんこっちよぉ~!」
サムソンが鍋か何かをガンガン叩く音が聴こえる。
ドラゴンが音のほうへと飛んでいった。
「う……ん……?」
ジスカは、自分が黒焦げになってしまったのだと思っていた。
が、痛みはなく、体はヤケドのひとつも負っていない。
……が、
「あ、あぁ……」
ジスカの目の前に、男が倒れていた。
ジスカをかばい、半身に大ヤケドを負ってしまった、男が。
「お父さん!」
ジスカはずいぶん久しぶりに、男のことを『父』と呼んだ。




