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39『伊能たち、無事潜入する』

 一行は暗くなる前に西村を出て、領境――小山の頂上に到達した。

 ここから北は、ベリアル伯領である。


「見えるか、ジスカや」


 夕日に照らし出された広大な小麦畑を指さして、伊能が言う。


「そこかしこに蠢いておるのが、魔物たちじゃ」

「怖がらせようったって無駄よ」

「はぁ……強情な奴じゃなぁ」

「どの口が」


 一行は日が完全に沈むのを待ってから、明かりも点けずに下山した。

 小麦畑に入る。

 魔物の中には夜目や鼻が利くものが多い。

 が、伊能の【測量】のほうがなおすごい。

 何しろ、現代地球の衛星写真よりも高解像度で、夜でも昼とまったく同じ調子で測量結果が伊能の脳裏に展開されているのだ。

【測量】スキルを精密モードで展開している間、伊能は虫1匹すら見逃さない。

 もっとも、その精度にすると普通に疲れるし魔力の回復が追いつかなくなるので、索敵対象を小動物サイズにまで引き上げているが。


「……一同、停止せよ。20メートル先にオーガの集団。西方向へ向かいつつある。このままやり過ごすぞ」


 一行はそのように行動する。


「進むぞ。北北西230メートル先にオークの集団がおるから、くれぐれも物音を立てぬように」


 そんな調子で、伊能たちは進んでは立ち止まり、時に方向転換をしたりして――


「城壁が見えてきたのぅ」


 何度かひやりとする場面もあったものの、一度も会敵することなく、小麦畑を渡り切ることができた。

 ベリアブルクの壁が、月に照らし出されている。

 門は開け放たれたままだった。


「いる?」

「おるのぅ」


 サムソンの問いに、伊能は答える。


「幸いなのは、ドラゴン以外はいないことか」

「食物連鎖の頂点でしょうしねぇ」

「ドヴァリン殿、案内してくれ」

「こっちだ」


 一行は門をくぐり、北へ。

 ほどなくして、ドヴァリンたちが運営している鍛冶師ギルドの工房が見えてきた。


「なるほど、これは」


 工房を見上げ、さらには工房の中に入るに至り、伊能は心の底から納得した。


「工房の中に炉があるというより、炉の中に工房があるといった様相じゃのぅ」


 極太の煙突、広大な工房の実に4分の1を占める巨大な炉。

 風魔法によるフイゴと空気圧縮装置、山と積まれている高級コークス。


「さっそく始めるぜ」


 ドワーフたちが工房内に明かりを灯し、各自背負っていた大荷物――ミスリル鉱石を下ろした。

 迷いのない動きで定位置に着いていく。


「では、ワシらは外で見張りに立つとするか」

「いやいやいや、嬢ちゃんはここにいてくれ。嬢ちゃんでなきゃ、ミスリル鉱石を上手く割れない。嬢ちゃんがいれば、作業効率が段違いなんだよ」

「じゃあ、見張りはアタシたち3人で、ねぇ~ん」

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