37『辺境伯幼女、政治の世界で戦う』
ドワーフたちと難民によるミスリル採掘が始まった。
一方の伊能と弓兵部隊は、引き続きオークその他への対処である。
慌ただしい中で、数日が経った。
綱渡りのような幸運が続いて、ドラゴンは未だ伊能村の存在に気づいていない。
一方そのころ――
◆ ◇ ◆ ◇
「リリン・ド・ラ・ケルブが王国の太陽にご挨拶申し上げます」
リリンは王城にいた。
カナン王国国王その人に、こうべを垂れる。
「おもてを上げよ」
壮年のカナン王が、泰然と微笑んだ。
「久しいな、ケルブ辺境伯。また一段と大きくなったのではないか?」
「そうですか? 自分ではなかなか気づけないものですね」
リリンもまた、ふわりと微笑んでみせる。
今のリリンは豪奢な真紅のドレスを着ている。
「それで、話とは?」
「はっ。我が領の西端にて、ミスリル鉱脈が発見されました」
――ざわり
と、謁見の間がざわめいた。
居並ぶ宮廷貴族たちが、さっそくヒソヒソ話をしはじめた。
貴重なミスリル利権にどうやって噛もうか相談し合っているのだ。
「陛下あっての王国。王国あっての我が少領。ミスリルの安定供給が成ったあかつきには、ぜひとも陛下に献上させていただきたく」
「ふふっ、先々代から我が盾として王国を支えてくれておるケルブ辺境伯の忠誠を疑ったりはせぬよ。まぁ、買い付けの優先権は欲しいところだか」
「恐れ多いことでございます」
王を試すようなことすら口にできるのは、先々代、先代、そして当代の辺境伯が王の信頼に応え続けてきたからにほかならない。
「しかしながら、1点、懸念がございます」
――ぴたり
宮廷貴族たちが口をつぐみ、耳をそばだてた。
『小娘が王に対して何か要求するのではないか?』
『幼いくせにこれといったミスを見せたことのないケルブ辺境伯が、ミスリル発見に浮かれてついにミスをするのではないか?』
と期待しているのだ。
「ミスリル鉱脈のすぐそば、隣領のベリアル伯領にドラゴンが現れたのでございます。それも、体高数十メートル級の」
――ドラゴン!?
――数十メートル級だなんて、王都に現れたら甚大な被害が……
――ベリアル伯も運がない……
「同領都ベリアブルクは壊滅。ここから先は、伯の名誉に関わることであるため、陛下のお耳にだけお入れしたいのですが……」
宮廷雀たちの嫉妬と羨望の眼差しを一身に受けながら、リリンは別室へと案内される。




