34『伊能、ドラゴン退治を決意する』
「さて。攻撃の準備は整ったが、果たしてどうすべきか」
西村でウサギ肉パーティーを開きながら、伊能は思案していた。
「さっそく撃つんじゃないのぉ~ん?」
ウサギ肉をガツガツ食べながら、サムソンが尋ねてくる。
「いやぁ、向こうがこの村に襲来してくるならばもちろん迎撃するが、わざわざ藪の中の蛇を引きずり出すこともないじゃろう? 難民たちの話によると、あれは火を吹くそうではないか。西村や東村を火の海にされてはかなわぬ」
「まぁ、それもそうなのよねぇ。そもそも、あのドラゴンはベリアル伯が何とかするのが筋なんだし。で・もぉ~」
サムソンが北の森へ視線を向ける。
「ぼちぼち、次の『波』が来そうな気がするのよねぇ」
「なぬ?」
伊能は遠く細く領境にまで【測量】を飛ばした。
「むむっ!? 何やら二足歩行の異形が複数! なぜじゃ、ゴブリンどもは殲滅したはずでは!?」
「サイズはどのくらい?」
「2メートル近くあるな。ガッチリとしていて、顔はなんとなく豚に似ているような?」
「オークねぇ~ん。ゴブリンよりはずっと強い種だけど、ドラゴンのプレッシャーに耐えきれなくなったってところかしらぁ~ん」
「なんてこと……」
◆ ◇ ◆ ◇
数時間後、午後に接敵した。
オークは5体しかおらず、弓が十分に通用したため、一方的に勝つことができた。
が、伊能は憂鬱だった。
「また数時間後にはオークの別集団……。つまり、ドラゴンを倒すまでこの不毛な戦いが続くというわけか」
「どうするのぉ~ん、イノーちゃん?」
「サムソンちゃん殿とギデオン殿方はご協力いただけるのでしょうか?」
「協力するわぁ~ん。何なら囮に使ってくれたって構わないわよ」
「えっ!? 囮はさすがに」
即答のサムソンと、戸惑うギデオン。
「税を受け取っている以上、民を守る責任がアタシたちにはあるし。何より、あのドラゴンを放置していたら、いずれはケルブ領を襲いに来る可能性があるわけだしねぇ。ただし、アタシたち従士はベリアル伯の許可なくベリアル伯領に立ち入ることはできないの」
「係争、工作を疑われるからか。例えばワシがベリアル伯領に立ち入った場合は?」
「王国内を旅人や行商人が行き来することは許されているから、問題はないわよぉん」
「ドラゴンというのは、どの程度の知能を持っておるのじゃ? つまり、2キロメートル先から狙撃したとして、報復に来られるほどの知能や執念を持ち合わせておるのか?」
「飛ぶことができるわけだから、2キロメートルというのは奴らにとっては大した距離じゃないわぁ~ん。けど知能はゴブリン並かそれ以下だから、撃った直後にアタシたちが隠れれば、見つけ出すことはできないと思うわよぉ。もちろん、探しに来た先で村――つまりこの村を見つけて、襲いかかってくる可能性もゼロではないけれどぉ」
「仮にそうなったとき、リリン辺境伯閣下はワシらを保護してくれるかのぅ?」
「するわ。大砲の話を持っていったときに、その話も取り付けてある」
「ありがたいことじゃ」
伊能は立ち上がり、周囲を見回した。
「ワシはこれから、ドラゴン退治に向かおうと思う。反対する者はおるか?」
ジスカも、ルーベンも、東村の男たちも、何も言わない。
ただ、信頼の眼差しで伊能を見つめている。
「すまぬな。ありがとう。では、メンバーを告げる。攻撃隊は、ワシ、サムソン殿、ギデオン殿以下砲兵派遣隊のみなみなさま、ドヴァリン殿、そしてジスカじゃ。他の者たちは東村に避難し、いざとなったらより東のほうへ避難できるよう、身支度を整えておいてくれ」
「「「「「はっ」」」」」




