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36『伊能、地獄級風魔法使いの存在を知る』

「もっと硬い砲弾があれば、倒せたのかもしれないのにねぇ~」


 夕方、伊能はサムソンやギデオン用に割り当てられた新築の家で食卓を囲んでいた。

 驚くべきことに、ドワーフたちが1日で建ててしまったのだ。

 テーブルに着いているのは、伊能、ジスカ、ルーベン、サムソン、ギデオンら砲兵派遣隊、そしてドヴァリン。


「もしくは、地獄級の魔法とかね」

「地獄級? えらく不穏な響きじゃが」


 サムソンの発言に、伊能が食いつく。


「破壊魔術の等級よぉん。初級、中級、上級、地獄級。初級火炎魔法は薪に火を点ける程度のもの。中級で、炎の矢。このレベルの使い手がいれば、戦闘は格段に楽になるわぁん。上級で、大爆発。上級魔法使いは一騎当千の働きをするわよ」

「一騎当千とはすごいのぅ!」

「さらに地獄級ともなれば、街ひとつを丸々火の海にすることも」

「なんと!? ドラゴンに匹敵するではないか!」

「匹敵するわねぇ。実を言うと、我らがケルブ辺境伯領にも1人だけ、地獄級風魔法使いがいるの」

「げほげほっ」


 ギデオンがむせた。

 彼は『言っていいの!?』という顔でサムソンを見上げる。

 サムソンがギデオンにウインクした。


「なんと! そのお方にここに来ていただければ――」

「だ・け・ど、その人も領内で身分のある人だから、ベリアル伯に無断でベリアル伯領に入ったら係争沙汰になっちゃうのよ」


(なるほど。そのお方は辺境伯領領軍内でサムソン殿に次ぐお役職、ということなのかのぅ)


「あと、本人に言ったらめちゃくちゃ拗ねられちゃうんだけど、ドラゴンとの相性もよくないのよねぇ」

「というと?」

「地獄級風魔法は超巨大なハリケーンを巻き起こす魔法なのぉ~ん。街ひとつを根こそぎ吹き飛ばせるほど強力なんだけどぉ、一方で炎みたいに相手に直接ダメージを与える魔法ではないの。人間の軍勢やゴブリンの集団相手に対しては、はっきり言って無敵の魔法よ。軍勢を丸ごとお空の上に巻き上げて、魔法を切れば墜落死体の出来上がり。なんだけど、全長数十メートルのドラゴン相手には、どこまで通用するか」

「なるほど。相手は空を飛ぶしのぅ。とはいえ、そんなお方がここに来てくださることができれば、なんと心強いじゃろうなぁ」

「リリンちゃん閣下も、同じことを考えているのよ。なんとかベリアル伯と連絡をつけて、領内への立ち入り許可をもらおうとしているの。けれど……」


 サムソンがため息をつく。


「どこに手紙を送っても、返事が来ないそうなのよねぇ。ベリアル伯領内の主要な村々、各ギルド、それと王城に手紙を出しているそうなんだけど」

「王城にも?」

「領主には、王に対して常に居場所を開示しておく義務があるのよぉ~ん」


(あぁ、謀反防止か)


「王様すらベリアル伯の居場所をご存じないということですかな? いくら領都ベリアブルクから避難しているとはいっても、手紙くらい、避難先からでも出せそうなものですが」





「領主様は、俺ら領民を見捨てやがったのさ」





 ドヴァリンが吐き捨てるように言った。

 ドヴァリンが淡々と告げる。

 衛兵たちはろくな指示も与えられず、混乱の極致に陥っていたこと。

 領主の馬車が街を出るのを見た者が多数いること。

 領主の館で務めるメイドたちが包丁や鍋などを持たされ、『死ぬまで戦え』と命じられたこと。


「難民の中にも、そういったメイドが混じっている」

「それは……絵に描いたような悪徳領主じゃのぅ」


 前世も今も村民を第一に考える村長である伊能としては、なかなか信じがたいことである。


「なるほどねぇ~ん。いくらドラゴンが相手とはいえ、戦闘の指揮はおろか、避難の指示すら出さずに自分だけ逃げ出したんじゃ、領民も王様も絶対に許さないでしょうねぇ。これはもう、雲隠れするしかない。だから実際、そうしたってわけね」


 サムソンがため息をつく。


「これじゃますます、地獄級風魔法使いをベリアル領へ連れていくのは絶望的ね。と・い・う・わ・け・でぇ、魔法使い頼りにせず、こっちはこっちでより硬い砲弾を開発に乗り出したほうがいいんじゃないかしら?」

「ふむ、分かった。じゃが、よいのか(・・・・)?」

「ちょうど今、リリンちゃん閣下にお伺いを立てているところよぉ~ん」

「相変わらず用意のよい男じゃのぅ」


 ――クルッポー


 窓枠に鳩が止まっていた。


「ウワサをすれば、ね」


 サムソンが鳩の足から手紙をほどく。


「ふむふむ。リリンちゃん閣下から、『ミスリル鉱脈のありかを開示してもよい』とのお達しよ」

「ミスリル鉱脈だって!?」


 ドヴァリンが叫んだ。


 ――ミスリル鉱脈!?

 ――今、ミスリル鉱脈って言ったか!?


 近隣のドワーフたちが、一斉に駆け込んできた。

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